第28話
これは一体どういう状況なのだろう?
日は暮れ人気のない俺のSDの隠し場所の前で話があると言われカグヤと2人っきり。
俺はまた罵倒されるのだろうか?しかも今度は人気のない所でじっくりと……今度は号泣するかも。
「えーと……なにかよう?」
とりあえず俺が口火を切る。
するとカグヤはもじもじしながら口を開いた。
「……ちゃんと、言っておきたい事があったんです」
「言っておきたいこと……?」
なんだろう……ナイフ出して『野郎!ぶっ殺してやる!』とかだったらやだな。
「午前中は、その……言い過ぎました。すみませんでした」
カグヤは深々と頭を下げる。
「え、なんで頭なんて……」
「私は、愚かにも貴方やこの今の世界の事を何も知らず自分の理屈だけで一方的に貴方を罵倒してしまいました……恥ずべき行為です……本当にごめんなさい」
「げっ!?」
カグヤが瞳に溜めていた涙が地面に落ちていく。
「ちょっ、なんで泣くんだ!」
謝られるのもそうだけど泣かれるなんて予想もしてかなった。
「っ……だ、だってぇ〜!わ、わたし、話も聞かずに……っ……あ、あんなひどいことを……っ」
「なんでもっと泣くんだよ!?」
「だってぇぇ〜!」
何をどう言ってもわんわん泣いてお手上げ。どうしたものかと考えていると思いついたのは子供の時に泣いていたアルマを泣き止ませるのによくやっていた事だった。
しゃがんで泣くカグヤの横に行って同じ様にしゃがんで背中を軽くトントンと叩く。
「はあ……どうしてこう、泣き虫ばっかり縁があるんだろう」
「っ……泣き虫じゃ、ないです〜……っ」
「はいはい。泣き虫は皆んなそう言うんだよ」
泣き止むのを待つ事30分後。
「落ち着いた?」
「はい……情け無いところをお見せしました」
「いいさ。お茶飲む?随分泣いたから水分足りないだろう」
沸かしていたお茶を自分の湯呑みと予備の湯呑みに入れる。
「……そんなことありません」
「じゃあ要らない?」
「……いただきます」
まだほんのり暖かいお茶を一口飲んでほっと、ため息をこぼす。
「……嘘じゃなかったんですね。貴方がミーティアを動かしたというのは」
「ミーティア?」
「貴方が乗っているSDの名前です」
「へぇ、こいつの名前ミーティアっていうのか」
「知らなかったんですか?普通起動時に名前は表示される筈ですけど」
「それが出ないんだよ。名前もだけど機体に関する事もなにも」
「……機体に関する事がなにも?」
「なにも」
「……」
カグヤは驚いたあと目を逸らすと腕を組んで考え込む。
この反応、元々機体情報は非開示だった訳じゃないのか……一体誰が何の目的があってそんな事をしたのか気になるところではあるけれど、今その話は別にどうでもだ。
「教えてくれないか?このSD……ミーティアの事について」
俺は知らないといけない。
俺の命を救いテレサさん達をも救った。でもそれでイコール良い物だと思うのは安易すぎる。
このSD、ミーティアの力は異常だ。
銃や刃物の使い方を知らない子供が使えば怪我をするように俺もミーティアの事を知っておかないと怪我をする……いや、怪我どころではすまない。そんな気がする。
「……そうですね。事情がなんにせよ貴方がミーティアを動かせてしまった以上は知らないといけませんね……嫌だと言おうとも」
カグヤはミーティアを見上げる。
「ではお話する前に改めて、自己紹介しましょうか」
「え、ああ……うん。じゃあ俺から。元傭兵で現在無職のアカリです。よろしく」
正直改めて自己紹介する意味なんて全然分からないけれど、まあやって減るもんでもないだろう。
カグヤに番が回る。
「では……悪辣な月の国、ムーンクラウン。その王の娘にして叛逆者、カグヤと申します。よろしくお願いします」
「……は?」
ワンピースの裾を掴んでお辞儀するカグヤ。
いま、なんて言った?月?王の娘?反逆者?だめだ。上手く頭に収まらない……。
「あ、ちなみに言い忘れてましたが私、これでも16歳ですので勘違いなさって子供だと思われませんように」
「ちょっ……!人が混乱してるところにさらに混乱させるような情報をねじ込むな!!」
・〜〜〜○
「いつぶりかな……こんな情け無い事態に陥ったのは」
発した自身の声から怒りがこぼれる。
人の前では冷静さを装っていれても1人になるとこの通り感情の抑えが効かない。情け無い事ばかりで本当に苛々する。
「はあ……まぁ、そんな訳でまだまだ大人に成りきれない若輩者ですけどお付き合い願います?」
天井から垂らされる鎖で両手を拘束され吊るされた町を襲撃した生きた子供攫い5名に向けてそう告げると5名は咬まされた雑巾のせいで声を出せないが文句ありげに唸っている。
「ふむ、何言ってるのか分からないわね……しかたない1人ずついこうかしら」
取り出したナイフで1番近くに吊るされていた男の雑巾を切る。
「っ、てめぇ!このアマ!調子のんじゃねぇぞ!?てめぇなんかいつでも殺し——」
ナイフで男の首の動脈を断つ。
「誰が喋っていいと言った?次許しなく喋ったらこうなるから覚えておけ」
首から血を流し項垂れた男の頭を掴み上げると目から光が薄れ青白くなっていく死を待つ男の顔を他の男達に見せつける。
1人を見せしめにより他の4人から反抗する意思は消え恐怖一色へと変わった。
「次」
次の男の前に立つと同じくナイフで雑巾を切り落とす。するとさっきとは違い許可するまで喋らず歯を鳴らすのみだ。
「質問。正直に答える事ね……貴方達は子供攫いで間違いないわね?回答は、はいかいいえ」
「は、はい」
「貴方達は自分達でこの町に私や子供達しか住んでいないと突き止めた?」
「……は、はい——」
ナイフを男の首に向けて振り抜く。
「嘘が下手ね。次」
次の男の前に行き雑巾を切る。
「おっといけない。血を払うのを忘れてた」
「——っ!?」
目の前の男の開いた口にナイフを入れると血の付いた側面を舌の上に乗せて血を拭き取る。
涙目で嗚咽を漏らす男からナイフを抜き取るとそのまま眉間に鋒を向ける。
「貴方は正直に答えてくれるわよね?」
男は涙目で首を縦に振るのを見て笑顔を浮かべてみる。
「よろしい……あ、そうだ名乗るの忘れてた。私の名前はテレサ。今は孤児院の院長やってるけど昔は殺し屋をやってたわ。恥ずかしい渾名待ちのね」
かつて知らぬ者なしと云われた伝説の殺し屋がいた。片目を眼帯で隠し圧倒的な戦闘力と残忍な拷問で標的を追い詰める怪物じみた特徴からこう呼ばれた——
「サイクロップスていうんだけど知ってるかしら?」
——サイクロップスのテレサ。
男達はこの名を聞き悟った。
自分達はどうあっても助からない。
出来る事と言えば、精々嘘をつかず楽に殺してもらう事のみ。
……ただ巣と子を襲われた怪物がそうする確率は残念ながら殆どないのだが。
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