第25話
町の中心に着いた私とテレサさん。
何が起きているか把握出来ていなかった私達だったけれども着いてみて理解した。
あの見た感じ移動図書館のトラックこそが子供達が居ない原因……なら!
「——待って」
物陰から飛び出そうとする私の肩をテレサさんは掴む。
「どうして止めるんですか!?中に子供達が捕まっているのは間違いない!なら直ぐにでも助けに——っ」
テレサさんは私の唇に立てた人差し指をあてる。
「落ち着きなさい。周りをよく見て」
「?」
唇から離したテレサさんの人差し指がトラックの入り口付近を指す。するとそこには不自然なものが目に入った。
「……ん?あれは人、ですか?」
トラックの入り口付近に見覚えの無い男が倒れていた。
「あれはこの町の人間じゃない。十中八九トラックに乗っている連中の1人だでしょうね」
「それが、倒れている」
「ええ、どうやら私達より先に異変に気づいた先客が居るわ」
子供達ばかりのこの町でテレサさん以外に異変に気づき対処に向かえる人物の姿が脳裏を過ぎる。
彼が、来ている……。
「本当に頼りになる弟分だわ。これでもう大丈夫だわ」
険しい表情は消えテレサさんは嬉しそうに笑う。
テレサさんに聞いた話では彼は相当に強いらしい。だからこそ安心も出来るのだろう……しかし、本当に安心して大丈夫なのだろうか?
彼を疑っての事ではない。
状況の不鮮明さ故の些細な不安。
すると突如トラックの運転席を突き破って人2人を持って出て来た彼と遅れてトラックの後ろからSDが出現する。
不安は的中。
SDは正面の彼に向けて胸部からチェーンガンを発射する。
あ、まずい。此処は射線上……逃げきれない。
「——頭を下げて!」
「っ!!」
有無を言わさずテレサさんは物陰から顔を覗かせていた私を引き戻し守る様に覆い被さった。
死を伴った破壊の音と振動が迫り来る。
後10秒もしないうちに私達の頭上に鉄の雨が降り注ぐであろう現実をパニックを通り過ぎた私の頭は冷静に受け止め、目を瞑った。
嗚呼……何も出来ない短い人生だったな。
数秒後、痛みが走る。
「いたっ……」
その痛みに額から来る軽いものでSDが放った弾にやられた来るであろう痛みなどではなかった。
「いつまで目を瞑ってるの。目を開けなさい」
目を開けると無傷のテレサさんがいて自分もまた無傷だった。
「なんで……あれ?攻撃が止まってる?」
「みたいね。まったく、生きた心地がしなかったわ」
私達は周囲の状況を確認すると敵にバレない様に先ほどの攻撃により発生した土煙に紛れてその場から移動した。
「ふう、何はともあれ一安心ですね」
「いいえ、残念だけど安心にはまだ早いわ」
「え、何故ですか?」
敵に見つかっていないし距離もとった。
先程に比べれば十分に安心出来る状況と言って差し支えないと思うのに。
「遠距離武器があても盾になる建物がまだありますしそこまで心配する必要はないんじゃないんですか?」
「SDが攻撃した跡を見てもそう言える?」
SDが撃った方に立っていた建物は例外なく瓦礫へと変わっていた。
「……コンクリート程度では盾にはなりませんね」
「でしょう」
「でも身を隠すには——」
「——使えるなんて思ってはダメよ。もう少ししたらあのSDはこの辺りの建物を手当たり次第に壊し始めるでしょうから」
うぅー……考えを口に出し切る前に一刀両断されてしまいました。でもその通りだし自分の浅はかさが恥ずかしい。
「……この辺りを手当たり次第に破壊するというのは何故なんですか?」
「殺し損ねたアーちゃんを確実に殺すため」
「彼をですか?彼は生きているのですか?」
「ええ、攻撃を止めて何かを探す様な素振りをしているからほぼ間違いないでしょうね」
「そうですか……よかった」
安心して胸を撫で下ろす。
「しかしたった1人相手に敵はそんな手間をとるのでしょうか?目的はまあ、果たせてますし普通なら無視してこの町から離れる事を考えますけど」
「それを言うならたかだか1人相手にSDを出す?銃を持った兵隊数人で住む話を」
「言われてみたらたしかに……」
「連中は戦うアーちゃんを見て本能的に恐れた。安心して生きるためには最早消す以外の選択肢は取れない」
嘘の様に聞こえる話だけれど事実そうなっている……とんでもない人間が居たものですね。
「それだけの強さがあるならSDを何とか出来るのでは?」
「それは流石に無理よ。いくらアーちゃんとはいえ、仕掛けもなしにSDを無力化する事は絶対出来ない」
「え、じゃあ今って」
「ええ、逆転の策は何かあるでしょうけどおそらくアーちゃんは今手ぶら。何かを取りに行こうにもああもSDがしっかり見張ってたら隠れたその場から離れるのも至難……大ピンチよ」
状況は思っていたより酷かった。
攻撃までそれほど時間はなくどうにか出来る可能性がある彼は動けない。
どうにかして一瞬なりとも注意を引けたらいいんですけ……。
何かないかと思考しながら辺りを見回すと近くの物陰に倒れた人影を発見した。
「これは敵の一員。きっと彼が気絶させて此処に隠したんでしょうね」
調べてみても何故か弾倉の空の銃しか持っておらず状況打開の役には立たない。
別の何かを探そうとした矢先、倒れた男の横に妙な2段積みのダンボール箱がある事に気づいた。
「このダンボールはなんでしょうか?それ程大きくもないし軽いし武器の類ではなさそうですし……」
ダンボールを開けて確認すると中には夥しい数の紙飛行機が入っていた。
「どうしてこんな所に紙飛行機の入った箱が……しかも二箱も」
「ああ、それは子供達のね。郵便局跡地にあった手紙で作ったのよ。多分騙されて移動図書館に行く時に邪魔だったから此処に置いて行ったのね。それか単に忘れて行ったのか」
「なるほどそういう理由で……紙飛行機」
箱から紙飛行機から取り出し凝視する。
「テレサさん。紙飛行機を飛ばすのは得意ですか?」
「ん?いや、得意って聞かれればどうかしらね。真っ直ぐは兎も角、風に乗せて長距離を飛ばくらいなら出来るけれど」
「なら十分です。これでいきましょう」
「これでって……あー、そういうこと」
私の言っている事を理解したテレサさんはニヤリと笑って一箱を小脇に抱え手に紙飛行機を持つ。
「飛ばす時にタイミングの指示をお願いします」
「了解よ」
私とテレサさんは紙飛行機を構える。
「では、どっちが先にどれだけ多く届くか競争といきましょうか」
私達は紙飛行機をSDに向けて飛ばした。
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