第3話

あたしが15歳になるとマギネスギヤのパイロットや調律士、エンジニアを目指す学園に入学


なんとそこにはサミュエル=ロスガードがいた。彼は無力だというのに無謀にもパイロット志望として学園に入学する。

この学園は選択授業があり志望する職業によって授業を自由に選べる。

クラス分けは実力順のはずだけど、半分は親の実力または権力が順位に反映されているという噂だ。


意外なことにセリーヌ=ロスガードは上位貴族の間では名が通っているが世間一般では無名だ。

そのために無力で親が騎士爵のサミュエルは最下位のFクラスだった。


特にイベントに関わるキャラではないので彼のことは無視していてもイベントは順調に進んでいく。

入学式のイベントでアンソニー殿下と再会……イケメン過ぎて鼻血が出そうになった。

彼ったらあたしを見るなり声を掛けてくるし、結構、嘗め回す様に体を見てくる。


年頃の男の子って感じが意外にもあたしとしては好印象。

異性から女性として見られている証拠よね。


まあ、サミュエル=ロスガードもあたしの体を見てくるからちょっと寒気がした。

美少年の多い中であの顔面はちょっと……ないかな……うん。


その後も授業も順調そのもの……マギネスギヤはアンソニー殿下のバディとして彼の後ろで魔力流して歌っているだけの簡単なお仕事。

歌で調律というのを行うらしいのだけど、流石、乙女ゲームの主人公……本当にあたしは歌っているだけで問題ないのよね。

転生チート標準装備のあたし!


ただ問題があるとしたらアンソニー殿下の中身よね。

お子ちゃまというかもう少し優しさというか大人の対応が欲しいところ。


それは初等部の近くを通った時

アンソニー殿下の目の前で小さい女の子が転んだのよね。


泣き出す女の子がいたけど、アンソニー殿下は一目見てすぐに目をそらしてさっさと通り過ぎてしまう。


「大丈夫?」


あたしは気になったので女の子に駆け寄る。


涙目になる女の子に回復魔法でも掛けてあげようとすると突如現れた人物がいる。


「ちょっと見せて」


なんと、サミュエルが現れたのだ。

彼は女の子に駆け寄り傷口を見て、大したことがないと判断した。


「大丈夫、少し血は出ているけど歩ける?」

「嫌、痛い」

「わかった、じゃあおいで」


サミュエルは歩けないという女の子を先生のところまでおんぶして連れて行く。

そして、初等部の先生に女の子を渡して帰っていくサミュエル。


「ねえ、ちょっと」

「はい?」


あたしは自分の活躍の場を奪われてしまったので文句の一つでも言ってやろうとサミュエルを呼び止める。


「あの、あたしが回復魔法で直してあげようとしたのに、なんで邪魔するの?」

「いえ、回復魔法なんて大層なものは必要ないと思ったので、それにお金もかかりますし」


サミュエルはヘラヘラした薄ら笑いを浮かべながら話をする。

あたしは、イラッとした。

そのために、彼への返答が少しきつい物言いとなってしまう。


「何言ってるの?お金なんて取るわけないじゃない!馬鹿なの!」

「え?」


あたしの返答に驚きを隠せないサミュエルは目を丸くしてあたしを見つめる。


「何をそんなに驚いているのよ?」

「いえ、回復魔法でお金取らない人なんて初めて会ったので」


そう、この世界で回復魔法はかなり貴重な魔法だ。

名門校でもあるこの学園ですら先生やあたしを含めても数名程度。


確かにお金を取る人はいるけどそんな人とあたしを一緒にされたのがちょっと癪だった。

あたしはサミュエル=ロスガードに詰め寄り自分はそんな人間ではないことをアピールしようとした。


ただ、距離感を誤ってしまったのと躓いてしまったのもあって


「あっ!」

「へ?……んんんっ!」


不覚だった。

あたしの唇がサミュエルの唇に当たってしまう。


あたしを受け止めてくれたのはいいが、なんてことする男だ。

これがイケメン王子様ならどんなに良かったことか……


サミュエル……こらぁ!顔を赤らめない!嬉しそうにするなぁ!

今すぐこいつに魔法を使って気絶させたら忘れるかしら……でも、それでも覚えていたら……

ここは……脅しておきましょう!


「忘れて!いや、忘れなさい」

「え?」

「わ、す、れ、な、さ、い!」

「は、はい!僕は何も覚えていません」

「よろしい」


あたしは腕組みをして更にサミュエルに圧を掛ける。

彼はそのまま小さくなっていくだけなので、脅しは効果抜群ね。


ただ、あたしはその日の出来事を一生忘れないモノになってしまうだろうと思った。

忘れたくても忘れられない悪夢のような出来事。

本当に最悪な一日を過ごすがイケメン王子がその後迎えに来てくれたのであたしはすっかり機嫌を取り戻し帰宅する。



☆彡



そして、2年生の夏季休暇前の夜会に婚約破棄イベントが起きる。


あたしがビュッフェ形式の食事を満喫していたところにロゼッタが現れる。

そして、故意にぶつかりあたしは皿と食事を落としてしまう。


「拾いなさい」


ロゼッタは上から目線であたしに命令する。

あたしはここからどうなるか分かっているのでとりあえず、しゃがみ込んで拾うふりをする。

すると、アンソニー殿下が声を掛けてくれる


「モニカ、拾わなくていい」

「殿下!」

「ロゼッタ、君には失望したよ」

「え?殿下、どういう意味でしょうか?」


ロゼッタはアンソニー殿下の言葉に笑顔を崩さない

でも、彼女の顔は引きつっているのが分かる。


「もうこれ以上の茶番は必要なかろう」

「で、で、殿下?」


アンソニー殿下はロゼッタに指をさし婚約破棄を宣言する。


「ロゼッタ、君との婚約は破棄する」


真っ青な表情で慌てふためくロゼッタ。

アンソニー殿下は彼女だけでなく会場の人にも聞こえるぐらい大きな声を出して物申す。


「へ?」


ロゼッタの表情はなくなり、自分が婚約破棄をされているのだがそれを理解するのに時間が掛かっていた。


「こ、婚約……破棄?」

「俺が何も知らないとでも思っているのか?」


日頃の行いのせいよ。ゲームではあまり感じなかったけど、必死すぎるロゼッタは本当にどうしもない女ね。


あたしの机を壊して、教科書を破いて……子供じゃないんだからって言ってあげたいわ。

まあ、本当にアンソニー殿下のことが好きなのでしょうね。

彼のために日頃から勉強や作法などの習い事をしていたはず。

しかもゲームでの彼女の教育内容は過激でかなりのスパルタ……よく頑張ってるよ、ロゼッタ!


「そんな……私は殿下のためにこれまでの日々を過ごしてきました」

「うるさい」


そうなのよ。

彼女の言葉に嘘偽りはない。

そこだけは、健気に頑張って来たのよ。


でも、子供じみたいじめなんてしてしまったせいでアンソニー殿下が彼女を愛せなくなってしまう。

……って、王族の婚約ってそんなことで破棄してしまってもいいのか疑問だけど。

そこは説明があったわね


「モニカは聖女に選ばれたのだ。彼女は今の俺に相応しい女性だ」


ということなのよ。

ごめんね、ロゼッタ。

聖女の方が格上なのよ


婚約破棄のイベントはあたしが聖女になるのが条件……と言っても半ば強制的に聖女になるのだけど。

アンソニー殿下が、いえ、トニーがあたしに惚れてしまうのよ……罪な女よね。モニカっていう主人公は。

おかげであたしの人生イージーモードは継続している。


「モニカ!」


急に振り返りアンソニー殿下があたしの名前を呼ぶ。

アンソニー殿下の声が低く響き、周囲のざわつきが一瞬止まった。


「私は、君に本当の愛を告げたい。」


アンソニー殿下が近づいてくると、私の前でひざをついた。

殿下の行為に、周囲は騒然となった。

彼が、誰かに跪くなど、それは前代未聞の事態だったからだ。


「君に僕の心を捧げる」


アンソニー殿下はあたしの手を取り、その甲にキスを落とした。

その行為に周りは騒然となり


「そ、そ、そんな……」


アンソニー殿下の態度にロゼッタは膝から崩れ落ちる。


その姿を見たあたしの感想はざまぁの一言

いやー、スカッとしたよ。


実際にあのイタズラをリアルで直接受けるのは精神的にダメージあるもんね

本来なら精神的に未熟なモニカが受けるんですからかなりつらかったと思う。

あたしはあまり覚えていないけど人生2回目だからなんとか乗り切れたって感じ。

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