第24話

 トラックに突入した俺は敵を気絶させながら様々な本が乱雑に置かれた中を調べる。


 相手を殺す必要がない戦闘っていうのは、なんて気が楽なんだ。

 傭兵をやってる時は仕事上、命を奪う事が必須だったが今はそうではないから精神的には楽だ。


「……とはいえ、数秒後には殺しといた方が報復なんかを防げるのではと普通に考えてしまう自分に嫌気がさすのだけれど」

「なんだお前は——がっ!?」

 

 白目を剥いて倒れた敵を端に捨てる。


「これで4人目」


 見つけた敵は片っ端から戦闘不能にしている。戦況は良いと言って差し支えないだろう……でも状況は良くなっていない。


 いや、下手をしたら悪くなっている。


「……子供達が見当たらない」


 このトラックに子供達が入っていたのは間違いない。そして連中が子供達を捕まえているのも間違いないのにどうしてか子供達が1人も見当たらない。10人以上も入ってるのにだ。


「何かのトリックか?それとも俺が見過ごしているだけなのか……こんな事なら見つけた奴の1人でも捕まえて色々と吐かせるべきだったな」


 そう口にした次の瞬間後方、俺が入ってきたただ一つの出入り口が閉まる音がした。


「気づかれたか」


 見まわせば天井に監視カメラらしき物が複数設置されている。


「それはそうだ。人を攫って閉じ込めるんだから監視カメラの1つや2つはあってそれを見ている人員も当然いる——お?」


 天井や床から煙が噴射される。


「睡眠ガス……いや、違う」


 意識を失って床に転がっていた2人が突如胸を掻きむしる様にして苦しみだす。


「毒、か」


 仲間の事はお構いなしとは胸糞の悪い事をするな——っと、急がないと。


 仕打ちと仕掛けにドン引きしつつ息を止めると運転席の方へ向かって走り出す。道中倒れている2人も拾って。


 こいつは軍用のトラックを改造しているわけじゃない。それに子供を閉じ込めて運ぶ事だけを目的としているなら多分……。


 出口はなく毒ガスが刻一刻と充満していく密室。銃も爆薬もなく入って来た扉を壊せる道具もない。


 ——しかしどうにか出来る。


 助走による勢いをつけて飛び上がるとカーテンの掛かった壁へ向けて飛び蹴りをする。

 するとカーテンの内側にあった壁ではなく窓が砕け無人の運転席へ飛び出す。


「よし、予想通り」


 トラックには大概運転席後ろに窓がある。ならそこからコンテナの中の様子を直接伺ったり入ったりして食料を渡したりする筈だろうと予想していたが大当たりだ。


「——っ!」


 運転席から飛び降り持っていた2人を捨てると俺は目の前にあるものに驚く。


「トラックの後ろにもう1台トラック!?」


 飛び出したトラックの後ろに人が2、3人通れる位の間隔をあけてピッタリ姿を重ねる様にして停められているもう1台のトラックがそこにはあった。


 なるほどさっきまでのトラックは移動図書館という体はちゃんと守りつつ入って来た者をガスなんかで眠らせて捕まえる役目か。そしてこいつは眠らせた者を閉じ込めて運ぶ本命……視覚情報にまんまと踊らされた。

 

「舐めた真似を……!」


 本命のトラックへ向かおうとする。

 しかし直後、目の前のトラックのコンテナが開き俺は足を止めた。


「……冗談だろう」


 開いたコンテの中から現れたのはボロいながらSDだった。


 まずい、これは予想外だ。

 でもどうする?逃げる?いや、偶々出てきたって可能性もあるにはあるんじゃないのか?なら上手くやり過ごして救出続行でもいいんじゃないのか?


 SDが迷いなく俺の方を向く。


「っ、前者か!」


 踵を返し走り出す。


 直後背後のSDが頭部チェーンガンで攻撃し慌てて瓦礫に飛び込んで躱す。


「っぶな……あと少し逃げるのが遅かったら死んでたな」


 息を整えながら物陰から様子を伺う。


 SDはこちらを見失った様で辺りを見回して探している。此処は建物の廃墟が多く攻撃での粉塵も相まって幸いした。


 しかしあくまで一時凌ぎでしかないよな。


「炙り出すために建物を壊し始めたらヤバいな。ナイフ1本でどうこうできる相手じゃないし、走って逃げ切れもしない……いや、何より子供達が捕まってる以上は置いて逃げるのはないな」


 状況は進路もなければ退路もない。


 だがこの状況を打破出来る手段はある。


「あのSDがあれば楽勝なんだけどな……」


 地球軍の新型SDすら意に介さず圧倒してのけた正体不明の強力無比なSD……あれならばたかだか旧式ポンコツのガルメ1機なんて敵じゃない。


 だがSDを持ってくるにも大きな問題がある。それは此処から隠し場所まで最短で着こうものなら絶対に正面、こちらを探し回っているSDを突破しないといけないことだ。


「俺を警戒してかあいつ、トラックにべったりでその場から全然離れてくれない……これじゃ時間ばかり過ぎていく」


 策を急いで考えるが、どれもこれも自身の五体満足での成功率が低いものしか浮かばない。


「どうする……どうしたら——!」


 焦りを見抜いているのかタイミングよく敵SDが適当な場所に向けて発砲し建物を破壊し始めた。


「っ……時間切れか」


 いよいよ選択の時が来た。

 このまま突っ込みボロボロの状態で辿り着き敵を殲滅して死ぬか何もせず死ぬか。


 どちらを選んでも死。

 これまでなら焦りと恐怖でパニックになるところなのだけど今回は何故か自死を強いる選択に対して落ち着いている。


 理由は……きっと、前者は無意味な死じゃないからだ。


「子供達を助けられるなら、まあ、意味はあるよな……」


 自分の死は無駄じゃない。

 助けた大勢の子供達の命が助かり子供達やテレサさんが感謝してくれる。


「ああ、金貰って人を殺して死ぬよりよっぽど良い死に方だ」


 不思議と胸の辺りが暖かくなった様な気がし、自然に覚悟が出来てしまった。


「よし、行くか!」


 敵の攻撃が自分の近くを通り過ぎた。

 瞬間飛び出そうとしたが直ぐに踏み止まる。


 何故なら敵SDの顔の前を妙な紙飛行機が飛んでいたから。

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