第15話 運び屋姉妹 前編


 荒野のど真ん中で横転したトラックの傍に、三人の少女が固まっていた。

 赤、橙、桃色の髪の少女達は、年齢差による差異はあれど似たような顔付きをしていた。

 そしてその三人の少女達の手には、銃が握られていた。


 そんな彼女達の周りには、トラックを襲った張本人である魔侵獣の群れが取り囲んでいた。

 ワイバーン型のその魔侵獣は、ジリジリと少女達との距離を詰めていく。


 それを見て、赤髪の少女が唇を噛む。


「くっ……こんな所で魔侵獣に襲われるなんて……」

「あとちょっとで目的地だったのに……!」

「アイ姉、マイ姉、来るよ!」


 桃色の髪の少女がそう言うのと同時に、群れの中で一回り大きいワイバーンが雄叫びを上げる。

 それを合図に、他のワイバーン達が一斉に少女達に襲い掛かる。


 死は免れないと判断し、少しでも魔侵獣達に反撃しようとしたその刹那――。


 少女達に近かった魔侵獣達が、空から降ってきた光によって一瞬でスクラップへと変えられていた。


 突然の出来事に、少女達は驚きを隠せずにいた。

 魔侵獣達も今の攻撃を脅威に感じたのか、少女達から少し距離を取っていた。


「な……何が起きたの!?」

「聞かれても分かんないよ!」

「あ……二人共、あそこ!」


 橙色の髪の少女の声に導かれるように、赤と桃の少女は顔を上げる。


 三人の視線の先には、蒼白と紅黒の鎧を身に纏った二人の少女が浮かんでいた―――。




 ◇◇◇◇◇




 展開していたキャノン砲を、一度格納する。


 ワイバーンみたいな魔侵獣がヒトに襲い掛かろうとしていたから、遠距離攻撃の出来る魔装で不意打ちを仕掛けた。

 そしてものの見事に、わたしの攻撃は魔侵獣達に命中した。


「……数は一〇。その内の一体が群れのリーダー、かしら?」

「それじゃあ、そっちはクロナちゃんに任せていい? わたしは取り巻きの相手をするから」

「分かったわ。くれぐれも無茶はしないようにね」

「その言葉、そっくりそのままお返しするよ」

「……覚えてなさいよ?」


 クロナちゃんは言動とは裏腹にフッと微笑むと、翼を羽ばたかせて大きいワイバーン型の魔侵獣へと突撃していった。

 それを見送りつつ、わたしは再びキャノン砲を展開する。


 キャノン砲の元となった『星霊』と同じく、しばらく冷却しないと連射は出来なかった。

 でも今の所、最大火力を誇る魔装でもあった。


 そしてさっきと同じく、狙いを定めて確実に魔侵獣を屠っていった―――。




 ◇◇◇◇◇




 降下の勢いを乗せて、大剣を上段から思いっきり振り抜く。


 群れのリーダーらしき魔侵獣はあたしの攻撃に反応して回避行動を取ったせいで、先制攻撃は空振りに終わった。

 でも、この事態を想定していなかったわけじゃなかった。


 翼を羽ばたかせて減速しつつ、背中の二門の砲塔を前面に展開する。

 そして近距離から、特に狙いを定めずにビームを放つ。

 図体がデカイから、何処かしらに命中するだろう。


 その考えは当たっていたようで、魔侵獣は横に回避したけど、回避が間に合わずにあたしの放ったビームが魔侵獣の右翼を貫いた。


 バラバラと翼の残骸が飛び散る中、あたしは剣を構え直して魔侵獣へと接近する。

 魔侵獣はと言うと、あたしを近付けさせまいとその場で回転し、鞭のようにしなったシッポを横から叩き付けてくる。


 その攻撃を避けるでもなく、あたしはタイミングを合わせて剣を下から掬い上げるように振り上げる。

 するとシッポはバターのように軽い手応えで切断された。


 正面に向き直った魔侵獣が、大きく口を開く。

 その奥には、妖しい光が揺らめいていた。

 もしかしたら、口からビームを放つ気なのかもしれない。


 そんな事をさせる気は無く、あたしは魔侵獣と距離を詰める。

 そして左側の砲塔だけを展開し、その銃口の先を魔侵獣の口の中へと突っ込む。


「ブッ飛べ!」


 そう叫び、魔侵獣より早くビームを発射する。

 ビームは魔侵獣の頭を貫き、その一撃で魔侵獣を活動停止にまで追い込む。

 ただ、誘爆したのか、頭が首から離れてしまっていた。


 ゴドン、と重々しい音を響かせた魔侵獣の頭を地面に放り、あたしは砲塔を格納した―――。




 ◇◇◇◇◇




 最後の一体を確実に仕留めた後、わたしはクロナちゃんの隣に降り立つ。

 変身を解除すると、魔侵獣に襲われていたヒト達が近寄ってきた。

 三人共顔付きがどことなく似ているから、姉妹か何かかもしれない。


 その中の年長者らしき赤髪の女の子が、一歩前に出る。


「助けていただいて、本当にありがとうございました。貴女達が来てくれなかったら、私達はここで果てていましたよ」

「いえいえ、そんな……ヒトとして当然の事をしたまでですよ」

「そんな貴女達に一つ提案があるのですが……私達の用心棒として雇われませんか? いや……雇われてください、お願いします! 何でもしますから!」


 そう言い、女の子は深く頭を下げる。

 後ろの二人も、女の子と同じく頭を下げていた。


「「……えっ?」」


 突然の申し出に、わたしとクロナちゃんは揃ってすっとんきょうな声を上げた―――。


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