第8話 遭遇 type-V
倒れていたヒト達をベアトリーチェさんが魔法で回復させ、今は横転した車両を起こす作業をしていた。
その間に、あたしとマシロは倒したグリフォンのコアを摘出していた。
ちなみに、コアを摘出された魔侵獣は、その体躯を急速に劣化させ灰塵へと帰す。
だから、コアを摘出した後は野晒しにしておいても全く問題はない……と、妖精達が初めてのコア摘出の際に教えてくれていた。
「お二方。準備が整いましたので、どうぞこちらに」
「分かりました。……行きましょう、マシロ」
「うん」
ラインハルトさんに案内されて、他の車両より一際頑丈そうな車両に乗り込む。
その車両にはすでに、ベアトリーチェさんが乗り込んでいた。
「お二人共。どうぞそちらに」
「はい」
「失礼します」
あたしとマシロは、ベアトリーチェさんの向かいの席に並んで座る。
運転席にはラインハルトさんが乗り込み、エンジンを掛ける。
そして、慣性をほとんど感じさせない滑らかな発進で、車両が走り始めた。
「それにしても……お二人のあの力はいったい?」
走り始めてから、ベアトリーチェさんがそんなことを尋ねてきた。
あたしとマシロは、自分の名前や異世界転移した件も含めて、ベアトリーチェさんにこれまでの経緯を説明する。
するとベアトリーチェさんは、目をこれでもかと言うほどにキラキラと輝かせる。
「まあ! まるで、『大賢者』セイラ様みたいな方達なのですね!」
「『大賢者』……」
「セイラ……?」
マシロと揃って首を傾げていると、ベアトリーチェさんは興奮を隠し切れない様子で続ける。
「はい! 『大賢者』セイラ様は、一〇〇年前に存在した『対の魔王』を封印した、偉大なお方なのです!」
「『対の魔王』……」
「知ってる、二人共?」
マシロがそう尋ねると、フィーラとリーファは少し間を置いた後に首を左右に振る。
「……ううん」
「分からない……」
……? 今、何か受け答えがおかしかったような……?
そんな微かな違和感を感じるけど、何がどうおかしかったのかが全く分からない。
なんだか、喉の奥に小骨が引っ掛かってそうで引っ掛かってない、そんな小さな違和感だった。
ベアトリーチェさんはあたし達に構うことなく、さらに続ける。
「そしてセイラ様も、貴女方と同じように機械の鎧と翼を身に纏い、様々な武器を用いて『対の魔王』と激闘を繰り広げたと記録されています!」
「やはり姫様はセイラ様のこととなると、とても饒舌になりますね」
「ラインハルト!? 余計なことは言わないで!」
ハンドルを握るラインハルトさんがそう茶々を入れ、ベアトリーチェさんは顔を真っ赤にして反論する。
ベアトリーチェさんの気持ちは分からなくはない。
好きなことや好きなモノについて語る時、ヒトは誰だって饒舌になる。
あの時のマシロだってそうだった。
それからもベアトリーチェさんの『大賢者』語りは続き、車両は森を抜けた。
その瞬間―――。
ドオオオォォォォォォンッッッ!! という、とても大きな音が車列の前の方から聞こえてきた。
その威力は盛大だったらしく、衝撃波があたし達の乗っている車両を激しく揺らす。
「きゃあっ!」
「わわわっ!」
「きゃっ!」
思わず悲鳴が出つつも、あたしはドアについている手すりに掴まる。
ベアトリーチェさんは頭を抱え姿勢を低くし、マシロは何故かあたしの腕に抱き着いていた。
「姫様方、大丈夫ですか!?」
ラインハルトさんが慌てた様子で、あたし達の無事を確認してくる。
あたしはもちろん、マシロもベアトリーチェさんも目立った外傷は無いようだった。
「ええ、大丈夫です。お二人は……」
「……っ! 二人共、すぐに車から出て!」
「現れたよ! ……予想より早すぎる……っ!」
いつもと様子が違い、妖精達はとても切羽詰まった表情を浮かべる。
二人がここまで動揺するなんて……まさか!
「マシロ!」
「うん! 変身!」
ドアを蹴破る勢いで激しく開け放ち、あたしとマシロは車両の外へと出る。
そして変身し、その場で宙に浮かぶ。
音のした方に目を向けると、そこには今までの魔侵獣とは異なる魔侵獣がいた。
首は長く、四肢は丸太のように太く、一対の翼はグリフォンの比でないほどに大きく強靭な様子で、背中には二門の砲塔を背負っていた。
何処からどう見ても機械的なドラゴンの姿だけど、魔侵獣と唯一異なる点は、その体躯が銀色ではなく赤色であることだった。
あたしもマシロも全く見当は付いていなかったけど、フィーラとリーファだけは違っていた。
次の瞬間、二人の口から出た言葉に、あたしもマシロも耳を疑った。
「あれは……カマエル!?」
「五番目の『星霊』の片割れが、どうしてこんなところに!?」
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