第16話 運び屋姉妹 後編


「え……何で?」

「えっと、実は……」


 あたしがそう聞き返すと、赤髪の少女がポツリポツリと事情を説明し始める。


 この三人の少女達は運び屋を営んでいて、今回もとある街まで積み荷を運んでいたらしい。


 そして運搬の際、いつもは護衛を雇っていたのだけど、今回は相手方にドタキャンされたらしい。


 だから仕方なく三人だけで目的地まで向かっていた所、さっきの魔侵獣に襲撃されたようだ。

 絶体絶命のピンチに陥りかけた所に、あたし達がやって来た……という訳らしい。


「さっきの戦いぶりを見て確信したんです。貴女達は私達が雇う予定だった護衛よりもとても強いって。だからお願いします! 用心棒……いや、護衛として雇われてください! 報酬は言い値でいいですし、私達に出来る事なら何でもしますから!」

「……だ、そうよ。どうする、マシロ?」

「クロナちゃんは?」

「寄り道しても何の問題もないんじゃない、って思ってるわ」

「わたしもクロナちゃんと同じだよ」

「……っ!? それじゃあ!」

「ええ。貴女達の護衛、引き受けるわ」


 そう答えると、少女達は喜びを露にする。


 こうしてひょんな事から、護衛を引き受ける事となった―――。




 ◇◇◇◇◇




 クロナちゃんがバギーの回収に向かっている間に、わたしは横転しているトラックを起こす作業をしていた。


 普通の状態だったらビクともしないけど、変身すれば身体能力が飛躍的に上昇するから何の問題もなかった。


「よいしょ、っと……」


 ドスン、と重たい音を響かせ、トラックは元の状態へと戻る。


「ありがとうございます。異常がないか確認するので、少し待っててください」

「は〜い」


 赤髪の女の子の指示にそう返事をして、わたしは変身を解除する。

 するとブロロロ……と、トラックとは別の乗り物の音が近付いてきた。

 その音が何なのか、誰が乗っているのかは分かっていた。


「お待たせ。もう出発出来そう?」

「ううん。今異常がないか確認してる所」

「そう」


 バギーを回収してきたクロナちゃんにそう答え、わたしは彼女の後ろの席へと乗り込む。

 その状態で五分くらい待っていると、さっきの女の子がやって来た。


「すみません。ちょっと故障してる箇所が見つかってしまいまして……」

「修理しなきゃ動かないってこと?」


 クロナちゃんがそう聞き返すと、女の子は首を横に振る。


「いえいえ。そこまで深刻な故障じゃないんで、応急処置すれば動きはするんですけど……その作業に時間が取られて、ここで野宿するかもしれないので……」

「あたしは構わないわよ」

「わたしも。だからわたし達の事は気にせずに、作業に集中して?」

「お心遣い、感謝します」


 女の子はペコリとお辞儀をすると、トラックの方へと戻って行った―――。




 ◇◇◇◇◇




 結局修理作業は長時間に及び、あたし達はここで野宿する事となった。

 満天の星の下、あたし達は焚き火を取り囲み、夜ご飯であるシチューをいただいていた。


 ちなみにこのシチューは、作業の手伝いをしていないのも悪いからと、あたしとマシロで作った。


 材料は積み荷の中にあった物を使ったけど、非常食として積んでいた物だったから何の問題もない。


 この時になってようやく、お互いに自己紹介をした。


「遅くなりましたが、自己紹介を。私はアイナ。アイナ・キャリーです。年は十七才。こっちの二人は私の妹のマイナとミーナです。マイナが十五才で、ミーナが十三才です」

「マイナです」

「ミーナです」


 アイナは赤毛を襟足の辺りで一つ結びにしていて、マイナは橙色の髪をツインテールにしていた。

 そしてミーナは、桃色の髪を三つ編みに結っていた。


「あたしはクロナ。月夜野……じゃなかった。クロナ・ツキヨノ。それでこっちが……」

「マシロ・フブキです。わたしとクロナちゃんもアイナちゃんと同じ十七才だから、畏まらなくていいよ?」

「はい、分かりま……いや、うん。分かったわ」


 マシロの言葉に、アイナは言い直してから頷く。


 あたしが名前を言い直したのは、この世界の姓名が欧米みたいな感じで、名前が先に来るからだった。

 だからこちらの世界風に、名前を言い直した。


 それから、色んな事をお喋りしながら、鍋の中身を空にして、夜も更けていった―――。


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