第4話 換金


 それからしばらく歩いて、目的地であるエメラルドの街へとたどり着く。

 さっきの魔侵獣のコアの引き取りを行っているお店に早速向かい、換金をしてもらう。

 ちなみに、妖精達は情報収集するとかなんとかで、わたし達と別行動を取っていた。


 すると、店主のおじさんが、カウンター越しにわたし達に怪訝そうな視線を向けてくる。


「本当に嬢ちゃん達が討伐したのか?」

「……? はい、そうですけど……」

「何か問題でも?」


 クロナちゃんが聞き返すと、おじさんは首を左右に振る。


「いや……何でもない。たまに火事場泥棒みたく、他人が討伐した魔侵獣のコアだけを奪って換金に来る阿呆……いや、馬鹿がいるから聞いただけだ。それに嬢ちゃん達の目は、嘘を吐いてるようには見えないしな」

「それじゃあ……」

「ああ。買い取らせてもらう。少し待ってろ」


 おじさんはそう言うと、コアを持ってお店の奥へと引っ込んでしまった。

 たぶん、お金を持ってくるのだろう。


「とりあえず、当面の軍資金は確保出来たかな?」

「かもね。いくらになったかで、これからの行動が変わってくるけど……」

「そうだよねぇ……」


 そう返事をしつつ、わたしはベターッと上半身をカウンターの上に投げ出す。


「はしたないわよ、マシロ」

「そう?」

「そうよ。それに、さっきのおじ様がいつ戻ってくるか分からないでしょ? なら、態度はきちんとしてなきゃ」

「言い方がお嬢様っぽ〜い」

「……お嬢様って呼ばれるの、あまり好きじゃないのよね」

「それじゃあ、お姉様?」

「…………それも、学校で散々呼ばれて……」


 アハハ……と、クロナちゃんは乾いた笑みを浮かべ、遠い目をする。

 なんだかこれ以上聞いちゃいけない気がして、わたしは話題を強引に変える。


「あ、えっと……そうだ! わたし達は魔装少女になったけど、まだまだ戦闘技術とか未熟だよね?」

「まあ、ね……」

「だから、少しでも戦闘経験を積んで、『星霊』に勝てるだけの実力を付けないといけないと思って……」

「……『星霊』、ね……」

「……? どうかしたの?」


 そう尋ねると、クロナちゃんは腕を組んでカウンターにもたれ掛かる。

 そしてわたしの顔を真っ直ぐに見つめてくる。


「全ての『星霊』を回収しなきゃあたし達は元の世界には戻れない。それはいいわ。でも……」

「でも?」

「……その為にどうして、あたし達は『星霊』の力を使ってるの?」

「…………毒を以て毒を制する、的な?」

「それならいいんだけど……なんだかあの妖精達、本当の目的を隠してる気がして……」

「杞憂じゃない?」

「ならいいんだけどね……」

「待たせたな」


 するとようやく、おじさんがお店の奥から戻ってきた。

 その手には何枚かの札束が握られている。


「嬢ちゃん達が持ってきたコア、合計で十万エールだ」

「……ストレーター(ボソッ)」

「ん?」

「いえいえ、何でも……それで、その金額って相場より高いんですか? 低いんですか?」


 クロナちゃんがボソッと呟いた言葉を誤魔化しつつ、わたしはおじさんに確認する。

 わたしもお金の単位がストレーターじゃん、って思ったけど、思っただけで口に出してはいないからセーフ(?)。


「嬢ちゃん達が持ってきたコアは狼型で、相場は一体あたり九五〇〇エールだが……少しイロをつけさせてもらった」

「そうなんですか……ありがとうございます」

「おう。……で、嬢ちゃん達。収納袋は持ってないのか?」

「収納袋……?」

「何ですか、ソレ?」


 わたしはクロナちゃんと揃って、首を傾げる。

 するとおじさんはまたお店の奥に行き、今度はすぐに戻ってきた。

 その手には巾着袋に似た、ポーチくらいの大きさの袋が二つあった。


「これが収納袋だ。なんでも入るし、容量も実質無限だ。オマケでコレもやるよ」

「あ……ありがとうございます」

「ご厚意に感謝します」

「礼を言われることのほどじゃねえ。しっかし……収納袋を知らないとか、嬢ちゃん達は辺境の田舎出身か何かか?」

「「あ、あはは……」」


 流石に異世界からやって来ましたなんて言えないから、笑って誤魔化すしかなかった。


 それからお金と収納袋を受け取り、おじさんにもう一度お礼を言ってからクロナちゃんと共にお店を後にした―――。


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