第23話
テレサさんの孤児院があるこの小さな町には基本テレサさん達以外の人間は居ない。皆死んだり他所へ行ってしまったから。
理由は過去に月からの宣戦布告と共に1回落ちてきた隕石弾……ではあるがあくまでこれは切っ掛けにすぎず本当の理由は別にある。
それは食料や金品を奪いに来た悪党共と助けにやって来た地球軍の民間人の被害を考えずのドンパチで住み辛くなったからだ。
残ったのは隠れてやり過ごしてたテレサさん達くらい。住民は居なくなり悪党や地球軍は町へ来る事はなくなり平和になった……めでたしめでたし。
——と、町の人口が少ない理由を思い出しながら俺は子供達の後を追って町の中心へとやって来ていた。
「へぇ、あれか」
見慣れない大型トラックが止まっているのを発見する。
子供達が言っていた移動図書館っていうのはアレで間違いなさそうだ。子供達の姿は見えないけど職員みたいな人物は見える。
「こんな場所にわざわざ酔狂な」
もっと人の多い町にでも行けばいいものをと呆れつつ俺は真っ直ぐトラックへと進む。
すると職員が歩いて来る俺に気づき笑顔を向ける。
「いらっしゃい!君は町の人かな?」
「ええ、まあ」
「なら君も是非見て行ってくれよ!色々な本を取り揃えてるんだ!」
職員はそう言って黒いカーテンがかかって中が見えない入り口へ招こうとする。
「随分と物好きなんですね。こんな何もない町に来るなんて」
「ん?いやいや、そんな事はないさ。この町に住んでるのは小さい子供ばっかりだろう?」
「……そうですね」
「小さい子供は絵本なんかが好きだからな!俺達にとってはこの上ないお客さ!」
本当に子供の事を良いお客だと思っているんだろう。笑顔を崩さない。
「確かに子供はいいお客さんでしょうね……まだまだ警戒心が足りないから」
職員の腕を掴み拘束しトラックの側面に押し付ける。
「なっ、なにを……!?」
「それはこっちの台詞だ。なにひとんとこの子達を誘拐しようとしてる?」
「!?」
もがいていた職員は目を見開き動きを止める。
「なんでバレたって顔に書いてるな?簡単な話だ。お前みたいなよそ者が知ってる筈ない事を知ってたからだ」
「っ……?」
「此処は数年前から世間一般では人が住んでない町で通ってるんだよ」
まあ、傭兵業界隈で世間一般かどうかは知らないけど。
「実際に子供ばっかり住んでるなんて情報は今いる住民以外知らない事なんだよ」
「っ……誰か——」
叫ぶ前に首に手刀を叩き込み意識を落とす。
そして人の目につく前に担いでその場から移動し見えない物陰に捨てておく。
「さて……面倒な事になったな」
物陰からトラックを見る。
子供狙いの人攫いか。わざわざこの時間帯に来るって事は考えなしの奴等じゃない。随分前からこの町を調べて計画を立ててきたプロと考えた方がいいな。
「でも男なら兎も角、女性であるテレサさんを気にする必要なんてないのにわざわざ居ない時を狙うなんて……もしかして知ってる?いや、それはないな」
倒れた男の服を千切り取ると両手に巻く。
「急場凌ぎだけどこれならナイフは2、3回は防げる」
目的を絞ってる連中は厄介だ。少しの油断が予想だにしない結果を招くこともある。気を引き締めてかからないと。
「よし……とっとと取り返すか!」
物陰から飛び出し再度トラックに向かう。
すると同じようなタイミングでトラックから敵の一味と思しき男が出てて来て目が合った。
「お客?いらっしゃい——っ!」
敵は直ぐに俺の様子から客ではないと気づくと懐からナイフを取り出し待ち構える。
武器を出したなら先制攻撃するのが正解だろうに。
既に十分に距離をつめていた俺は敵のナイフの刃を掴み取り動きを封じると鳩尾に一撃みまって倒す。
銃じゃなくてナイフを先に出すあたりトラックの中で戦闘をした場合を徹底して考えてたんだろうな。跳弾や誤射で売り物に当たりでもしたらまずいもんな。
「ま、こっちとしては好都合……うちの可愛い家族を返して貰うとするか」
・〜〜〜○
畑を幾つか回った私とテレサさん。
見たどれもこれも彼のおかげで出来たのだという事に驚きの連続だ。
主に金銭面での話ではあるけれどこの町の設備をここまで整えるのに一体どれほど莫大な費用を彼は自己負担したのだろう。
「テレサさん……彼には金銭欲というものがないのですか?」
「……」
「テレサさん?」
返事を返さず歩き続けるテレサさん。
おかしいと思い横から顔を見るとテレサさんは眉間に皺を寄せて怖い顔をしていた。
「どうしたんですか?」
そう言い立ち止まったテレサさんは周囲を見回す。
「おかしい……子供達の姿が全然見えない……この時間帯ならこの辺りを走り回っていてもおかしくない筈なのに」
そう言われてみればそうだ。
子供達の姿が全く見えない。いや、それどころか声を聞こえてこない。
「院に帰ったなどは?」
「それはないわ。いつも遊んでいる子達は畑仕事を終えた私達と一緒に帰る様にしているから」
「それでは……」
「ええ、何かあったみい。それも何か良くない事が」
テレサさんは静かに握り拳をつくる。
「テレサさん——!?」
何か声を掛けようとした瞬間気がついた。テレサさんの雰囲気ががらりと変わっている事に。
なんて威圧感なの。さっきまでのを猫なのだとしたら今はまるでライオンのよう……声をかけられない。
「カグヤ」
「っ!……は、はい」
「予めに言っておくわよ。状況によっては私は迷わず——やる」
これは私という人間を知っての上の宣言。
私が罵倒した嫌々やっていた彼と違い自分は自分の意思で人を殺すという。
「意味は分かるわね?」
有無を言わさない圧のある言葉に私は黙って首を縦に振る。
「ならいいわ」
そう言うとテレサさんから感じる圧が少し弱まったように感じ私は小さくため息を吐く。
首を横に振っていたらどうなっていたか……。
「しかしどうしたものかしら……」
「子供達の、居場所ですよね?」
「ええ、もしくは子供達を連れ去った何者かのだけど」
断定した訳ではないけれど子供の誘拐なんて断じて見過ごせない。しかし困った事に現在手掛かりはない。はてさてどうしたものでしょうか……ん?
何処からともなく紙飛行機が飛んできて私にぶつかった。
「どうしてこんな所に紙飛行機が……」
「紙飛行機?」
「はい、これなんですけど……」
飛んできた紙飛行機をテレサさんに見せる。
どうして飛行機が?しかも飛ばした者の姿も近くに確認出来ないし一体何処の誰が——っ!
「これはもしかして捕まっている子供達からのメッセージ!となるとこの紙飛行機に場所のヒントかなにかが……!」
紙飛行機を元の1枚の紙に戻して見る。
「えーと、なになに……拝啓お父さん、お母さん。お元気でしょうか?昨今、色々あって寒い日が増えましたが体はどこも悪くしていませんか……これは、手紙?」
内容から子供達が居場所を知らせるために書いた物とは思えず紙をよく見ると内容以外に住所や切手が貼られており、本当に手紙だった。それも見ず知らずの誰かの。
「すみません……どうやら子供達とは関係なさそうですね」
「いや、そうとも言い切れないわ」
持っていた手紙をテレサさんが取って確認する。
「この手紙はおそらく町の中心にある郵便局跡の物で間違いない。それと最近子供達は紙飛行機に夢中になっていたわ」
「じゃあ……」
「行ってみる価値はあるわね」
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