第5話 休息
妖精達と合流した後、あたし達は宿泊場所を探し始めた。
あたしもマシロも典型的な現代っ子で、キャンプとかの野宿の経験もないから、雨風凌げる場所の確保は急務だった。
……ホント、異世界転生にしろ異世界転移にしろ、なんであの手の主人公達は野宿をすることを厭わないのかしら?
別に批判するつもりはないけど、ちょっとした疑問だった。
そんなことを考えながら探していると、マシロが発見した。
そこは女性専用のホテルのようで、セキュリティ関係もしっかりしてると謳っているようだ。
他に良い場所を見つけるよりは……と思い、ここに決める。
エントランスを抜け、カウンターで受付をする。
出費をなるべく抑えようと予め話し合っていたので、二人部屋を一つ借りる。
すると、受付の女性が生暖かい目を送ってきていたけど……あたしとマシロはそういう関係じゃないから。
というか、そういうヒトも利用するみたいね……今の反応から察するに……。
受付も済み、鍵―と言ってもカード型だけど―を受け取って部屋へと向かう。
あたし達の部屋は五階で、そこまでエレベーターで昇る。
当然と言えば当然だけど、エレベーター前や廊下ですれ違うのは皆女性だった。
そして五階までやって来て、鍵に書かれている番号と同じ部屋へと向かう。
オートロック方式らしく、あたし達が近付くとガチャンというロックが解除される音が聞こえてきた。
そのままドアノブを引いてドアを開け、中に入る。
短い廊下を抜けた先には、シングルのベッドが二つ並んでいた。
「つっっっかれたぁ〜〜〜」
その内の片方に、マシロがダイブする。
スカートとかセーラー服の裾が捲れて、少しはしたない格好になっている。
まあ、彼女の気持ちも分からなくはない。
異世界転移やら何やらで、あたしもそれなりに疲労が溜まっていた。
出来ることならあたしも今すぐにでもベッドにダイブしたいけど、それよりも先にすることがある。
あたしはブレザーを脱ぎ、ハンガーに掛ける。
それからリボンを緩め、ブラウスのボタンを上から二番目まで開けながらもう片方のベッドに腰掛ける。
「ふぅ……」
「お疲れ様、二人共!」
「今日はゆっくり休んで、また明日から頑張ろう!」
「それじゃあワタシ達は、また情報収集に行ってくるね!」
妖精達はそう言い残すと、部屋から出て行った。
マシロの方に目を向けると、うつ伏せの状態ですやすやと寝息を立てていた。
疲労がドッと押し寄せてきて、そのまま眠ってしまったらしい。
「……シャワーでも浴びよう」
誰に聞かせるでもなくそう呟き、あたしはバスルームの方へと向かった―――。
◇◇◇◇◇
「…………………………むがっ」
わたしは目を覚ます。
何してたっけ? とぼんやりと思い出しながら、身体を起こす。
ベッドにダイブしたとこまでは記憶にあるけど……どうやらそのまま眠ってしまったらしい。
まだ覚醒し切らない頭で部屋を見回すと、クロナちゃんや妖精達の姿が見当たらなかった。
出掛けたのかな? と思っていると、シャワーの音が微かに聞こえてくる。
十中八九、クロナちゃんだろう。
そう思っていると、ガチャリとドアが開く音が聞こえてきた。
そして、バスタオル一枚を身体に巻いたままのクロナちゃんが出て来る。
当然だけど、ポニーテールはほどいていた。
「やっちゃった……あ、起きたの?」
「うん。どうかしたの?」
そう尋ねると、クロナちゃんは湯上がりとは別の要因からか、頬を微かに赤くする。
「起き抜けで申し訳ないけど……ちょっと頼まれてくれないかしら?」
「いいよ。わたしに出来ることなら」
「ありがとう。その……」
「その?」
「…………下着とかの着替えを、買ってきてくれないかしら? あと服も……」
「すぐに買ってきます!」
そう返事をして、わたしは部屋を飛び出して行った―――。
◇◇◇◇◇
三十分後。
クロナちゃんとわたしの分の着替えを買い、部屋に戻ってきた。
ちなみにクロナちゃんの下着のサイズは、部屋を出る前にクロナちゃん自身が教えてくれていた。
だから、あまり迷わずに買うことが出来ていた。
「ありがとう。助かったわ」
「どういたしまして」
クロナちゃんは、わたしが適当に選んで買ってきた服の中から、ワンピースとカーディガンを選んで着ていた。
クロナちゃんは女の子としては身長が高いから、スタイルがとても良くて服を着こなしていた。少し羨ましい。
「マシロもシャワーを浴びてきたら?」
「うん、そうする」
「ごゆっくり……あ」
「どうかした?」
そう聞き返すと、クロナちゃんはわたしから微妙に顔を逸らす。
「今更だけど……マシロのことをマシロって呼んでいいのよね? 吹雪さん、じゃなくて……」
「うん、いいよ。わたしもクロナちゃんって呼んでるから。それとも、月夜野さんって呼んだ方が良かった?」
「いいえ。クロナでいいわ」
「分かった」
「それだけよ。……異世界に転移しちゃったけど、お互いに協力して頑張りましょう、マシロ?」
「うん。これからよろしくね、クロナちゃん」
そう言葉を交わし合ってから、わたしはバスルームへと向かった―――。
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