リセットするためにうたうもの

バカヤロウ

第1話 人生イージーモード

ここは日本のとある病院のベッドの上

あたしはいつも通りの検査を受けていた。


体中に突き刺さる管の数は自分では数えきれないほど

これを生きていると言っていいのか?


たぶん、違う


今のあたしは機械に生かされている。

そう感じずにはいられない。


あたしは生まれつき病気を持っていた。

ただ、幼い頃の闘病生活は苦ではない。

隣に住む幼馴染の子がいつも遊んでくれた。


それに生まれつきの病気は治ると先生に言われていたので今だけ我慢すればいい。

そうやって考えると気が楽になっていた。


ただ、それはその時だけの励まし……今こうして再発しているのだから……。


ああ、いつかあたしの王子様は迎えに来てくれるのかな?


ふと、入り口へ視線だけを向ける。

ベットに寝た状態で見える白い扉。

そこを開けてあたしに会いに来てくれる存在……。


って、もうそんな存在はいないかな。

この妖怪管女のところに来てくれる奇特な王子様なんている訳がない。


だって、彼は……あたしの元王子様はもう別の人と仲良くやっているはず。


……………今、彼は何をしているのだろう?


このまま、死ぬのかな……嫌だな……死にたくない。

はあ、新しい王子様でも現れないかな。


白馬に乗る必要ない。

ただ、あたしをこの場所から救い出して欲しい。


未練がましいあたしは彼の顔を思い浮かべる。

笑った顔、怒った顔……ただ、最後にインパクトのある顔が思い出されて自分が嫌になる。


そうよね……元鞘には戻れない……よね


あたしはまた目を閉じた。


目尻からでる汗が頬を伝うのがわかる。


ああ、人生イージーモードで送ってみたい……


叶わぬ夢を胸に抱きながらあたしは途切れていく意識に身を任せた。




「ちょっと、モニカ大丈夫?」


何やら周りが騒がしい……それにしても「モニカ」ってあたしがハマっている乙女ゲームの主人公のような名前の女の子がいるのね。


「お嬢様……モニカお嬢様、大丈夫ですか?」


え?あたしが揺すぶられている?

あたしはモニカと違うよ。

あたしの名前は……あれ?名前……あたし、自分の名前をど忘れしてる。


あたしは蛍光灯の光が眩しいなと思い目を開ける。


しかし、何故かあたしはお日様の下にいるのだ。

誰かが覗き込んでいるので直射日光は免れているが紛れもなく外にいる。


え?これは一体……いつのまに外に出たの?


「あ、モニカが目を開けた、大丈夫?」


目の前には長い金髪の女性があたしを覗き込んでいた。

とても心配そうにしているが、誰だろうか?

会ったこともない女性に心配されることに戸惑うあたし。


確かに体中に突き刺さっている管は誰が見ても哀れに思うかもしれない。


って、あれ?管がない。


あたしは自分の手を持ち上げて見つめる。しかし、自分の手を見て驚く

爪には綺麗にネイルが塗られている。

というか、それよりも自分の手じゃない!


「え?これは……それに、ここは?」


あたしは自分の発した言葉に驚いた。

なぜって、その声はまるであたしの知っているあたしの声ではなかった。


「ここは宮廷の別館よ」

「宮廷?」


あたしを心配そうに覗き込んでいる女性があたしの質問に答えてくれる。

何やら不思議な単語が女性の口から出てくるが、よく見ればあたしを覗き込んでくる女性の服も不思議だった。

まるで、これからパーティでもするのだろうかというぐらい豪華な衣装を身にまとっている。


「モニカお嬢様、しばし、木陰で休憩しましょう」

「トマス、お願いね」

「かしこまりました、奥様」


あたしを軽々と抱き上げるイケオジ

ヤバ、この人、カッコイイ……30前半ってところかな。

白髪交じりではあるが、顔形が整っているのと筋肉質な腕はあたしが惚れるのに十分な要素は満たしている。


その後、あたしは宮廷にある立派な木の影で休んでいた。


って、あたし……転生したの?

少しずつ蘇る幼い頃の記憶。

あたしは現在12歳。

名前はモニカ=マクスウェル。

マクスウェル男爵家の長女。


あたしはいくつかの質問をトマスにぶつける。そして返ってくる答えで確信した。

この世界は「勇者達と恋するマギネスギア」という乙女ゲームの世界。

そして、あたしは主人公のモニカに生まれ変わった。


これを知った時、あたしはガッツポーズをとる。

あたしの将来は安泰だと確信したからだ。


このゲームは乙女ゲームなのにSFRPGが売りになっている。

ゲームの難易度はかなり低く、ヌルゲーで有名。

どんなことをしても助っ人キャラが助けに入り最後は王子様と結ばれるのだ。


ただ、バッドエンドは存在するから気を付けないと。


でもゲームで12歳のシーンなんてあったっけ?


「お嬢様、少し席を外します。すぐに戻りますのでしばしお待ちください」


トマスは宮廷の方へと移動する。

どうやら飲み物を取ってきてくれるのだろう。


なんて優しいのかしら……あたし攻略対象がトマスでもいいわ!


更にモニカの家って男爵の割に意外と裕福なのよね。

前世……思い出せないことがたくさんあるけど、一般的な家庭で育っている私にとっては天国だ。


あたしは、辺りをきょろきょろと見回す。

すると宮廷に来ている貴族やその使用人たち。

そのほとんどが、美男子、イケメン、美少年、イケオジ、美男子、イケメン、美少年、イケオジ……眼福にもほどがあるわ!


流石、乙女ゲームね……レベルが高すぎる……おっと、涎が……。


まあ、中には禿げやタヌキ、豚も紛れているけどイケメン率の高さは素晴らしい。


これぞ、まさしく人生イージーモード!


ちなみに後から年を聞いて驚いたのがトマスの年齢だ。

彼……既に50歳らしい。

若白髪が少しあるぐらいかなと思っていたけど……。

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