第22話 VS変異種


 先手必勝、一撃必殺とばかりに、ケルベロス変異種目掛けて背中の砲塔を展開してビームをブッ放す。

 ビームは逸れる事なく命中し、もうもうと煙が立ち込める。


 ……今ので倒せてたら楽なんだけど……。


 そう思いながら様子を見ていると、ブワッ! と煙が晴れる。

 その奥から、無傷の変異種が姿を現す。


 いや……無傷というのは少し語弊がある。

 剣のように鋭い翼の一部が、ビームを防いだからなのかポキッと折れていた。


「剣翼の一部だけでも破壊出来ただけ上出来だ! マシロ殿! 畳み掛けるぞ!」

「はい!」


 ハルは素早く指示を出し、ハルは真正面から、マシロは上空から変異種に攻撃を仕掛ける。

 あたしも場所を移動し、二人の死角を埋められる位置取りをする。


 変異種は翼でマシロの接近を牽制しつつ、鋭い爪が伸びている前足を器用に使ってハルと接近戦を演じていた。

 だけど、二人に意識を割いているせいで側面の注意が散漫になっていた。


「もう一度!」


 あたしは変異種の横腹目掛けて、再びビームを放つ。

 当たった、と思ったけど、現実はあたしの予想を―たぶんマシロとハルのも―遥かに越えていた。


 変異種の右肩部分にあった首が伸び、バキンと拘束具が音を立てて砕け散る。

 そしてあろう事か、口を大きく開いてあたしの放ったビームを吸収してしまった。


「はあっ!?」


 これには流石に驚きを隠せなかった。

 でも、変化はそれだけじゃなかった。


 左側の首も伸び、拘束具が外れる。

 そして口を大きく開いて、あたしから吸収したビームをそのままマシロ目掛けて放った。


「きゃあっ!」

「マシロっ!」

「……大丈夫!」


 咄嗟に回避したマシロは、体勢を立て直しつつそう答える。

 ハルの方も、一旦変異種から距離を取っていた。


「一筋縄では行かないと思っていたが……それにしたって限度があるだろう。何なんだ。ビームを吸収して、それを放出するって……」


 変異種から注意を逸らさず、毒づくハルに近付く。


「知らなかったの?」

「ああ。剣翼までならよくある変異だが、ビームを吸収・放出する能力は予想外だ。もしかしたら……とても厄介かもしれない」

「そうなの?」

「ああ。あの変異種は……目撃例の少ない、超越種へと変化しかけているかもしれない」

「……聞きたくはないけど、超越種って?」


 そう聞き返すと、ハルは緊張感に満ちた表情で答えてくれた。


「一言で言えば……『星霊』に限り無く近い魔侵獣だ。『星霊』の力を知っているクロナには、想像に難くないだろう?」

「ええ、まあ……それじゃあ、ここで倒しておく? 本格的に手を付けられなくなる前に」

「……いや、撤退しよう」


 予想に反して、ハルはそう答えた。


「いいの?」

「ああ。こう言っては何だが、人里に被害は及んでいないからな。なら、放置したままでも問題は無いだろう。触らぬ神に……というヤツだ」

「……こっちの世界にもそのことわざがあるのね……」


 ボソッと呟くと、ハルは不思議そうに首を傾げる。


「うん? どうかしたか?」

「いえ、なんでも……ここはハルに従うわ」

「分かった……マシロ殿! 撤退するぞ! 後で理由を説明する!」

「りょ、了解!」

「クロナ、バイクを停めた場所まで退くぞ」

「分かったわ」


 ハルのその指示に、あたしは頷く。

 そして撤退する前に、目の前の地面に向かってビームを放ち、土煙で目眩ましをしてからバイクまで退いて行った―――。




 ◇◇◇◇◇




 外敵マシロたちが撤退したのを確認したケルベロス変異種は、伸ばしていた首を元の位置へと戻す。

 そしてのっしのっしと、自身の縄張りの中央部へと向かう。


 そこにはポツンと石造りの小さな建物が建っており、変異種はそこを住み処にしていた。


 しかし、もしここに変異種がおらず、遺跡等に詳しい人物がいたらその建物の用途に気付いていただろう。


 まるで―殿である、と。


 その評価は間違ってはおらず、実際にこの建物の中には、『対の魔王』の体の一部が鎮座していた。


 そしてこの変異種は、ソレを守護するために復活した『対の魔王』自身が用意した守護者ガーディアンでもあった―――。


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