第27話 雑談
マシロと合流し、ハルのいる車両へと戻る。
「二人共、ご苦労。大丈夫だったか?」
「ええ、まあ。大きなケガとかはないわよ」
変身を解除しつつ、あたしはそう答える。
「そうか。一応被害状況の確認などもあるが……二人はゆっくりしていてくれ。あまり遠くでなければ、少しその辺を散歩していても構わない」
「分かったわ。……どうする、マシロ?」
「う〜ん……車の中で休んでようかな?」
「じゃああたしもそうするわ」
「分かった」
ハルはそう言い、あたし達の前から去って行った。
それからあたしとマシロは、車の中に乗り込んだ―――。
◇◇◇◇◇
ガタゴトという振動によって、わたしは目を覚ます。
いつの間にか眠っちゃっていたらしい。
それと今気付いたけど、クロナちゃんにもたれ掛かってしまっていた。
クロナちゃんを起こさないようにゆっくりと頭を動かすと、今度はクロナちゃんの方がわたしの方にもたれ掛かってきた。
彼女の重みと温かさを感じながら正面に目を向けると、ラインハルトさんと目が合ってしまった。
「えっと……おはようございます?」
「ああ、うん……よく眠れたか?」
「ええ、まあ……」
「……」
「……」
そこで会話が途切れ、何とも言えない空気がわたし達の間に流れる。
そんな中、ラインハルトさんが口を開く。
「……ところで二人は、出会ってから結構長いのか? 小さな頃からの友人だとか」
「……? いえ、出会ってからまだ半年も経ってないですけど……」
質問の意図が分からずに心の中で首を傾げつつ、わたしは正直に答える。
するとラインハルトさんはわたしの答えが意外だったのか、目を見開く。
「それは本当か?」
「はい。意外でしたか?」
「気分を害したのなら謝ろう。いやなに、二人はとても仲睦まじい様子だったからな。古くからの友人なのではと邪推したまでだ」
「え? そんなに仲良く見えるんですか?」
「ああ。恋人か何かかと思うくらいにはな」
「こっ!?」
その言葉に、わたしはドキッとする。
クロナちゃんと仲が良いというのはわたしの勝手な主観でしかないけど、まさか他人からもそう見られていたなんて……。
というか、恋人みたいに見えるって、それって百合―――。
「ああ、そうだ。思い出した。この部隊にいる女性士官も言っていたな。「今年の同人誌即売会はあの二人のカップリングで決まり」だの、「やっぱりクロ×シロでしょ」だの、「いや。ここはあえてのシロ×クロでは?」だの……自分には何を言っているのか分からなかったが……」
「いや……逆に分からないままの方が良い事もありますよ?」
「そうか?」
ラインハルトさんは本当に意味が分かっていないみたいだけど、わたしは理解出来てしまっていた。甚だ不本意だけど……。
まあ、あの二次元大国日本にいれば、嫌でもそういった単語を耳にする機会はいくらでもある。
というか、こっちの世界にもあるんだ。コミ……じゃなかった、同人誌即売会。
「……ヒトを同人誌のネタにしないで欲しいわね」
すると、起きたクロナちゃんが第一声にそう言った。
「おはよう、クロナちゃん。いつから起きてたの?」
「ハルがあたし達が出会ってから長いのか? って聞いてた辺りから」
結構最初の方だった。
というか……。
「なら、素直にその時に起きれば良かったのでは?」
「二人がどんな会話をするのか気になって、寝たフリをしてたのよ」
「……クロナちゃんってもしかして、性格悪い?」
何とはなしにそう言うと、クロナちゃんは首を左右に振る。
「性格が悪いのはあたしのお姉ちゃん達よ」
「えっ? クロナちゃん、お姉ちゃんがいたの?」
「ええ、そうよ。言ってなかった?」
「初耳だよ。しっかりしてるから、きょうだいがいても妹か弟がいると勝手に思ってたよ」
「上三人がアレだと、末っ子はしっかりしなきゃって思うモノよ」
「そうなんだ……うん? 三人?」
そう聞き返すと、クロナちゃんは答えてくれた。
「そうよ。さっきお姉ちゃん『達』って言ったじゃない。一応一番上が
「そうなんだ。珍しいね」
「そうね。そんなお姉ちゃん達だけど、良く言えばダメ人間、悪く言えば社会不適合者なのよ。まあ……一応創作活動で活躍してるからいいんだけど……」
「そうなの?」
「ええ。虹彩って言う漫画家いるでしょ? アレ、あたしのお姉ちゃん達のペンネーム」
「そうなの!?」
その漫画家の名前は聞いた事がある。
わたしの大好きな漫画の作者がそのヒトだった。
意外な所にそのヒトの関係者がいるんだから、世間って思ったよりも狭い。
「流石にマシロも知ってたか。お姉ちゃん達が生み出す作品はあたしも好きだけど、妹使いも荒くって……原稿の〆切が近くなると、あたしにベタ塗りとかトーン貼りなんかも手伝わせてきて……」
クロナちゃんは愚痴を零しているつもりなんだろうけど、その表情は何処か楽しげだった。
クロナちゃんも無意識に、家族の事が恋しくなっているのかもしれない。
すると、ハンドルを握る副隊長さんがラインハルトさんに声を掛ける。
「隊長。そろそろ到着します」
「分かった。……二人共。お喋りはそこまでだ」
「む……分かったわ。マシロ、この続きはいつかね」
「うん。楽しみにしてるね」
そうしてわたし達はようやく、『エルフの里』へと辿り着いた―――。
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