第42話
「さて、目的の奴には逃げられたけどとりあえず此処に来た目的は達成できたわけです。それはとても嬉しい事です……ですからこの状況は本当につらい。分かりますか?」
縄でぐるぐる巻きにして天井から吊るしたネズミに問いかける。
「——」
「返事が返ってきませんね。もしかして俺はなめられているんでしょうか?」
「——」
「うーん……あ、そうだ忘れてた。そういえば口をガムテープで塞いでいましたね」
「——っはぁ!」
口と鼻が解放されたネズミは赤い顔で必死に呼吸する。
「いやー、申し訳ない。気づかず1人で喋り続けちゃって」
「はぁ、はぁ、はぁ……はぁ……」
「さて、息も整って会話も出来るようになった事ですし始めましょうか」
「え、ちょっ——あああああああああああああ!?!?!?!?」
懐から取り出したテザーガンをネズミの足に向けて発射すると絶叫が轟く。
「そんなに痛かったですか?おっかしいな。俺も試したけどそんなに痛くなかったんだけど……まあいいか。これから調節していく事にしましょう。時間はあなたが死ぬまでたっぷりとある」
「まっ、待ってくれ!?」
「待つ?なにを?」
「その銃で俺を撃つのをだ!」
手に持つテザーガンを見た後ネズミに見せると首を激しく縦に振る。
「わかりました」
やれやれとテザーガンをしまう。
そして代わり取り出した。
「電気が嫌なら鉛玉の出るこっちにしましょう」
「っ!?」
「これね、あなたの手を撃ったやつなんですよ」
「そ、それがなんだっていうんだ……?」
「いやね、だから、どれくらい痛いか覚えてるかなって……ほら丁度この手ですよ。この手」
血で滲んでいる包帯が巻かれた手に銃口をぐりぐりと押し付けるとネズミはテザーガンを撃った時の様に耳障りの悲鳴を上げた。
「あー、やっぱり痛いですよね。でもそれはミチルさんもおんなじだったと思うんですよ」
ミチルさんは女だ。
それもすでにぼろぼろかつ兵士ですらない。きっと今のネズミ以上に苦しかった事だろう。
「っ、はぁ、はぁ……あの女の復讐のつもりか……会ったばかりでろくな会話もしてないあの女の……」
「まさか。ミチルさんが撃たれたのはあなたを裏切った結果なんですから無関係です」
「だったらなんでこんな事を?」
「……それ本当に聞いてます?」
吊るしたネズミを足で強く押し振り子のように揺らす。
「あんたは俺を……いや、俺達を裏切った」
手にしている銃を揺れるネズミに向ける。
「ちょっ、ま、待ってくれ!?」
ネズミは歯をガチガチと鳴らし顔はみるみる真っ青にしていく。
「俺はちゃんと釘を刺した。だからこれも裏切りによる1つの結果だ」
引き金にかけた指を弾いていく。
「心して受け止めろ」
その俺の言葉の直後ネズミは泣きながら何かを言おうとしたが銃声によってかき消された。
・〜〜〜○
「——とまぁ、こんな事があったわけだ」
「なにがとまぁですか!?」
正面に座るカグヤが俺の胸ぐらを掴んで激しく揺らす。
「やってる事おもいっきり悪人じゃないですか!?と言うかあなた人殺しなんか嫌いだって言ってませんでしたっけ!?」
「うん、言った」
「でしょう!なのになんで殺しちゃってるんですか!昨日の夜私に言いましたよね!裏切った事について説教するだけだって!」
そう、あの後……ニッコウに逃げられネズミを行動不能にしたあと俺はミチルさんの応急処置をしてカグヤに看病を頼むとネズミを連れて彼の隠れ家であるあの廃ビルに運び込んで吊るした。
「殺してなんていないぞ。人聞きの悪いことを言わないでくれ」
「でも撃ったと言いましたよね?」
「言ったけど殺したなんて一言も言ってない」
「……たしかに」
まったく酷い勘違いだ。
まあ、俺の昔やってた事と相手があんなのであれば勘違いしてもしかたない事ではあるけれど。
「でも殺してないなら何をしたんですか?」
「恐怖を刻み込んでた」
「恐怖?」
「夢にまで見そうなやつを少し……」
左右に揺れるネズミに向けて放った最初の弾はわざと大きく外しその後、揺れるネズミにもう一度弾を撃つ。しかしそれもわざと外す。
これにより相手は俺が下手なのだと思って少し安心するだろう。
でもそれはより強い恐怖を与えるための工程。
その後弾は近づいていくのだ。
1発撃つごとにどんどんと頭へ。そして最後には耳や頬をかすめさせる。
「——それって夢に見そうなほどの恐怖ですか?」
説明を聞いていたカグヤは不思議そうに首を傾げる。
「そうでもあるしないとも言える」
「どういう意味ですか?」
「相手によるってこと。例えばとてつもなく度胸のすわった相手なら効きにくい。けど相手が弱気だったり最低な小物だった場合は違う。相手は直感的に自分は弄ばれている。いつでも殺せるのにより苦しませて殺そうとしているんだって一層強く考えるから」
昨晩の耳と頬をかすめ白目を剥いて気絶したネズミを思い出す。
例え話、過度な恐怖は猫をライオンに見せ輪ゴム鉄砲を実弾銃のようにも思わせる。
「つまりは相手の思い込みですか?」
俺は首を縦に振るとカグヤは感慨深そうに腕を組んで考える。
「なるほど……それは確かに効果的かもしれませんね。思い込みである以上、人に何を言われても考えは変え難く頭から決して離れず強く刻まれる。」
「だからネズミが俺達に危害を加えようとする事は二度とない。勿論あの人にも」
「そうですね。たしかにそれなら安心です」
俺達はトラックの運転席から後部へと繋がる扉を見る。
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