第8話

1・ナナセに報告

 そんなわけで、俺たちはいわゆる「お付き合い」を始めることになった。

 やばい。どうしよう。

 青野にしてみれば単に「よりを戻した」だけだろうけれど、俺にとっては「初めての恋人」で「初めての交際」だ。当然なにかと浮かれちまうわけで、帰宅するなりナナセには一発でバレてしまった。


「へぇ、良かったじゃん」


 それが、ナナセの第一声。

 ひそかにホッとしてしまったのは、元いた世界の妹を思い出したからだ。最近すっかり忘れがちだったけど、あっちの世界の青野はナナセと付き合っている。こっちのふたりとは別人だって頭ではわかっているつもりだけど、少しだけ罪悪感があったりして。

 いや、ほんと、こっちのお前が青野を好きじゃなくて良かったよ。もし、そうだったら、この想い、絶対に墓場まで持っていってたからさ。


「まあ、でもなんとなくこうなる気はしてたけどね」

「へっ……なんで?」

「だって、お兄ちゃん、青野のことめちゃくちゃ大好きだったじゃん」


 そのお兄ちゃんが、どっちの俺を指しているのかは努めて考えないようにした。だって、俺がこっちの青野の手を取るってことは、本来青野と付き合っているはずの「こっちの世界の俺」を押し退けるってことなんだ。


(でも、あいつだって、俺がいた世界で楽しくやっているかもしれないし)


 どうか、そうあってくれますように。こっちの世界の俺も、いいやつを見つけて幸せになってくれていますように。

 ひそかに手を合わせて、部屋に戻る。

 スマホを確認すると、さっそく青野からメッセージが届いていた。


 ──「塾終わりました」


 おお……青野とこういう日常っぽいメッセージのやりとりをするの、初めてだよな。


 ──「おつかれさま」

 ──「疲れました」

 ──「腹、大丈夫だった?」

 ──「なんとかいけました」


 そっか、よかった……と打ち込もうとしたところで、青野からふみニャンのスタンプが送られてきた。


「ふえっ!?」


 な、なんだよ、このスタンプ。いきなり「好き」って。

 青野ってこんなデレるヤツだったのか? それとも、世の中的にはこれが当たり前なんだろうか。


(じゃあ、俺も……)


 何か良さげなスタンプを──と一覧を確認しようとして、ギョッとした。こっちの俺、めちゃくちゃスタンプ持ってる! しかも、可愛い系のやつがけっこう多い。俺、いつも決まったスタンプしか使わないから、今までちっとも気づかなかったけど。


(うわ……これとか恋愛系しかないじゃん)


 ──「好き」「大好き」「愛してる」「デートしよう」


「『キスして』……」


 その文言を見たとたん、ブワッと頬が熱くなった。

 やばいやばい。今の俺、絶対に顔が真っ赤だ。

 けど、どうしたって思い出してしまうだろ? 駅前で、勢いのままかわした青野とのキスのこと。


(あれ……絶対同じ学校のヤツらに見られていたよな)


 くそ、今更だけどいろいろ恥ずかしすぎる。なんであんな大胆なことしちまったんだろう。

 それに、明日青野とどんな顔をして会えばいいんだ?

 俺、青野とちゃんと接することができんのかな。

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