第23話 次の目的地は……


 バイクの停めてあった場所まで撤退し、そこで詳しい事情をラインハルトさんから説明してもらっていた。


「超越種、ですか……」

「ああ。それと、超越種であれば説明がつく事もあるんだ」

「それは?」


 クロナちゃんが聞き返すと、ラインハルトさんは続ける。


「人的被害がほとんど無かった点だ。超越種は変異種と違い、ヒトを襲う事は滅多にないからな」

「そうなの」

「さて……予定は少し狂ってしまったが、戻るとするか」


 そしてわたし達は変身を解除し、来た時と同じくラインハルトさんの運転で街へと戻って行った―――。




 ◇◇◇◇◇




 街へと戻って来ると、情報収集へと出掛けていたフィーラとリーファも戻ってきた。


「ただいま〜!」

「『星霊』の情報を集めてきたよ!」

「そう……それで、『星霊』は何処にいるのよ?」


 クロナちゃんがそう聞き返すと、妖精達は声を揃えて答える。


「「『エルフの里』だよ!」」

「『エルフの里』?」


 その単語を聞き、わたしは首を傾げる。


 この世界にはエルフがいる事は、転移した際に説明を受けてはいたけど……そういえば、今までエルフっぽいヒトは見掛けなかった。


「よりにもよって、『エルフの里』か……」

「……? どうかしたの、ハル?」

「『エルフの里』は、ダイヤモンド帝国内ではなく、隣国のハート皇国にあるんだ。まあ、『エルフの里』自体、両国の国境線に近い場所にあるから、行く事自体は簡単だが……」


 何だか含みのある言い方だった。


「何か問題でもあるんですか?」

「問題と言う程でも無いが……確かに『エルフの里』周辺での『星霊』の目撃情報は小耳に挟んだ事はある。だがそのせいなのか、『エルフの里』は過去に類を見ない程の警戒態勢を取っていて、街中に入る事すら容易じゃない。まあ……運び屋等の例外はあるが……」

「なるほど……うん? 運び屋?」


 わたしの頭の中に、一つの考えが浮かんできた―――。




 ◇◇◇◇◇




「……と言うわけで、アイナちゃん達にも『エルフの里』に行ってもらいたいの」


 屋敷に戻って早速、さっき浮かんだ考えをアイナちゃん達に居間で説明する。


 その考えとは、なんて事はない。

 運び屋として、堂々と『エルフの里』に入るという事だった。


 わたしとクロナちゃんは正確にはその護衛だけど、護衛を雇わない運び屋はいないという話だから、たぶん問題は無いだろう。


 そんな事を今説明したんだけど……アイナちゃん達は何処か浮かない顔をしていた。


「うん? どうかしたの?」

「えっと……出来れば『エルフの里』には近付きたくないかなぁ〜って……」

「何で?」


 そう聞き返すと、アイナちゃんは何処か困惑したような表情を浮かべる。

 すると彼女の膝の上に置かれていた手に、左右に座っていた妹達の手が重なる。


「大丈夫よ、姉さん。マシロさん達なら信頼出来るし、真実を知っても態度は変えないわよ。あたしはそう信じてる」

「わたしもマイ姉と同じ。このヒト達なら、きっと大丈夫」

「……ありがとう、マイナ、ミーナ」


 三人が何を話しているのか分からないけど、彼女達にとって深刻な問題である事だけは理解出来た。


 アイナちゃんは覚悟を決めたようで、わたしの顔を真っ直ぐに見据える。


「……今まで隠してきていた事は確かにあるけど、それは私達の出自に関わる問題だったから。そこは理解して欲しいの」

「まあ、誰だって隠し事の一つや二つはあるでしょ。いくら親しい仲でも、全てを晒け出さないといけない……なんて決まりはないんだから。別に咎め立てたりはしないわよ」

「わたしもクロナちゃんと同じ。だから隠しておきたいなら別にそれでもいいし、本当にどっちでも構わないから」

「……今更「やっぱり話さない」は礼を失するから、話すわ」


 アイナちゃんはそう言うと、少し横を向いて横髪を掻き上げる。

 そうして晒された彼女の耳は、人間のように丸みは帯びてはおらず、少し尖っていた。


「私も……いえ、私達姉妹もエルフなの。と言っても、人間とエルフのハーフなんだけどね」

「……? それは分かったけど、隠すような事なの?」

「そう思うわよね……ただのハーフエルフだったら、どれだけ楽だった事か……」


 そう言いながら上げていた髪を下ろしたアイナちゃんは、何処か遠い目をする。

 だけどそれも少しの間で、アイナちゃんは気を引き締め直して続ける。


「……私達の母親が、『エルフの里』の権力者の一人娘だったの。で、母親が人間の父親と出逢って恋をして、最終的に駆け落ちしたの」

「うん……?」

「それでまあ、ダイヤモンド帝国まで流れてきて、私達姉妹が産まれたってわけ」

「つまり、アイナ達はその……血筋的には『エルフの里』の権力者の孫に当たるから、里に行ったら何が起こるか分からないって事?」

「はい。最悪、見ず知らずの出会った事すらない婚約者とその場で結婚でもさせられるかもしれませんね?」


 飄々と答えてはいるけど、そんな理由があると知ると、『エルフの里』に向かう事に少し抵抗を感じ始めてはいた―――。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る