第11話 VS??? 前編


 突然の出来事に思考が停止していると、闇色の鎧―おそらくあたし達と同種の魔装―を纏った金髪の少女は、持っていた二振りの長剣を背中にマウントしてから、スクラップ状の魔侵獣に手を突っ込んでコアを乱暴に引き抜く。


 そのコアの色は、マシロが回収したモノと同じ形ではあるけど、色は暗い赤色だった。

 もしかしたら、このスクラップは『星霊』の残骸で、あのコアもあたしが回収すべきコアに違いない。


 そう思い、あたしは少女にコアを譲ってくれるように頼み込むために一歩足を踏み出す。


 次の瞬間、少女は一瞬であたしの前まで移動し、右ストレートをあたしの胸に叩き込んできた。


「ゴホゴホッ!」


 地面を激しく転がり、なんとか止まった所で咳き込みながら身体を起こすけど、身体の芯にまでダメージが及んでいるのか上手く立ち上がれない。


「クロナちゃん!」


 マシロの心配そうな声が聞こえてくるけど、それに答える暇がない。

 少女はマシロに視線を移すと、瞬きよりも短い時間でマシロに接近し、今度は回し蹴りをお見舞いする。


 マシロはサッカーボールか何かのようにおもいっきり蹴り飛ばされて行き、スクラップの山に背中側から突っ込む。


 煙が立ち込めてよく分からないけど、マシロの方も小さくないダメージを負ったに違いない。


「ぐっ……!」


 大剣を支えにしてなんとか立ち上がり、翼を羽ばたかせて少女に接近する。

 そして下から大剣を振り上げる――けど、少女は背中の二振りの長剣を手に取り、剣を交差させる形であたしの斬戟を防ぐ。


 その状態で、あたしは駄目元で少女に尋ねる。


「貴女はいったい誰なの!? それと、あたし達に似た魔装を纏っているのと、あたし達に攻撃を仕掛けた理由は!?」

「……答える義務があるとでも?」


 禍々しい魔装を纏っている見た目とは正反対に、少女の声はとても可愛らしかった。


「クロナちゃん! 避けて!」


 すると、マシロの声が響き、あたしは少女から素早く離れる。

 その直後、少女目掛けて二条のビームが放たれた―――。




 ◇◇◇◇◇




「イタタタ……」


 スクラップに身体を埋めながら、わたしは頭を左右に振る。

 金髪の女の子の何処にそんな力があるのか、わたしは盛大に蹴り飛ばされていた。


 するとクロナちゃんが女の子に接近し、剣を交えながら何かを喋っていた。

 女の子の注意がクロナちゃんに向けられている隙に、わたしは攻撃体勢を取る。


 ……初めての使用がこんな状況だけど、仕方ない!


 そんな事を思いながら、わたしはついさっき追加された背中の二門のキャノン砲を肩越しに前方に展開する。

 照準はもちろん金髪の女の子だけど、その射線上にクロナちゃんがいた。


「クロナちゃん! 避けて!」


 わたしが大声でそう叫ぶと、クロナちゃんは素早く女の子から距離を取る。

 その直後、わたしはキャノン砲からビームを発射する。


 背中をスクラップに預けているからか、射撃による反動で後退りするような事はなかった。


 二条のビームが空間を引き裂き、金髪の少女目掛けて一直線に飛んでいく。

 女の子はわたしの方を見ると、両手の剣を前に構える。

 いったい何を? と思っていると、信じられない事が起きた。


 剣の柄が九〇度近く折れ曲がり、刀身が真ん中から左右に分かれ、銃のような形へと変化する。

 そしてそこから、わたしのビームとは遜色ないビームが放たれた。

 でも、威力は段違いだった。


「ぐっ……!」


 元から埋まっていた身体が更に埋まり、わたしのビームが女の子のビームに押されているのが嫌でも分かる。


 それと徐々に、女の子のビームがわたしの方へと近付いてきていた。

 ビームの出力を上げようにも、今のわたしじゃあコレが限界だった。


 すると信じられない事に、女の子がビームの出力を上げてきた。

 そのせいで、わたしのビームは一段と押される事となった―――。




 ◇◇◇◇◇




 少女の剣が銃に変形したのも驚きだけど、そのビームの威力がマシロのそれを上回っていることにも驚きを隠せないでいた。

 このままだと、マシロが押し負ける……!


 その時にふと、少女はコアを抜き出したまま放置している事に気付いた。


 ……あたしの予想通りなら!


 あたしは翼を羽ばたかせ、スクラップの元へと急いで飛んでいく。

 ここからは一刻の猶予もない。


 ……マシロがやられる前に、コアを回収しないと―――!


 そんな強迫観念に似た思いで、あたしはスクラップの元へと急ぐ。

 そして予想通り、コアはスクラップのすぐ側で放置されていた。


 何かしらの制約が課されているのか、コアがスクラップを吸収する速度は緩慢だった。

 そのコアに向かって、あたしは手を伸ばす。


 そして―――。


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