第40話
ペットショップの社長はクズだった。
だからというのは酷い話ではあるけれど死んでくれて清々している……だからなのだろうか。
人の不幸を喜んだばかりに自分の首をしめる結果になってしまったのは。
——いやないな。
こういうトラブルは大概なるべくしてなるものだ。
「というわけで理由はなんであれトラブルはとっとと終わらせてもらう」
「なにがというわけだ?訳がわかんねぇぞ?」
「知る必要なんてない。アンタがこれから考えるのは汚い牢屋の中でいつ自分がどんな死に方をするか考えることだけだ」
懐からテザーガンを出し壁にもたれかかるニッコウに銃口を向ける。
「テザーガンだぁ……?」
終始爛々と目を輝かせていたニッコウの目が怒り一色へと変わった。
「せっかく、自由になったのに!なにやってんだ!人殺しの申し子であるお前がそんなもんを使うのは間違ってんだろう!?実弾のやつを使え!ナイフを使え!そして殺せ!殺してもとのお前に戻るんだよ!アカリぃ……!」
爆弾が爆発したかのような勢いに思わず面食らう。
そうだ、忘れてた。こいつはどういうわけか俺は殺しが好きなのだと思っているのだった……はっきり否定した筈だというのに。
「前にも言ったけど俺は殺しが嫌い——」
「やっぱりまだダメなんだな……残念だぜ」
「!」
次の瞬間室内でゆっくり燻っていたはずの火が突然激しく燃え盛り室内を覆い尽くした。
「これは——っち……!」
俺とニッコウを炎が分断する。
この不自然な燃え上がり方……事前に油でもまいてたな。くそっ、血の臭いがキツ過ぎて気づけなかった。
「姑息な手を——!?」
炎の向こうで立ち上がったニッコウが背後の非常口を開ける。
「不本意だが今回はずらからせてもらうぜ」
「っ、逃げるのか!」
「ああ……でもものは考えようだよな?俺の手でじっくりと本当のお前に戻してやれんだから」
この距離ではテザーガンは射程外。
ナイフを投げて足を止めさえすれば……。
ナイフを握りしめニッコウの足へ投擲しようとする。でもそれは出来なかった。
何故なら外から銃弾が飛んできて慌てて回避を優先したから。
「外から攻撃?仲間がいたのか」
「残念だけど違ぇよ。外の連中は可哀想な操り人形だ」
「操り人形だって?」
「見ればわかるさ。じゃあな、せいぜい楽しんで殺してくれ」
「まて!」
外へ出ていくニッコウ。
逃さまいと炎に突っ込むつもりで追おうとする。けれど外から飛んでくる銃弾によって阻まれる。
くそっ、追いたいけどそれに火も……仕方ないひとまず外の敵を無力化するしかない。
飛んでくる銃弾を掻い潜り燃え盛る酒場の窓をぶち破って脱出する。
「出て来たぞ!」
「あのガキをぶっ殺せ!」
店を囲んで銃を撃っていたと思しき男達。
彼らは出てきたこちらを見るなり問答無用とばかり銃口を向け引き金を引く。
「っ、こうも派手に出て来たら集中砲火を受けるのは仕方ないか……」
さて、どうするか応戦するか……いや、もしかしたらニッコウに弱みを握られてやらされてるって可能性だってあるしここはまず話し合いからいこう。
「あのー!撃つのはやめてもらっていいですか!ここは落ち着いて話し合いましょう!」
銃弾を回避しつつ声をかけてみる。
「知るかよそんなもん!こっちは燃えた酒場から出て来た奴を殺せって依頼なんだ!」
「おうよ!ガキだろうが女だろうが関係ねぇんだよ!」
「俺たちの100万のために死んでくれや!」
なんとも勤勉な返答を頂いて泣けてくる。
あー、賞金稼ぎか。
ニッコウの言った操り人形というのは金を餌にという意味で……これはまいった。
真っ当な理由で襲ってくるのだとしたらいくら口で説得しても止まらない。
「仕事熱心共め。粗っぽくいくけど一応正当防衛だし勘弁してくださいよ」
そこからは一方的な展開になった。
回避に専念する必要はなくなり賞金稼ぎ達へ暗闇や遮蔽物を利用して近づき1人、また1人と叫び声をあげる暇さえあたえず残さず制圧した。
その直後だ。此処から離れた場所、カグヤ達を置いて来た方からの銃声がよく聞こえたのは。
・〜〜〜○
アカリさんが1人で向かって30分ほど。
足手まといであるが故に残された私は色々考える事があった。
まず1つは、アカリさんが戻るのが思ったより遅いため助けに行くべきか。
その2にこの気まずい空気をどうにかできないかということ。
チラリと機嫌の悪そうな顔をして腕を組んで一切口をきこうとしないミチルさんを見る。
うぅ、どうしたらいいんでしょう?
アカリさんが心配だけれどミチルさんとずっとこんな喧嘩中みたいな感じは嫌ですしどうにかして機嫌を直してもらいたい!でも何を言っても返事をしてもらえませんし!?もうどうしたらいいですか!
などと考えていると銃声が響いた。
慌てて音のした方を見てようやく異変に気がついた。
「火事!?」
空がうっすらと赤く照らされている。
周囲を巻き込む酷い火事ではない。せいぜい建物一軒分くらいの規模ではある。しかし問題はその火事が起きているであろう場所。
「あの方角は、たしかボウズを案内した方じゃないのかい?」
驚いた様子でミチルさんは呟く。
そうあそこはアカリさんがいる。
そして今の銃声などを鑑みるに間違いなくこの火事も戦いによるものだと思われる。
でもこれはおかしい。
戦う相手は人殺し1人だけのはず。なのに今もしている銃声は1人で撃っているとは考えられない数の音。
「アカリさんが1人で大勢を相手どっている。それはつまり相手に仲間がいたという事だけどそんな情報はなにも——っ!?」
考え込んでいると急に私の両肩が掴まれた。
「今すぐこの町を出な!」
必死の形相をしたミチルさんの顔がそこにあった。
「きゅ、急になにを?」
「この町を出るんだよ!」
「い、いえ、そう言われましても……」
状況がよく分からない事になったいじょう私はアカリさんの元に向かわないといけない。それに町を出るにしてもアカリさんが一緒じゃないとダメであるし……。
「……と、とにかく落ち着きましょう?あのくらいの火事なら此処まで火が来るにはまだ時間はありますし」
「そんなことを話してるんじゃない!まだアンタだけならなんとか逃げられる!だから……!」
言葉の意味を問おうとした次の瞬間、1発の銃声と共もに目の前で赤い雫が宙を舞った。
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