第20話
黒く焼き焦げた建物跡を前に赤い髪を靡かせた男は機嫌を悪そうに顔を顰めていた。
地球軍の者達はそんな彼を意識しつつも決して声をかけられない。階級も違うのもあるが声を掛けるなと雰囲気が言っているから。
だがそんな事など知らんとばかりに黒髪で毛先だけ銀色の長髪をした男が声をかけた。
「アマギ大佐」
「……私は気分が悪い。出来れば1人にしてくれないか。オルト中尉」
「そういう訳にはいきません。こちらも仕事ですので」
「はー……用件は?」
「破壊されたこちらのSDについてです」
オルトの言葉にアマギは苦虫を噛み潰したような嫌そうな表情を浮かべる。
「聞きたくないな。オンボロのガルメ3機にたいしたことのない兵士100人足らずの傭兵会社相手に相打ちになって死ぬ様な無能の話なんて」
アマギが機嫌が悪いのは正にこれが原因。事前調査だけが仕事だった筈が部隊がやられると全ての責任はアマギの調査不足だと作戦指揮者に責任をなすり付けられたのだ。
「まったく……百歩譲って仕事の責任をなすり付けられるのはかまわない」
「いつもの事で慣れてますもんね」
「だが連中がやられた事に対してというのは納得できない。戦場にいた連中の不甲斐なさが招いた結果だろうに」
苛つきのあまり貧乏ゆすりをするアマギ。オルトはそんな様子にため息を一つ。
「そうですね。確かに私も最初はそう思いました……ですが」
オルトは手に持っていたタブレットをアマギに渡す。
受け取ったアマギはつまらなそうにタブレットに映し出されていた画像を見るや驚きのあまりに目を見開く。
「これは、もしかして……」
「お察しの通り、此処でやられたSDです」
コクピット部や付近が潰れたものに貫通されたもの。果ては竹を割ったように脳天から潰れてしまっている画像に食い入るアマギ。
「凄い破壊跡だ……SDであるのは間違いないな。それに相手の出力と破壊力が窺い知れる……怖いくらいに」
「そう仰いつつ、お顔はそう言ってる様に見えませんね」
「え?そんな事はないさ。大事な味方がこんな酷いめにあわされたんだ。怒りで私の腑は煮えくりかえりそうだ」
そう言って子供の様に満面の笑みを浮かべるアマギにオルトは苦笑いを浮かべる。
「これをやった敵の姿は?」
「残念ながら」
「破壊されたSDや付近の監視カメラにもか?」
「はい……SDはあの破壊具合であるが故ですが、この近辺にあった監視カメラについては一部の時間、後方部隊のみが撤退した辺りから機能していませんでした」
「徹底しているな。中々照れ屋だと見える」
機嫌も良くなり興味が完全に向いた。オルトはここぞとばかりに追加の情報を提示する。
「少し気になる事があります」
「なんだ?」
「コンテナが見つかりませんでした」
「——」
絶句しゆっくりとオルトの方を向くとアマギはその口角を震えながら吊り上げる。
「それはつまり、そういう事か?あれが開いたのか?今の今まで開くことの無かった月の宝箱が?」
「確証はありません。ですがこちらの新型であるシンバをあそこまで破壊出来るSDとなると月の物である事は確実だと思います」
「はっ!どちらにしろ最高じゃないか!」
アマギはそう口にしながらタブレットを投げ捨てるとオルトは慌ててキャッチする。
「探すぞ」
主語のない言葉。それだけでは何を探すのか分からない……だがオルトはある程度予想がついているせいで憂鬱そうにため息を吐いた。
「探すとは、正体不明SDを?それともコンテナをですか?」
「両方だ」
「分かってはいましたが無茶を仰いますね」
今日はペットショップ襲撃時より2日が経過している。いまさら捜索を始めたところでそう簡単に見つかるものじゃない。もし見つけたとしてもあまりにも危険が伴う。
「宝探しというのはいつだって無茶なものだろう?」
「宝、ですか……私にはそれがミミックに思えてならないのですが」
「ふっ、俄然やる気になる」
アマギはペットショップ跡地に背を向けて歩き出す。未知なら宝を求めて。
・〜〜〜○
テレサさんに連れられて俺は目を覚まし動ける様になった白髪の少女、カグヤと対面し話した。自己紹介から始まり俺が此処に運んだ事までは問題なく順調だったのだが……。
「——この外道!貴方の様な最低な人間に助けられたと思うと反吐が出ます!」
カグヤを発見した過程で自分が元傭兵、つまり人を殺めて金を稼いでいた事を説明したら和かな感じから一転、クソ野郎と接するが如く軽蔑し拒絶されてしまった。
「いや、傭兵だったのはついこの前までで今は別にやっては……」
「そんなのが言い訳になると思っているんですか?あなたが人を殺した事には変わりない」
「いや、それは……まあ、そうだけど」
「穢らわしい……こんな人に助けられたなんて、一生の恥です」
まいったな……取りつく島もない。
この女の子にあのSD込みで色々話を聞かないといけないのに。
「こっちも生きるために仕方なかったんだ。人殺しなんてやりたくなかったけど、それ以外に方法なんてなかったし……」
「嘘を言うのは止めてください」
「嘘?」
「人殺しが嫌だというのが本当なのなら人を殺し続ける事なんて出来るはずありません……つまり、あなたは人を殺すという事になにも思わない人だという証明——」
「違う!」
射殺さんばかりの眼光と言葉を向ける少女に俺は思わず声を荒げる。
「なんにも思わないわけないだろう!?毎晩毎晩殺した奴等の死に顔が夢に出る!目に浮かぶ!死に際の声が聞こえる!苦しくて堪らない……!」
死者達を思い出し苦しさの余り自分の頭や顔を掻きむしり、そんな俺を見て驚いた様子の少女を睨みつけた。
「……それでも、そうし続けないといけない生き地獄がお前に分かるか!!」
そう口にした途端、俺はハッとなった。
自分は何を言っているのか。子供相手に声を荒げて触れられたくない事を触れられた程度で。
「っ……!」
俺は、俺の醜態が耐えられなくなりその場を逃げる様に去った。
横目に驚き何か言いたげな少女が俺を引き止めようと手を伸ばしたのか届かなかった手を無視して。
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