第2話

その後、日が暮れて廊下や部屋には明かりが灯る。


そこは王都の中心にある社交場としては有名な会場「ヴォルディスクの宮廷別館」

ここは王族が住まう宮廷の別館として用意されており、このパーティ会場に招待されることは貴族にとって一種のステータスとなっている。


今回は大きな戦の勝利を祝してヴォルディスク王が主催で開かれるパーティだ。


参加者は貴族の中でも戦を中心に関わるメンツで当然、まだ現役の先代勇者レイブンも参加することになっている。


彼は渋いイケオジで……あれは枯れ専じゃなくてもイケメン好きな女性なら魅力を感じるんじゃないかな?

かく言うあたしもちょっといいなと思っていたけど……実物はよだれモノだった。


ただ、ハゲやデブのおっさんが周りに沢山いたのであまり近寄れない。

加齢臭がすごいの……今日のところは遠くで眺めておきましょう。


それにまだ若いヴォルディスク王も口ひげを蓄えているがまさにイケオジ……こっちもこっちでよだれが……。


おっとはしたないわ。


12歳と言えど淑女たるものイケオジやイケメンに興奮ばかりもしていられない。


あたしは立食パーティということでお目当ての食事をとりに行っている途中にちょっと気になる人物に出会った。

彼の見た目は決して普通とは言えない……第一印象は気味が悪かった。


でも、決して口に出しては言えない。ただ、誰しもが気味悪がっている。


彼の顔は面積のほとんどが火傷の跡で爛れており、ぱっと見はゾンビのようなものだ。

背格好から今のあたしと同じぐらいの年の少年ということを考えるといささか不憫である。

ただ、彼に聞こえるぐらいの声で「気味が悪い」という人もいるのであたしは少しばかりだが腹立たしかった。


その少年も好き好んで顔に火傷の跡があるわけではないだろう。


じっと彼を見ていると彼があたしに近寄ってくる。

そして、声を掛けられた。


「こんばんは!僕、サミュエル……サミュエル=ロスガード」


舞踏会であたしはサミュエル=ロスガードに声を掛けられる。

これが彼との初めての出会い。


でも……彼には悪いと思うが……近くで見ると更に顔の火傷の跡が痛々しかった。

ふと、後ろやちょっと離れた場所にいる美少年と比べてしまい一歩後ろに後ずさりしてしまう。


「はじめまして!ロゼッタ=ヴィンセントです」


彼の火傷の跡が印象的で隣にいる美少女に気が付かなった。彼女は丁寧にあいさつをしてくれる。にしても、この子、あたしと同じぐらいの年かな……滅茶苦茶、可愛い……!

サミュエル=ロスガードのとなりの美少女は幼いながらもしっかりとした礼儀作法にて挨拶をしてくれる。


って、ロゼッタ=ヴィンセント!?……あたしの敵である悪役令嬢の登場。

だけど、まだあたしたちは12歳。


婚約とかそういうものはもう少し後の話。

だから、あたしは動揺していることを悟られない様に笑顔を作る。


「はじめまして。あたしはモニカ=マクスウェル。宜しくお願い致します」


相手に合わせて挨拶をする。

貴族の挨拶なんてよくわかってないけど、モニカとして12年生きた記憶が辛うじてあるのでそれを頼りにスカートを指でつまむ。


それにしても、ちょっと引っかかる。

何かしら、この違和感は……


あたしは顎に手を当て考え事をしていたのだが、サミュエルがロゼッタに何やらお願いをしていた。


「ローズ、このお肉食べたい」

「ええ、さっき食べたじゃない」

「だって。美味しかったもん」

「もう、仕方ないわね」


なるほどロゼッタの方がお姉さんなのね。

ロゼッタはあたしと同級生のはず……ということはあたしから見てもサミュエルは年下ということね。


魔導具を使って肉を焼くロゼッタ。


舞踏会はビュッフェ形式になっており、サミュエルが欲しがっている肉は自分で焼く必要があった。

それを焼いてもらうなんて本当にお子様ね。

見た目ではあまり変わらないような気がするから彼のために一声かけましょうか。


「ねえ、それぐらいは自分でやったほうがいいよ。やり方教えようか?」


あたしはサミュエルに教えてあげる。

自分のことは自分でやりましょうって……優しく言ったつもりだった。


「うぅ……ぐすん」


なんと、サミュエルは泣き始めたのだ。


「え?ちょっと……どうしたの?」


泣き始めたサミュエルに困惑する。

たった、これだけのことで泣くなんて、なんて情けないの……そう思った。

しかし、ロゼッタがすかさずサミュエルのフォローをする。


「モニカ、あのね、サムは生まれつき魔力がないの」

「え?それって、無力ってこと?」

「ええ、だから魔導具を使わないわけじゃなくて、使えないの理解してあげて」


この世界には魔法というものが存在する。

そして、誰しもが多かれ少なかれ魔力というものを持っていた。


だが、極稀に魔力を一切持たない人間が生まれる。

本来、彼らが20歳まで生き残る確率は極めて低い。

なぜなら空気中に魔素というものが含まれており魔力がない人間にとっては毒なのだ。


だからこそ、目の前の彼は……残り僅かの命なのだろうか?

そう考えると甘えん坊なところは納得してしまう。


「そうなのね、ごめんなさい。サミュエル」

「……うん」


あたしが叱ったとでも思っているのだろう。

ロゼッタの影に隠れて肉を食べるサミュエル。

にしても、女の影に隠れるなんて情けないわね。


「あら、こんなところにいたのね」

「あ、母さん!」


現れたのは真っ赤に燃えるような赤髪を腰まで伸ばした女性。

あたしは女性を一目見た瞬間に名前が分かってしまった。


セリーヌ=ロスガード……「勇者達と恋するマギネスギヤ」の最強チートキャラ!

このゲームが簡単すぎるとユーザーからクレームになるほど強敵を倒してしまうキャラ。


課金アイテムで戦闘お助けキャラがいる。

通常のストーリーの戦闘回避してくれる「代行黒騎士」

そして、強敵を倒してくれる「おねがいセリーヌ」

この二つがあるために課金ユーザーは戦闘をすることなくストーリーを進めることが出来るのだ。


ただ、セリーヌの難点は……1回分が意外に高いということだ。

そりゃあ、裏ボスまで倒してくれるほどの実力者だからね。


って、今、サミュエルはセリーヌ=ロスガードを母と呼んだ?


「母さん、ローズがお肉焼いてくれた」

「そう、良かったわね。ありがとう、ローズ」


最強チートキャラは将来の悪役令嬢に微笑みかける。


「いえ……」


褒められたロゼッタは頬を染めて嬉しそうにしながらも照れているのか俯いてしまう。

そんな仕草を見る限り……将来あんなに意地悪な悪役令嬢になるなんて信じられなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る