第18話 お姉様!


「お姉様……?」


 マシロが何とも言えない視線を、あたしに向けてくる。

 そんな目で見ないで……というか、異世界に来てまで「お姉様」呼ばわりされるとか……本当に勘弁して欲しい。


 あたしの通っていた学校が女子校だったからか、サバサバした性格のあたしは下級生からよく「お姉様」なんて呼ばれていた。


 下級生にはその性格がカッコ良く映ってるんじゃないんですか? なんて、クラスメイトに言われたことはあるけど……あたし自身としては普通にしているつもりだった。


 まあ……慕われて悪い気はしないからいいんだけど、下級生全員があたしを「お姉様」って呼ぶのは流石に度が過ぎてると思うの。

 だからあたしは、今は「お姉様」って呼ばれる事に少し抵抗があった。


「お、お姉様……?」

「はいっ!」


 アイナはあたしの手を取ったまま、さらに一歩近付いてくる。

 その瞳はキラキラと輝いていて、少し眩しい。


「悪漢に毅然と立ち向かう態度! そして、彼等を軽く懲らしめる実力! それだけでなく、スラリとした身長に、過不足の無い均整の取れたスタイル! まさに私の理想のお姉様です!」

「そ、そう……」


 アイナの熱弁に、あたしは若干引いていた。

 ちらりと彼女の実の妹達の方に目を向けると、ヒソヒソと話し合っていた。


「……姉さんが暴走してるわね」

「……うん。それにクロナさんって、アイナ姉のお気に入りの漫画のキャラにすごく似てるよ」

「……ああ、あれでしょ? 女の子同士で恋愛するヤツ」

「……そう、それ」


 マイナとミーナはあたしと一瞬だけ視線を合わせると、再びヒソヒソと話し合う。


「……確かに似てるわね。というか、そっくりね」

「……だよね。アイナ姉がお熱になるわけだよ」

「二人共! 聞こえてるわよ!」


 アイナが妹達にそう言うと、二人は鳴らない口笛を吹かせながら知らんぷりをする。


「コホン。妹達が失礼しました」

「それはいいんだけど……そろそろ手を放してくれないかしら?」

「いいえ! お姉様と呼んでもいいと許可してくれるまで放しません!」

「……あたし達一応同い年なのよ? それでも……」

「年なんて些末な問題です!」

「おおぅ……」


 アイナの熱意が凄すぎる。火傷しそうなくらいだった。

 ここでいくら拒否しても、アイナは絶対に諦めてはくれないだろう。

 そういう意思が、瞳に宿っている。


 なら……。


「はぁ……いいわよ。お姉様って呼んでも」

「……! ありがとうございます、お姉様!」


 半ば諦めながらそう答えると、アイナがおもいっきり抱き着いてきた。


 こうしてあたしは、異世界でも「お姉様」と呼ばれる事となった。トホホ……。




 ◇◇◇◇◇




 本当はここでわたし達の護衛役は終わる予定だったけど、追加の積み荷が入ったとかで護衛役を続ける事となった。


 まあ、『星霊』を倒す云々以前に、生きていくためにはお金を稼がなきゃいけなかったから、収入源があるに越した事はないけど……。


 その日は街の宿で一泊する事になった。

 その宿は旅館のような造りで、温泉があるらしい。

 部屋は大部屋一つを借りた。


 夜ご飯を済ませた後、みんなで温泉に入る。

 洗い場には屋根があるけど、湯船の部分には屋根がなかったから夜空が良く見えた。


 お湯に浸かる前に、洗い場で一日の汚れを落とす。

 まずは頭からだ。


「お姉様〜、お背中お流ししますね〜」

「あ……うん、お願い」


 隣に座るクロナちゃんは、何処か諦めたような声音で答える。


 夜ご飯の時も、これでもかと言う程アイナちゃんにお世話されてたから、精神的に疲れてるのかもしれない。

 本人自体が、「お姉様」って呼ばれる事に抵抗があるみたいだし。


「ちょっ! そこは背中じゃないわよ!?」

「これはうっかり〜。手が滑りました〜」

「それと、手つきがイヤらしいんだけど!?」

「気のせいですよ〜」


 ……何処触ったんだろう?


 いつも髪を洗う時は目を瞑るから、クロナちゃんがどんな目に会ってるのかは二人の声でしか判断出来なかった。


「きゃっ! ちょっと、そこは!」

「いいじゃないですか〜。別に減るモノじゃないですし〜」

「だからって……ひゃうん!」


 ……本当に、何処触ってるんだろう?


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