第31話

 雲に覆われた空の下、俺とカグヤは立っていた。冷たい風が吹き抜けるたび皮膚が冷えて痛い。


「アカリさん、聞きたい事があるのですがいいでしょうか?」

「質問による」

「では……どうして私達は銃を突きつけられいるのでしょうか?」

「……どうしてだろうな」


 視線の先に銃を突きつける男達。

 

「おい!勝手に喋んじゃねぇよ!」

「脳天吹っ飛ばされてぇのか!?」

「だがそれだと売りもんにならねぇから銃で殴るだけだけどな!」

「なんたって俺達は泣く子も黙る凄腕の人攫いだからな!」


 なるほど人攫い。という事はテレサさん達の町へ向かう途中に俺達と偶々鉢合わせしたからついでに襲ったということか。


 俺とカグヤはため息を吐くと互いに顔を見合わせて頷きあう。


「てめぇら!話を聞いてねぇのか!?勝手に喋ったらこれで——うひ!?」

「——あひ!?」

「——ぐひ!?」


 あまりも隙だらけだっから銃を使う前に男達を倒してしまうと身ぐるみを剥いでその服で近くの木に縛っておく。


「泣く子も黙ると言っていた割に呆気ないですね」

「自称だったんだろう。それよりこんなのとはいえ町の近くに来てるとなると急いで問題をどうにかしないと」

「町の噂を流している誰かですね」


 町の噂を流している誰か。

 目的がなんであれとっとと見つけて情報の流布を止めないと予想通り今の様な連中をさらに相手をしなくてはいけなくなる。


 それと最悪、地球軍なんかも出てくる可能性だってあるし……それは本当に勘弁だな。月のお姫様に正体不明のSDなんて見られたら荒事待ったなしだろうし。


「はあ……どうしてこう厄介ごとに縁があるんだろう」

「何を思ってかは追求しませんけど、その言葉に敢えて答えてあげるなら……そういう星の元に生まれたです」

「……そんな星消えてしまえ」


 この後、捕まえた男を1人だけ起こし噂を流している誰かの話を聞き出してもう一度気絶させてその場を後にした。


 移動すること30分後。


 聞き出した情報から噂を流している誰かが居るらしい町に辿り着いた。だがトラックの運転席で俺達は顔を顰める。

 

「……随分と、妙な町ですね。誰も彼も手に銃を持って楽しそうにして」

「銃を持つっていうのは特におかしくないんだけどな……でも確かにおかしいな。妙に殺気立ってる」


 銃を持って者達に限り顔は皆一様に険しく後ろから驚かすみたいな下手な悪戯をすれば問答無用で撃ち殺しそうな殺気を放っていた。


「なにかあったのかもな」

「確かめてみます?」

「そうだな……でも慎重にな」

「わかりました」

「それと俺から絶対離れないように。でなとと多分攫われるから」

「え」


 冗談でしょう?と言いたげな顔をするカグヤ。だがこれは冗談なんかじゃなくて本気だ。


 怪しまれない程度に周囲を観察したが何人かトラックを運転する俺を値踏みする様な視線を向けてきた者達がいた。十中八九人攫いで間違いない。


「俺も攫われる危険はあるけれどお前の方が深刻だ」

「どうしてですか?」

「女なのと見た目が子供だから」

「右頬と左頬、どっちを叩いてほしいですか?」


 笑っているけれど笑ってないカグヤが詰め寄る。


 このお姫様、自分の秘密を打ち明けてからやけに攻撃的になったな。もしかしてこれが素なのか……いや、会った時から割と攻撃的だったな、俺が全面的に悪いんだけど。


 なんとかビンタを止めるように説得すると俺達はトラックを置いて徒歩で移動を開始した。


「情報通りならこの先の廃ビルだといつ話ですけど、そんな所に本当に居るんでしょうか?」

「どうかな。今から行くような古びた建物で情報を流す様な奴等は大概その場所を根城にして客をとるタイプが多いけど、一概にそうだと決めつけるのはな……」


 やっぱり視線を集めてるな。誰も彼も内心美味そうな獲物を目の前にした山犬みないに舌なめずりしているのが丸分かりだ。


「何事も決めつけて掛かるのは危険ですからね。とりあえずは何が起きてもいいように警戒第一でいきましょうか」


 カグヤもまた周囲の反応に気がついている様で周囲を警戒している。


 危機感を持っていてくれている様で安心したと思った矢先だった。カグヤが急に立ち止まった。


「どうした?」


 振り返り声をかけるとカグヤは目を輝かせて横にある店を指差した。


「たい焼き屋さんです!」

「ん?ああ、そうだな」

「たい焼き屋さんなんですよ!アカリさん!」

「あ、う、うん見れば分かる」

「外はサクサクで中はホワっとしているらしいあのたい焼きなんですよ!アカリさん!」

「そ、そうだな……」


 いったい何をそんなに騒ぐのか訳が分からず呆気に取られているとある事に気がついた。


「もしかして食べた事ないのか?」


 そう聞くとどうやら当たりのようでカグヤは恥ずかしそうに笑う。


「家の方針というやつでして、こういった食べ物はまったく……」

「ふーん、まあ、お姫様だったんだもんな。そういった束縛の1つや2つあるか……」


 そう言えば、俺も食べた事一回もなかったな。


 そう思ったからか無性に食べてみたくなって気がつくと俺はたい焼きを買っていた。


「はい、あんことカスタード」


 カグヤの分が入った袋を手渡すとカグヤは不思議そうに目を瞬く。


「え、いいんですか?」

「いいよ。もののついでだし」

「いや、そんなの悪いですよ!自分の分は自分で出しま——あ」


 カグヤはポケットに手を突っ込んだまま突然顔面蒼白になった。


「わたし、お金持ってませんでした……」

「え、そうなの?お姫様だったのに?」

「は、はい、と言いますかお姫様じゃなくなったからお金を持ってないと言いますか、持ち出す余裕がなかったと言いますか……」

「ふーん、大変だな」

「……ですね」


 カグヤはたい焼きの袋を持った両手を震わせて俺の方を涙目で見る。


「……どうしましょう?」


 その言葉の意味はこれからの金の事もそうだが多分、たい焼きの代金はどうすればいいのかとという事も含まれているのだろう。


「とりあえず食べた後に考えようか」

「は、はい……ありがとうございます」


 そう言ってカグヤは頭を上げた。


 俺が勝手に奢ったんだから気にする事もないだろうに律儀な事だ。とは言えカグヤとしてはこれから収入がないと色々困るだろうし、少し考える必要がありそうだ。

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