第17話 撃退
翌日。
アイナちゃん達が乗るトラックの後を、クロナちゃんのバギーで追い掛けて行く。
目的地は、ハスター渓谷の近くにあるアメジストの街らしい。
アメジストの街は、近くに魔侵獣が多く棲息している場所がある事から、魔侵獣の討伐を生業とするハンターと呼ばれるヒト達が数多くいるらしい。
トラックの積み荷も、そのハンター達へと売る商品のようだ。
ただ……ハンターの一部はガラが悪く、そのせいで街の治安が悪くなっているらしい。
だからそれも込みで護衛を雇いたかったようだけど……完全な女所帯だけど大丈夫かなぁ?
パッと見だけなら、鴨がネギを背負ってるようにしか見えない。
……まあ、流石にそんな事にはならないでしょ。
この時のわたしは、気楽にそう思っていた―――。
◇◇◇◇◇
わたし達の周りを囲む男のヒト達の顔には一様に、ひきつった表情が浮かんでいる。
そんな中で、魔装を纏ったクロナちゃんが気丈に振る舞う。
「……これでもまだあたし達に手出しする気? 別にいいわよ、それでも。こっちは正当防衛だって言い張れるから」
そんなクロナちゃんの足下には、彼女の攻撃を受けて完全に伸びている男のヒトが倒れ伏していた―――。
◇◇◇◇◇
少し時間は遡る。
アメジストの街に入り、トラックがあるお店の前で停車する。
積み荷を卸す作業を手伝い、報酬を貰った後に解散……と思った所で、わたし達の周りをガラの悪い男のヒト達に囲まれてしまった。
通行人がチラチラとこっちを見てくるけど、その目には憐憫の色が見て取れた。
たぶん、わたし達がこの男のヒト達にヒドイ事をされると思っているに違いない。
「なっ……何ですか、貴方達は!?」
妹達を背中に庇いつつ、アイナちゃんが気丈な態度でそう尋ねる。
でも怖いのか、身体が小刻みに震えていた。
取り囲んでいる男のヒト達の中で、一番ガラの悪いヒトがアイナちゃんの質問に答える。
「いやいや……ちょ〜っとオニーサン達と
「……随分と一方的ね?」
すると、クロナちゃんがそう口を挟む。
「一方的で何が悪い? オレ達は魔侵獣を狩ってる正義の味方、ハンターだぞ? 感謝されこそすれ、貶される謂れはねぇな」
「あっそう……良いお医者さんでも紹介しましょうか? 自分がどう見られてるか分かってないようだし。それに……正義の味方なら、あたし達みたいな若い女の子を集団で囲んだりはしないハズだけど?」
挑発紛いにそう言うと、男のヒトのこめかみがピクピクと動く。
もしかしなくても、クロナちゃんの言葉が怒りの琴線に触れてしまったらしい。
「……いいだろう。なら、まずはお前からだ! 許しを乞うなら今の内だぞ!」
「その言葉、そっくりそのままお返しするわ」
「ほざいてろ!」
男のヒトはそう叫ぶと、カトラス……だっけ?
よく、海賊が使うような剣を片手に、クロナちゃん目掛けて突撃してきた。
「変身」
対して、クロナちゃんは静かにそう言うと、魔装を身に纏う。
そして背中のキャノン砲を展開……って、ええっ!
「クロナちゃん!?」
わたしのその声は一瞬だけ遅く、キャノン砲の銃口からビームが放たれる。
だけどそれは、男のヒトを狙ったモノじゃなかった。
男のヒトの目の前の地面に着弾すると、その威力によって男のヒトの身体が軽々と宙を舞う。
キャノン砲を格納したクロナちゃんは翼を羽ばたかせて接近し、大剣の平たい部分で頭をおもいっきり叩く。
「がっ!」
ドスン、と男のヒトがうつ伏せの状態で倒れ伏し、そんな男のヒトの背中を降りてきたクロナちゃんが右足で踏みつける。
そして呆気に取られている周囲の男のヒト達に向かって、気丈に言い放つ。
「……これでもまだあたし達に手出しする気? 別にいいわよ、それでも。こっちは正当防衛だって言い張れるから」
「う……きょ、今日の所はこれくらいに……」
「今日の所は?」
クロナちゃんはそう凄むと、これみよがしにガチャンとキャノン砲を再び展開する。
「分かってないわね。もう二度とあたし達の前に姿を現すなって言ってるのよ。それとも……コイツみたいな目に会いたいの?」
クロナちゃんはそう言い、足下の男のヒトの背中をぐりぐりと踏みつける。
……うわぁ、どっちが悪者か分かんないよ……。
内心そう思っていると、取り囲んでいた男のヒト達がわたし達の周りから大きく距離を取る。
「わ……分かった! もうアンタらの前には姿を現さない! ……おい! ずらかるぞ!」
男のヒトの一人がそう言うと、ぞろぞろとわたし達の前から立ち去っていく。
「ちょっと、忘れ物……よ!」
クロナちゃんは足下の男のヒトを片手で持ち上げると、立ち去っていく集団目掛けておもいっきり投げ付ける。
それと何でか、キャノン砲による一撃も加えていた。
やっぱり地面を穿ったその一撃は、集団を軽々と宙へと舞わせる。
そんな彼等から視線を移し、クロナちゃんの方を見る。
「やり過ぎなんじゃないの?」
「たぶん大丈夫でしょ。ああいう連中は、少しくらい痛い目に会わないと学習しないから」
「少し……?」
変身を解除しながらそう答えるクロナちゃんの言葉に、わたしは首を傾げる。
すると、アイナちゃんがわたし達に近付いてきた。
アイナちゃんはクロナちゃんの手を取ると、熱い眼差しを彼女に向ける。
「あの……助けていただいて、ありがとうございました! クロナお姉様!」
「お姉様……?」
そう言いながらクロナちゃんの方を見ると、彼女の顔はさっきの男のヒト達のようにひきつっていた―――。
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