5・ヤバい恋愛遍歴

 というわけで、放課後。

 俺はおなじみラッキーバーガーでLサイズのポテトをむさぼりながら、八尾のまとめに目を通していた。


(うわ……こっちの世界の俺、マジでヤバいな)


 まず、初めて誰かとお付き合いをしたのが中学2年のとき。ただ、その彼女の他に女子2人とも同時に付き合っていたため、発覚したときは揉めに揉めてエライことになったらしい。

 さらに、その1年後、30代のおっさんと初の不純異性交遊ならぬ不純同性交遊を経験。

 中3の三学期には、女子大生と軽い気持ちで「お遊び」をして、その彼氏にボコられて、受験当日顔を腫らせて面接を受けたらしい。


(いやいや、ハードすぎるだろ!)


 つーか、勉強をしろ、勉強を! なんで受験前に、彼氏持ちの女子大生と遊んでんだよ!

 で、なんとか高校に合格するも、以降はあっちにフラフラ、こっちにフラフラ──青野と付き合ってからもそれが変わらなかったのは周知の事実だ。


(青野のやつ、ほんとよく付き合えたよな)


 こっちの世界に来て何度思ったかわからないことを、今改めてしみじみ思う。

 だって、青野ってマジで女子にモテるんだよ。顔面偏差値高いし、背も高いし、勉強もできる。ナナセから聞いた話だと、スポーツもわりと得意らしい。

 そんな高スペックなやつが「わがままプリンセス」に捕まって、毎日ふりまわされていたんだから、世の中ほんとわからねぇよな。


(けど、まあ……ふりまわされるのも嫌じゃなかったみたいだし)


 メッセージアプリに残されていた写真をタップする。

 青野とのツーショット。あいつに甘えるようにもたれかかっている、俺によく似た、俺じゃない俺。


(でも、もう選んだんだ)


 この自分を受け入れるって。こっちの世界の俺になりきるんだって。


(だって、青野と別れたくないから)


 青野とずっと一緒にいたいから──

 歩道に面したガラス窓がコンコンと鳴った。ガラス一枚を隔てた向こうに、寒そうに首をすくめた青野がいる。「早く来いよ」と口パクで伝えると、青野はくすぐったそうに目を細めて店内に入ってきた。


「すみません、お待たせして」

「いや、委員会だったんだろ。仕方ないじゃん」

「──何か食べたいものはありますか?」

「ああ、ええと……」


 ふと、八尾の「まとめ」を思い出す。


「久しぶりに『アレ』食べたい。メイプルシロップの……」

「ミニパンケーキですね。了解です」


 荷物を置き、レジに向かう青野を見送って、俺はそっと息をついた。


(こんな感じでいいんだよな)


 ちなみに、ミニパンケーキは、こっちの俺が青野と付き合いはじめたころによく食っていたものらしい。俺が注文するたびに、青野は「よくそんな甘いもの食えますね」と顔をしかめ、そのくせこっちの俺が残した分を全部ペロッとたいらげていたそうだ。


(だったら嫌いってことはないよな)


 こんな時間まで委員会活動をやっていたってことは、けっこう疲れてると思うんだ。で、そういうときって無性に甘い物を食いたくなるだろ?

 やがて、トレイを手に青野が戻って来た。


「あんた、よくこんな甘いもん食べられますよね」

「ハハッ」

「……? なにがおかしいんですか?」


 ごめん、悪気はないんだ。単に、八尾のまとめどおりだって感心していただけ。


「お前も食えよ」

「いえ、俺は……」

「いいだろ。俺ひとりじゃ食い切れないし」


 ほら、と青野の分を取り分けて、少し多めにメイプルシロップをかけてやる。

 青野は「じゃあ、少しだけ」と遠慮がちに呟いたわりに、いきなり3枚も頬張って、俺はまた笑ってしまったのだった。

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