13・お礼の品

 その答えは20分後に判明した。


「はい、どうぞ」


 コンビニの軒下で渡されたのは、まだ湯気がたっている肉まんだ。


「……サンキュ」


 なるほど、これが「お礼」か。なんだかんだで結局おごらせちまったな。


(しかも、これ「特上」じゃん)


 普段俺が食ってる肉まんは、スタンダードな120円のやつだ。けど、これは280円の「特上にくまん」──ぶっちゃけ、バイト代が入ったときにしか買わない、いわゆる「月に一度のお楽しみ」的なやつ。

 なのに、こっちの世界の俺はいつもこれを青野におごらせているらしい。


(有り得ねぇ)


 年上なんだから、もう少し遠慮しろよ。280円もあれば、ふつうの肉まんが2個も買えるんだぞ?


(……なんて考えるのが、すでに「わがままプリンセス」っぽくないんだろうな)


 その事実にモヤッとしつつも、俺は特上肉まんにかじりつく。

 くそ、やっぱりうまい。もうさ、肉が違うんだよ。量が多くて食い応えがあるし、肉汁もめちゃくちゃ「じゅわっ」って感じだし。肉以外の具材も、シイタケとタケノコが入っていてすげー贅沢っつーか。


(ああ、でも……)


 これ食ってると、今度は甘いのが食いたくなるんだよなぁ。

 それってたぶん味付けのせいでさ、この肉まん、食えば食うほど「甘いのも食いてぇ」ってなるっていうか。


「どうぞ」

「……え」

「そろそろ食べたくなる頃でしょ。ハイ、これ」


 青野が差し出してきたのは、まさかのあんまんだ。しかも、食べかけの。


「え、なんで」

「なんでって、いつものことでしょ。そろそろ『ちょうだい』って言い出すころだと思って」

「あ……ああ、そっか! そうだよな、うん!」


 久しぶりすぎて忘れてたわーなんて誤魔化しながらも、内心「ええ〜っ、こっちの俺〜!?」ってなってる。だって青野におごらせた上に、あんまんまでもらっているとか。まあ、さすがに一口だけだろうけれど。

 というわけで、青野の食べかけに口をつけた。

 甘い。あんこがいい具合に甘い。

 けど、それ以上に──青野の視線が甘い。見つめられているこっちが、息が止まりそうになるくらいに。


「あ……んまり、こっち見るなよ」

「どうしてですか?」

「どうしてって……」


 そんな目で見られたら、心臓が壊れちまう。

 どんどん好きになっちまう。


(もう、受け入れてもいい……のか?)


 まだ、お前が好きな俺っぽく振る舞えていないのに?

 ぜんぜん「わがままプリンセス」っぽくないのに?


(でも、俺はこいつのことが好きで……)


 こいつも「星井夏樹」のことが好きで、だったら……


(だったら、もう……)


 と、目の前にふわりと影が落ちた。


(え……)


 すぐそばに青野の顔がある。

 うっすらと赤らんだ頬、軽く開いた唇、熱をはらんだ緑色の瞳には、間抜けな顔つきの俺が映っていて──


(あれ、これ……)


 もしかしてキスされる?

 え、マジで!? そういう感じ!?

 青野の吐息が唇にかかり、俺はギュッと目をつぶった。

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