第20話 変異種
ハルの案内で、ローエングリン家の屋敷にやって来た。
屋敷は街の中央付近にあり、結構な広さを誇っていた。
バギーとトラックは屋敷の裏手にある駐車場に停め、屋敷の中に入る。
それからあたしとマシロは、リリアの案内で客室の一つを借りて、そこでライダースーツから普段着に着替える。
着替えてる途中、マシロが話し掛けてくる。
「それにしても……まさかラインハルトさんと再会するなんてね」
「そうね」
「クロナちゃんも知らなかったの?」
「連絡先交換してなかったし」
意外な事に、こちらの世界の通信機器はあたし達の元いた世界のモノとほとんど一緒だった。
試しに一つだけ買った事があるけど、通信も通話も何の問題もなく行えた。
「クロナちゃんって……もしかして奥手?」
「……奥手で何が悪いのよ」
「ううん。意外だなぁ〜って。この機会に、ラインハルトさんと連絡先交換したら?」
「…………考えておくわ」
「それ、絶対にしないヤツ……」
マシロのそんな言葉を若干無視しつつ、着替えを終えたあたし達は客室から出た―――。
◇◇◇◇◇
「では改めて……ようこそ我が屋敷へ」
応接室で、向かい側に座るラインハルトさんがそう言う。
ちなみに、わたしの左隣にはクロナちゃんが、ラインハルトさんの左隣にはリリアちゃんが座り、わたしの右隣にあるソファーにはキャリー姉妹が座っていた。
そしてテーブルの上には、このお屋敷に勤めるメイドさんが淹れてくれた紅茶が人数分置かれていて、クッキー等のお茶菓子も置かれていた。
「色々と話したい事はあるが、まずは本題からいこう」
「お願いするわ」
「その前に……クロナとマシロ殿は変異種について知っているか?」
「それさっきも言ってたわよね? それって何?」
「マシロ殿は?」
「わたしも知らないです」
そう答えると、ラインハルトさんは小さく頷く。
「ならまずは、その辺りの説明から始めよう。変異種というのは、共食いの果てに突然変異を引き起こした魔侵獣の事だ。通常種と異なり、体の一部が変化しているのが特徴だ。そうだな……今回の例で言えば、ケルベロスに翼が生えているようなモノだ」
「ケルベロスって……三つ首の四足獣の?」
「そうだ。流石にケルベロスは知っていたか」
「まあね」
クロナちゃんはそう答え、ラインハルトさんは続ける。
「ここからが本題だ。半年程前から、そのケルベロス変異種がハスター渓谷に出没しているとの目撃情報がポツポツと上がってきたんだ。私は姫様の傍にいたので行動出来なかったが、当主の務め等はリリアに一任していたから、リリアに任せていた。報告は定期メールで受けていたが」
「ここからはわたしが」
そう言って、リリアちゃんがラインハルトさんの説明を引き継ぐ。
「家の者を使い、ハスター渓谷の調査を始めたのです。なかなか姿を現さなかったので調査は難航しましたが、先程発見したとの報告を受けたのです」
「だいたいの事情は分かったわ。だけど……それがあたし達の力を借りたい事と何の関係があるの?」
「変異種の厄介な特徴として、魔法が一切効かないという特徴があるんだ」
「魔法が……」
「効かない……?」
「ああ」
わたし達がそう言うと、ラインハルトさんは苦々しい表情で頷く。
「しかも、変異種ともなると通常種よりも数段と戦闘能力が上昇していて、文字通り手がつけられないんだ。だが放っておくと、周辺地域に甚大な被害が及ぶ。まあ……不幸中の幸いなのは、ケルベロス変異種が渓谷を縄張りとした事くらいか」
「ですね。街の住民に被害が及ぶなんて事にはほとんどならないハズですしね」
「でも、あたし達はそのハスター渓谷を越えてきたけど、弱い魔侵獣としか遭遇してないわよ?」
「渓谷の外周部を通ってきたからじゃないのか? その辺りはどうなんだ?」
ラインハルトさんはそう言うと、アイナちゃんの方を向く。
話を振られたアイナちゃんは、その質問に答える。
「はい。渓谷の深部には強い魔侵獣が出没するとの情報を予め得ていたので、危険の少ない外周部を通過するルートを取りました。私達以外の同業者もよく使うルートです」
「渓谷の南側を通るルートか?」
「はい」
「我が家で懇意にしている運び屋も、そのルートから来ると仰っていましたね」
「そうだな」
「北側はどうなんですか?」
わたしがそう尋ねると、この質問にはアイナちゃんが答えた。
「北側は南側より距離は短いけど、そこそこ強い魔侵獣がいるの。だから安全面を考慮して、南側のルートを使う運び屋が大半なの」
「そうなんだ」
「話を戻そう。ケルベロス変異種を放っておくわけにはいかず、さりとて大した戦力も無い状況で出会ったのがクロナ達というわけだ。出来れば協力して欲しいのだが……無理強いはしない」
「ハルの頼みなら断るわけにはいかないわ。マシロは?」
「うん。わたしも協力……」
「「ダメだよ!」」
してもいいよ、と言う前に、フィーラとリーファの二人からストップが掛かった―――。
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