第27話

「……狙い通りいったみたいね」


 肩を回しながら土煙の上がっている方を見てテレサさんは笑う。


「すみません。無茶なお願いをしてしまって」

「ほんとにね。まさか手紙で包んだ瓦礫を投げさせられるとは思いもしなかったわよ。おかげで肩が少し痛いわ」

「ううっ……本当に申し訳ございません」

「ふふ、冗談よ」


 テレサさんは私の頭をぽんぽんと軽く叩く。


 まるで私のおかげと言われているよう……実際には大した事なんてしてないのに。


 手紙で包んだ瓦礫を彼の元まで投げて打開策を伝えようと提案した。正直届くかどうかギリギリで成功出来たのは単にテレサさんの力。おまけにアドリブの敵に当てて注意をそらすなんて離れ業までとなると、私のおかげなんて1つもない。


「……本当に無能もいいところですね」

「ん?何か言った?」

「いえ、何も言っていませんよ。それよりこの後は——」

「伏せて!」


 突然テレサさんに押し倒された。

 すると直後私達のいた場所に何かが幾つも飛んで来て吹き飛んだ。


「い、いったい何が!?」

「あはは……大丈夫かと思ったんだけどダメだったみたい」

「どういう意味ですか?」


 テレサさんは黙って首だけをその方向に向け、私も同じ方向を向く。すると頭部の銃口から煙を吹くSDの姿があった。


「瓦礫片程度ならぶつけてもバレないと思ったんだけどね」

「っ……器量が足りないようですね」

「みたいね。まったく、これだから程度の低い野党はモテないのよ——っと!」


 再度SDからの私達への攻撃が再度始まり私はテレサさんに抱きしめられて転がりながら躱し続ける。


 っ……まずいですね。

 こうやって躱してられるのSDが此処に来るまでの時間の問題。攻撃が止んだタイミングで走って逃げないと。


 確実に攻撃が止むチャンスはある。

 だからそれまで躱しつつ待って……その時は来た。


「テレサさん!直ぐに走ってこの場から——!?」


 しかし運は私達に味方してくれなかった。


「はは……ドジったわ」

「テレサさん、足を……!」


 苦しそうに顔を歪ませ足を押さえているテレサさん。


 血は、出ていないようですけどこの様子では最悪骨を……。


「……私を庇っていたせいで」

「はは、気にし過ぎよ。それに大人が子供を庇うのなんて当たり前のことよ」

「っ……」


 泣くな!まだ何も終わってはいない!なら今すべき事はテレサさんを連れて此処から逃げる事だ!


 急いで運ぼうと肩に手を回す……しかし私の力はあまりにも非力でその場から満足に進めない。


「カグヤ……貴女じゃ私を担いで移動なんて無理よ」

「ぐっ……っ、っ……」

「私のことは気にしなくていい……貴女1人で、逃げなさい」

「嫌です!!」


 気力を振り絞って亀のようにゆっくりでミリ単位しか進めなくても前へ進み続ける。


「絶対に助けます!諦めないで!」


 そう叫んだ次の瞬間、思いを踏み躙るように私達の進路上に巨大な拳が突き刺さる。


「……もう、来てしまったんですね」


 道を塞ぐSDを睨みつける。


 どうする?この絶望的な状況からどうすれば私達は……いや、待て。何かおかしい。どうして私達はまだ殺されていないの?


 私達の前に来るまで避けなければ死ぬ様な攻撃をしてきた。なのにどうして隙だらけかつここまでまで接近した今は攻撃してこなかった。その理由を考えているとSDのパイロットはスピーカーを使い喋り出した。


『無駄な抵抗はするなよ。でないと痛い目にあってもらわないといけないからな』


 痛い目?殺す気がないということ?でもどうして?


『あのガキには逃げられた腹いせに何かをぶつけてきた奴を殺そうとしたが、見に来て正解だったぜ。まさかガキと女が居るなんて、しかも両方上玉。こいつは高く売れるぜ』


 虫唾が走る理由に奥歯を噛み締める。


 此処で捕まるのは避けられない。でも必ずどうにかしてみせる……私にはまだやらないといけない事があるのだから!


 SDは拳を地面から引き抜く私達を捕まえようと手を伸ばす。


 ——その時だった。


 伸ばされた敵SDの腕を掴み取ったそれは間髪入れず蹴りをくりだし敵SDを吹っ飛ばす。


 私はそれの名を知っている。


 作られてから一度も動かされる事を拒み続け私と共に現代で目覚めた白いSD。その名を——


「ミーティア」


・〜〜〜○


 機体の起動後、俺は慌てた。

 何故なら俺を追ってくるか探し回るであろうと思っていた敵のSDはテレサさん達を襲っているのだ。


「あいつ、武器を持たない相手を……!」


 外壁を直ちに解除すると一目散に飛び出す。

 するとまるで走っているのではなくミサイルにでも乗っているのかという異常な速さでテレサさん達までの距離を縮めていく。


 やっぱり、こいつの性能は異常だ。


 脳内で必死にテレサさん達を助けようとする自分とは別にこの名前も何も知らないSDの事を異常だと、危険だと感じている自分がいる。


 でも、だとしても今は……この力でしか守れないものがあるのなら迷いはない!


「間に合った!」


 テレサさん達へ伸ばされていたガルメの腕を掴みとると2人から遠ざけるため被害が出ない程度の力で蹴り飛ばす。


「2人は……よし、無事だな。ならとっととこいつを無力化して……」


 起き上がる前に追撃し勝負を決めようと敵の方へ近づく。


「あれ、全然動く気配がない?」


 倒れたSDはぴくりとも動く様子がない。

 こっちが触れてもそれは変わらずおかしいので無理矢理コクピットハッチを壊し中を確認すると中でパイロットは目を回して気を失っていた。


「加減して蹴ったんだけどな……まあ、倒さない気がなかった訳じゃないしいいのかな?」


 結果オーライ。終わりよければ全てよしと考えることにした。


 SDは無力化した後はとてつもなく楽だった。俺は怪我をしたテレサさん達の安全のため俺のSDのコクピットに乗せておき単身トラックへ向かうと敵をちょちょいと制圧し子供達を1人残らず救出したのであった。


 これで全て終わり……そう思っていたのだが俺は何故かカグヤに呼び出されたのであった。

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