5・どうするべきか

 結局、この日はがっつり遅刻をして、2時間目から授業を受けることになった。昨日に引き続き、2度目のサボりだ。まずいな、このままだと外見どおりのチャラい人生まっしぐらになっちまう。


「星井、大丈夫か?」


 昨日の今日ってこともあって、山本は心配してくれているようだ。


「マジで具合悪いとか、そんなんじゃねーんだよな?」

「ああ、大丈夫」


 ちなみに、山本もけっこうモテ系の外見なんだけど、まったくもってキラキラして見えない。つまり、あのキラキラは青野限定──目の病気じゃなかったってわけだ。


(まあ、わかってたけどさ)


 厄介なことになった。

 どうしよう、まさか青野に恋しちまうなんて。

 思えば、これまで俺は好きな子と想いが通じ合ったことがない。どの子も俺以外のやつを好きになって、俺はいつも身を引いてばかり。だから、お付き合いどころか「好き」って伝えたことすらない。そうなる前に失恋が確定しちまうから。

 で、今回の青野だ。

 驚いたことに、あいつは俺のことが好きらしい。けど、それはあくまで「こっちの世界の俺」のこと。あいつが好きなのは、自由奔放で「わがままプリンセス」な俺なんだ。


(でも、青野は気づいていない)


 別人の「俺」のことを、自分が好きになった「俺」だと勘違いしている。で、がんがんアプローチをかけてくる。

 これ、どうすりゃいいんだ?


(やっぱり……突き放すべきだよな)


 そうじゃないと不誠実だ。

 あいつが好きになったのは俺じゃない。そのことを、俺自身がいちばんよく知っているんだから。

 と、机のなかのスマホがブルッと音をたてた。表示されたのはメッセージアプリの通知。送信者は八尾だ。


 ──「落ち着いたか?」


 ああ、くそ。やっぱりこいつは俺の親友だ。昨日からずっと俺がグラグラしてんの、よくわかってんだろうな。

 2時間目がはじまるまで、まだ少し時間がある。俺はすばやくメッセージを打ち込んだ。


 ──「話がしたい」

 ──「いつ?」


 昼休み──と返そうとして、俺はその3文字を削除した。


 ──「放課後。ラッキーバーガーで」


 松葉杖で寄り道はしんどいかなと思ったけど、あっさり「了解」って返ってきた。

 ありがと、八尾。心のなかで手をあわせると、今度は青野のTLを開いた。


 ──「ごめん、今日は用事できたから帰れない」


 既読がついたのは昼休み。でも、青野からのリアクションは何もなかった。

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