5・登校後

 ──以上が、今朝の登校時の出来事だ。

 あれから5時間、さすがの俺もうっすらと現状を把握しつつある。

 まず、ここは俺が知っているようで知らない世界だということ。

 目の色が「緑」なのは、ここでは「当たり前」だということ。

 青野行春は、妹のナナセではなく「俺」の彼氏らしいということ。しかも──


(まさかの肉体関係有り)


 怖い怖い怖い。なんでそんなことになってんだよ。

 たしかに俺、外見はチャラそうだけどさ。

 実際は童貞だし。それどころかキスしたこともねーし!

 なのに、こっちの世界の俺は経験済み? しかも相手は男? 俺、今まで女子しか好きになったことがねーんだけど。


(なのに抱いたの? 青野を?)


 ……ダメだ、想像できねぇ。ぜんっぜんムラムラしないし。

 しかも、あいつの証言によると、昨日俺は「学校でヤリたい」とリクエストしたらしい。「お付き合い半年記念日」を理由にして。

 嘘だろ、こっちの俺、そんな自由奔放な感じなの?

 それじゃ、あまりにも外見どおりすぎるだろ!


(いや、待てよ)


 たしか青野は「そういうの気乗りしない」って言ってたよな。

 その点は俺と同じだ。俺も、学校で事に及ぶなんてまっぴらだ。というか、そもそも青野とそういうことができるとは思えない。


(よし、一度話し合おう)


 お互いの利害は一致している。俺が「やめよう」といえば、青野もふたつ返事で了承してくれるはず──

 それが甘い考えだったと思い知らされたのは、4時間目の授業が終わってすぐのことだ。

 昼飯どうしよう、親友は欠席みたいだし──なんて考えていたところ、廊下側の席の女子に声をかけられた。


「星井―、青野くん来てるよー」


 後ろ側の出入口に立っていた青野は、今朝以上に凶悪な顔をしていた。まるで俺のことを視線でころそうとせんばかりだ。

 やばい。これはやばい。

 身の危険を感じた俺は「おー」と応じるふりをして、前の出入口から飛び出した。

 そこからダッシュダッシュ、めちゃくちゃダッシュ。

 で、なんとか旧視聴覚室に逃げ込んだ。ここは、仲のいい先輩が教えてくれた穴場で、めったに人が来ないから。

 よし、これでもう大丈夫。昼休みが終わるまでここに隠れていよう──

 そう胸をなで下ろしたところで、まさかの青野が登場、今に至るってわけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る