第21話 渓谷の深部へ
「ダメって……何でよ?」
ストップを掛けてきた妖精達に向かって、あたしは聞き返す。
「ワタシ達の目的は全ての『星霊』の討伐だよ!」
「たかだか魔侵獣の変異種如きに時間を割く余裕はないんだよ!」
「確かにアンタ達の言ってる事は正論かもしれないわ。でも……困っているヒトを、あたし達の力を頼りにしてくれているヒト達の望みは出来る限り叶えたいわ」
「……なら仕方ないね」
「アタシ達はいつも通り『星霊』の情報を集めてるから、行ってくればいいよ」
妖精達はそう言うと、開いている窓から出て行った。
「一応確認するが……協力してくれるという事で問題無いか?」
「ええ」
「はい」
「感謝する」
あたしとマシロがほとんど同じタイミングで頷くと、ハルは座ったまま深々とお辞儀をした―――。
◇◇◇◇◇
善は急げ、という事で、次の日にはハスター渓谷の深部へと向かっていた。
メンバーはわたし、クロナちゃん、ラインハルトさんの三人だけで、残りのメンバーは屋敷に残っていた。
ちなみに、ラインハルトさんの厚意で、街にいる間は屋敷に滞在するといい、と言ってくれたので、そのまま屋敷に滞在する事にした。
そんなわたし達は今、ラインハルトさんが運転するバイクで現地へと向かっていた。
バイクのハンドルは当然ラインハルトさんが握り、彼の後ろにはクロナちゃんが座っていた。
そしてわたしは一人、バイクに付けられたサイドカーに座っていた。
不測の事態が起こってもいいようにラインハルトさんは鎧を着込み、わたしとクロナちゃんはすでに変身して魔装を身に纏っていた。
舗装されていない道を進んで行き、ある所でラインハルトさんがバイクを停める。
「もうすぐ変異種の縄張りに入る。ここからは徒歩で移動する、いいな?」
その言葉に、無言で頷く。
そして一塊になって、渓谷のさらに奥へと進んでいく。
渓谷の奥、つまり上流へと進んで行くにつれ、明らかな変化が目に見えていた。
ここまで来る途中にも木は生えていたけど、上流に向かうにつれて何かで薙ぎ倒され、切り株へと変化した木が増えてきていた。
「……スパッと何かで切られたのかしらね?」
切り株の断面を軽く撫で、クロナちゃんがそう呟く。
わたしもその断面を触ってみる。
木特有のザラザラとした感触は無く、まるでヤスリか何かを掛けたように滑らかだった。
……一体何でこうなったんだろう?
わたし達のそんな疑問に、ラインハルトさんが答えてくれた。
「その切り株は、件のケルベロス変異種の翼によって切られた木の残骸だろう」
「翼で? どうやって?」
「それは翼を薙いだんだろう」
「うん? 何て?」
「うん? 変な事を言ったか?」
クロナちゃんとラインハルトさんは、お互いに顔を見合わせて首を傾げている。
そしてラインハルトさんの方が、何かに気付いたような表情を浮かべる。
「ああ……クロナ達には言ってなかったか。ケルベロス変異種の翼は飛ぶためのモノじゃない。敵を倒すための翼だ。その為、翼は骨格だけの姿ではあるが、剣のように鋭くなっている」
「ああいう感じですか?」
「ああ。あの感、じ……」
わたしが指差したモノを見て、ラインハルトさんは言葉を失う。
ソレは三つの首を持ち、骨格だけの翼は剣のように鋭くなっている四足獣型の魔侵獣だった。
三つある内の左右の首だけ、拘束具か何かで口を固く閉ざされていた。
「アレがケルベロス変異種だ! 現れたのならそう言ってくれ! 心臓に悪い!」
「え……ごめんなさい!」
ブレスレットに格納していた大剣を顕現させつつ、わたしはとりあえず謝っておく。
だって、ケルベロスの具体的な姿は知らなかったんだもん! 仕方ないじゃん!
すぐに気を引き締め直したラインハルトさんは、長剣を構える。
「過ぎた事はいい。変異種を討伐するぞ!」
「援護は任せなさい!」
クロナちゃんはそう言うと、背中に格納されていた二門のキャノン砲を展開して、ケルベロス変異種に向かっていきなりビームをブッ放した。
援護とは……?
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