第4話
その後のドラゴン襲撃イベントなど多数の戦闘も正直、トニーの下手な操作技術とおバカな指揮によって苦戦するが、課金アイテムの黒騎士とチートキャラのセリーヌ=ロスガードの活躍によって事なきを得る。
そういえば、サミュエルは学園を卒業どころか、進級できずに一年留年後、退学になったのよね。
なんでも魔力の補助を受けることが出来ずに単位が取れなかったとか。
そして、その後はロゼッタの執事をやっているとか……無力を雇うなんて流石、悪役令嬢……使い道なんてあるの?
最後の戦闘も「切り札」によっていとも簡単に終戦する。
というか、最後が一番簡単だ。
爆弾を使用するかという会議で賛成をすればいいだけ。
あたしは聖女として書面にサインをした。
ゲームでは選択肢がでるだけだからポチっという感じで何も感じなかったのだけど、皆が見守るなかで紙に自分のサインをするって緊張したぁ!
ただ、手が震えているのを誤魔化すため、そして、余裕を見せるべく可愛い字体で最後にハートマークを付け加えてあげたわ!
あれは我ながら力作よ。
このイベントが終われば卒業と同時にトニーと結婚する。
もう人生イージーモードの薔薇色よ
学園の生活も残すところあとわずか。
もう消化試合なのよね……ちょっと退屈。
☆彡
卒業式前日
あたしは衝撃の事実を知ることになる。
授業も特になく学園も残りわずかと思うと感慨深いものがあり、余韻を楽しむように散歩をしていた。
初等部の少年少女の元気に走り回る姿。
パイロット候補生が体力テストをしていたりと日常を送っている。
そして、それは偶然か、必然か……中庭で祈りを捧げるロゼッタに出会った。
そういえば、最近サミュエル=ロスガードを見てないわね。
無力だからクビにでもしたかな?
流石の悪役令嬢もあれは要らなかった?
ちょっと気分もいいしいじめられたことは水に流して話でもしようかしから。
ただ、彼女の婚約者を奪った女であるあたしと話をしてくれるのか、それがちょっと気がかり。
「ごきげんよう、ロゼッタ」
あたしは一応、聖女としてロゼッタと話をしてみようと頭を深く下げる神聖教会式の一礼を行う。
彼女はそれに気が付いているのだろう。
かしこまった挨拶を返してくれる。
「これは聖女モニカ様、このような場所にてお会いでき光栄にございます」
公爵令嬢である彼女だが、聖女であるあたしには膝をついて深々と一礼をする。
「そういえば、最近、あなたの執事の姿が見えませんがご機嫌はいかがでしょうか?」
急に辞めさせたでしょ?なんて聞けないので、ここは遠回しに聞いてみましょう。
たぶん、彼女のことだ。
膝をついたまま淡々と理由を述べてくれるだろう……そう思っていた。
「は?何が言いたいの?」
一瞬にして場の空気が凍り付く。
彼女の威圧は本物であたしでさえも一歩、後退りしてしまうほど。
「え?あ、あの……」
あたしは彼女の態度に怯えてしまい返事が出来なくなる。
どうしたの?
悪役令嬢というにはほど遠い品行方正な彼女が、こんな言葉を使うなんて……それも聖女のあたしに向かって……どういうこと?
ただ、すぐに元のロゼッタ=ヴィンセントに戻る。
「これは失礼しました。その執事とはサム……サミュエルのことでしょうか?」
こ、これは聞いてもいいのかしら?
それとも話を聞かない方がいいの?
でも、彼女の対応にどうしても気になる点がある。
そんなにもサミュエルのことを聞いたらいけないの?
聞いたらいけない……と思うと余計に聞きたくなる。
「ええ。最近は姿が見えませんので、お休みをされているのかしら?」
あしたはこの世界のことを一切理解していない。
この時、現実を突きつけられて初めて知る。
「あなたが………………あなたが殺したんでしょ!!!!!!」
ロゼッタは怒りに満ちた真っ赤な顔であたしに詰め寄る。
そして、彼女はあたしの襟を掴み、あたしをひっくり返す力であたしに襲いかかった。
その力は本気だった。
あたしはすぐに魔力を体に巡らせて身体強化を行う。
彼女は本気であたしを……聖女を殺しに来ていた。
仮に殺す気がなかったとしても、彼女の目は血走り正気ではない。
ロゼッタも魔力量は高く、あたしでも振りほどけなかった。
ただ、近くに待機していた騎士の人やエリザベス先生によってなんとかロゼッタはあたしから剝がされて地面に押さえつけられる。
「あなたさえ……あなたさえいなければ……サムはあんなことにならなかった!……サムを……サムを返してよ!」
地面に押さえつけられたロゼッタは弱々しくなり、声も虫の声のように小さくか細くなる。
よく見れば顔は泣きはらした跡があり化粧なども一切していない。
その後、ロゼッタは騎士の人に連れられて帰っていく。
あたしは残ったエリザベス先生に彼女の言葉の意味を聞くことになる。
「あの、先生」
「なんでしょうか、聖女様?」
エリザベス先生と言えど聖女であるあたしには膝をつき深く一礼をする。
ただ、今はそんなことはどうでもいい。
ロゼッタの言動が気がかりでそのことを知りたい。
「ロゼッタの執事のサムってサミュエルのこと?」
「はい、その通りです」
「彼は今、どこにいるか聞いてもいいのかしら?」
エリザベス先生ですらもサミュエル=ロスガードのことを聞くと顔が引きつる。
これはただ事ではないと思った。
「……聖女様はご存じないでしょうか?」
エリザベス先生は逆にあたしに質問をしてくるのだが、その意味がいまいち理解できない。
「はい、最近姿を見ないなとは思っているのですか……」
なんと言えばいいのか分からない。
もしかしたら聞いてはいけないことなのだろうか?
ただ、エリザベス先生から返ってきた返事は予想の斜め上を行く。
「サミュエル=ロスガードは戦死しました」
「え?戦死……ですか?」
あたしは息をのんだ。
彼が戦死?どこの戦場で?何故、彼は死んだの……
「……聖女様は本当に知らされていないのですね」
「どういうことでしょうか?」
エリザベス先生の意味深な発言にあたしの頭は混乱していた。
サミュエルの死にあたしが関わっているというの?
「サミュエル=ロスガードは爆弾で死にました」
え?ちょっと待って爆弾でのこちら側の被害はゼロってトニーが言っていた。
「う、うそ……あれは味方の兵が全て安全な場所まで退避してから起動させたと聞いています」
「はい、わが軍は一人を除いて全員無事です」
「一人?もしかして……」
嫌な予感しかしなかった。
ただ、その一人が誰なのかエリザベス先生の話の流れでなんとなく分かってしまう。
「彼は……神風特攻により魔人の中心まで爆弾を運び起動、そのまま帰らぬ人になっております」
そんなウソよ……トニーも神聖教会の偉い人も……誰も死んでいないって……
「え?そ、そ、そんなこと……聞いていない。エリザベス先生、ウソは良くありませんよ」
あたしの言葉にため息を付きながら首を横に振るエリザベス先生。
エリザベス先生はあたしを哀れんでいたのだろう。
何も知らされていない道化となっている聖女モニカに……
「ウソではございません。聖女様がロゼッタお嬢様にサミュエルのことを聞いている時点でおかしいと思いましたが……やはり、知らされずにサインされたのですね」
「……それじゃあ、あのサインは」
爆弾を使用する許可……それはあの戦を終わらせると同時に……サミュエル=ロスガードを殺すことにサインしたのも同意。
「うっ……」
あたしは事実を知り、それを理解した瞬間に吐き気がした。
自分の文字を自画自賛し、おまけにハートマークまで付けたあのサイン……あれで……あたしは……そう、この手で……サムを殺した。
「大丈夫ですか、聖女様」
「うっ……おぇぇぇ」
「救護班!」
あたしはその場で盛大に胃の中のものを吐き出す。
その後は騎士や侍女の手を借りてなんとか自室に戻るが丸一日ほど寝込むことになった。
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