第14話 魔侵獣の棲息地へ


 ボリボリと、金属を咀嚼する音が辺りに響き渡る。

 捕食されているのは魔侵獣で、捕食しているのもまた魔侵獣だった。


 その魔侵獣の周りには、喰い散らかされた魔侵獣の残骸が無造作に転がっていた。

 それらには、装甲を喰い破られコアを抜き取られているという共通点があった。


 そしてまた、捕食している魔侵獣からコアを抜き取る。

 それを咀嚼することなく丸呑みし、魔侵獣は体を震わせる。


 そして、狼のような遠吠えを上げる。

 その魔侵獣の肩には、口元を拘束具で拘束された首が二つと、背中からは鋭利な刃物のような翼が生えていた―――。




 ◇◇◇◇◇




 女帝様との謁見から一ヶ月後。


 ブロロロ……と、四輪バギーは舗装されていない道を進んで行く。

 辺りは地平線まで広がる荒野しかなかった。


 このバギーは女帝様に用意してもらったモノで、特別に二人乗り出来る仕様にしてもらっていた。


 そのバギーのハンドルはクロナちゃんが握っていて、わたしはクロナちゃんの後ろに座り、彼女の細い腰に腕を回してしがみついていた。


 お城に滞在している間、暇だったのかクロナちゃんはラインハルトさんにバイクの乗り方を教わっていた。

 そのついでに、バギーの乗り方についても。


 遠目から見て、二人の関係は何だか良い雰囲気に思えたけど、クロナちゃん曰く「あたしと彼は今はそんな関係じゃない」と否定していた。

「今は」と言った辺り、今後もしかしたらもしかするのかもしれない。


「……ねえ、クロナちゃん」

「何、マシロ?」

「本当にラインハルトさんのことは好きじゃないの?」

「しつこいわよ。あたしと彼はそんな関係じゃないって言ったでしょ?」

「今は、でしょ? もう一度聞くよ? 本当に好きじゃないの?」


 そう聞き返すと、クロナちゃんは黙りこくってしまう。

 しばらくバギーのエンジン音が響いた後、クロナちゃんはポツリと呟く。


「……好きか嫌いかで言えば、好きだけど……」

「だけど?」

「……あたし達はいつか元の世界に戻るんだから、その時になって辛い思いはしたくないし、させたくないの。文字通り、住んでる世界が違うんだから……」


 クロナちゃんは良く言えば達観、悪く言えば諦めたような答えを言う。

 でも、相手に辛い思いをさせたくないって思ってる辺りに、クロナちゃんの心根の優しさが滲み出ていた。


「そっか……悲しい結末を迎えないことだけを祈ってるよ。……ちなみに、ラインハルトさんとの子供は何人欲しいの?」

「そうねぇ……男の子と女の子を一人ずつ……って、マシロ!」


 わたしの誘導尋問に見事に引っ掛かったクロナちゃんは、運転中にも関わらず器用に肘でわたしの身体を小突いてくる。


 そんなわたし達は今、ハスター渓谷と呼ばれる、魔侵獣が多く棲息している場所へと向かっていた―――。




 ◇◇◇◇◇




 マシロと他愛のない会話をしながら、バギーに搭載されたナビに従って目的地であるハスター渓谷を目指していた。


 その道中―――。


「ん?」


 進行方向に、何かの影が見えた。

 遠くてよく見えない。


「フィーラ、リーファ。ちょっとあの影を確認してきて」

「分かった!」

「ちょっと待ってて!」


 バギーを停車させてそう言うと、妖精達は影のある方へと飛んで行った。

 ヘルメットを脱ぎつつ、あたしは後ろに座るマシロに声を掛ける。


「マシロ。もしもの時は戦うことになるけど……大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ」


 マシロもヘルメットを脱ぎ、頷く。


 ちなみにあたしもマシロも、ボディラインが出るくらいのピッチリとしたライダースーツを着ていた。

 そのせいか、マシロの同年代の平均よりはやや大きい胸元が強調されていた。


 マシロ本人は少し身長が低いことを気にしていたけど、あたしに言わせれば身長に行くハズの栄養が胸に行ったんじゃないの? とは思う。


 そんなマシロとは対照的に、あたしは身長が高い代わり(?)に、胸は平均より少し……本当に少しだけ小さかった。

 意地でも自分が貧乳だとは認めたくない。


 そんな、他人からしたらどうでも良い、でも当人にとってはある意味死活問題なことを考えていると、妖精達が戻ってきた。


「二人共! この先でヒトが魔侵獣に襲われてたよ!」

「魔装少女の出番だよ!」

「そうらしいわね。……マシロ、行ける?」

「うん、いつでも」


 あたしとマシロはバギーを降り、右手首のブレスレットに左手を触れさせる。


「「変身!」」


 そして変身し、翼を羽ばたかせて飛んで行った―――。


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