第28話 面会


 車から降り、あたし達はハルの後をついていく。

 何でも、この街の偉いヒトと面会するらしい。


『エルフの里』って言うから、自然が豊かな場所だと勝手に想像していたけど……想像通りだった。


 でも、自然そのままのまったく手をつけられていない状態ではなく、道路は整備されているし、建物も区画整理がされている。

 それと、生い茂っている木々もいくらか剪定されていた。


 すると、前方に人影が見えた。

 軽鎧を身に着けたヒト達が数人いて、その真ん中に豪奢な格好をした老人がいた。

 それと全員、耳が鋭く尖っていた。


 ハルと副隊長は足を止め、そのヒトに向かって騎士風の敬礼をする。


「ダイヤモンド帝国から支援部隊として参りました、隊長のラインハルト・ローエングリンです」

「同じく副隊長のリチャード・タンホイザーです」

「遠路はるばるようこそおいでなすった。ワシはこの里の里長のアル・アジフと申す。支援に感謝するよ」

「いえ。この里で今現在起きている出来事には、我が国の第一皇女殿下も心を痛めておいででしたから」

「そうかい。帰国したら、皇女殿下に感謝の礼を伝えておいてもらえると助かるよ」

「承りました」

「して……そちらは?」


 すると老人―アルさんがあたし達の方に視線を向けてくる。

 ちなみにこの老人が、アイナ達キャリー姉妹の祖母にあたるらしい。

 ハルの屋敷を出発する前に、その辺りの事を教えてくれていた。


「彼女達は私の補佐役です。『星霊』相手にはとても頼りになる二人ですので、今回の作戦に参加させました。聞けば、『エルフの里』周辺には、『星霊』が出没しているとか」

「そうなのですよ。まあ……直接的な被害が無い事だけは不幸中の幸いではあるんだがね。今は『星霊』なんかよりも、もっとタチの悪い連中がいるからね」

「何でも、クーデターが起きたとか?」

「その辺の事は、落ち着ける場所で話そう。……お前達。この方々をワシの屋敷まで案内してやりな」

「「「ハッ!」」」


 アルさんがそう指示を出すと、彼女の周りにいたヒト達が一斉に大きな声で返事をする。


 それからあたし達は、そのヒトの案内でアルさんの屋敷へと向かった―――。




 ◇◇◇◇◇




 アルさんの屋敷はまさかの日本家屋風の造りで、きちんと(?)畳敷きの和室もあった。


 そこに通され、座布団の上に正座で座る。

 マシロは足を少し横に流していた。


「慣れた様子だが……二人は今回が『エルフの里』に来るのが初めてなんだよな?」

「……? 今更何よ? 当たり前でしょ?」


 未だに座らないハルに対して、あたしはそう答える。

 すると彼の口から、意外な事実が告げられた。


「いやなに。タタミの上に限らず、床の上に座る習慣があるのは『エルフの里』と、その周辺の街くらいにしかないからな。二人共慣れた様子だったから、もしやと思ったんだが……」

「「えっ?」」


 あたしは驚きのあまり、隣にいるマシロと顔を見合わせる。

 彼女もあたし同様に驚き、「やっちまった」とでも言いたげな目をしていた。

 その気持ちは、あたしも同感だった。


 転移初日に、別の世界から転移してきた事が他人にバレたら絶対にロクな事にはならないからと、転移してきた事実をひた隠しにする事をマシロと約束していた。


 それがこんな、なんて事はない仕草からバレて……いや、言い訳をするのはまだ間に合うかしら?


 そんな事を考えていると、アルさんが入ってきた。


「待たせてしまったね。立ってないで、そこのお嬢さん達みたいに座ったらどうだい?」

「……では、失礼して」


 ハルはまだ何か言いたげだったけど、アルさんの言葉に従い座布団の上に座る。

 あたしを真似てか、正座だった。副隊長さんも彼と同様だった。


 アルさんの後に使用人らしきヒトが入ってきて、あたし達にお茶を出す。

 湯飲みに入っている緑色の液体を眺めていると、アルさんが口を開く。


「毒は入ってないよ、安心しな。そもそも、異国の使者を毒殺なんてしたら、たちまち国際問題になるさね」

「でも……『星霊』に襲撃されたなりなんなりの言い訳は出来ますよね? 遺体はグチャグチャになって判別出来なかった、とか言えば、秘密裏に遺体を処理する事だって出来るハズでは?」


 するとマシロが、結構ドストレートに反論する。

 ハルと副隊長はとても驚いているし、あたしもマシロがこんな事を言うなんて少し意外に思っていた。


 でも、アルさんの反応は違っていた。


「アッハッハッハッ! いいねぇ、その物言い! 気に入った! アンタ、名前は?」

「マシロです。マシロ・フブキ」

「マシロか。良い名だ……さて、本題に入ろうか。この里で起きている異変について」


 さっきまでの雰囲気を一変させ、アルさんは鋭い眼光でそう言った―――。


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