第19話

「うーん……やっぱりダメだ」


 一面真っ暗な中唯一あかりの灯るSDのコクピットで俺はモニターと睨めっこをして頭を抱えていた。


 地球軍から逃げおおせ此処に潜伏して早3週間。俺は自分の乗っていた謎のSDを知るために色々調べたりこれからの事を色々考えたりしている。だがどれも良い結果は出ていない。


「はー、機体をいくら調べても装備や機能以外なんにも分かんないし、これからやりたい事も思いつかないし……どうしたもんかな」


 自由になったら色々やってみたいと思っていたけどいざなってみたら途端に思いつかない。苦しかったけど想像すると楽しかった。ても今は苦しくはないけど想像が出来なくて楽しくない。これがジレンマというやつだろうか。


「はー……一回外の空気でも吸おう」


 気分転換のためコクピットから飛び降りると足元に幾つも蛍の様な小さな光が灯り薄らと室内を照らす。


 まったく、どういう仕組みなのやら。


 光の中を進み壁に手を触れるとシャッターが開く様に下から上に壁の一部が消えていき外への出入り口が出現した。


「ううっ、最近快適な空間に慣れ始めてたせいか外の寒さを顕著に感じるな」


 外へ出た途端に刺すような冷たい風に頬を撫でられそう思っていると見覚えのある人が歩いて来ていた。


「あ、テレサさん。おはようございます」

「おはようアーちゃん。因みに今はお昼だから正確にはこんにちはね」

「あ、あはは……そうでした」

「まったく……自由になったのは結構だけど自堕落な生活ばっかりしてるとダメ人間になっちゃうわよ?」

「き、気をつけます」


 自堕落な自覚は……まぁ、なくにはないけれど流石に心配されるようなダメ人間にはならないだろう。というか、それよりもだ。


「テレサさん。俺も一応16なんでアーちゃんって呼ぶのはちょっと……」


 子供の時ならよかったけれど今はアーちゃんと呼ばれる度に身体中がこそば痒い。なのでこの機に呼び方を改めてほしい。


「え?嫌よ。アーちゃんはアーちゃんなんだし今さら呼び方変えるなんて面倒くさい」


 うん……なんとなく分かってはいたけど、やっぱりダメか。


 テレサさんは俺が5歳の時から知っている。言ってしまえば姉と弟の様な関係といっても過言ない。なので今さら当時から呼んでいた愛称を止めてほしいと言ったところで無理というものだ。しかも付け足すならテレサさんは一度こうだと決めたのなら中々変えようとしない頑固な一面もある事も関係していたりする。


「はー……それで何か?」

「ん?」

「ん?って……此処に来るって事は何か用事があって来たんじゃないんですか?」

「ないわよ?ただ単に様子が気になって見に来ただけだし」

「様子?もしかして俺の、ですか?」


 テレサさんは首を縦に振る。


「自由になったはいいけど何をどうしたらいいのか悩んでるんじゃないのかって思って」


 俺はその言葉にドキッとする。


「……べつに、悩んでませんよ」


 意図せず嘘を言ってしまった。


 なんで嘘を言ってしまったんだ?俺の素性を知ってくれているテレサさん相手なんだから気にせず言えばいいのに


「相変わらず身内には嘘が下手ね」


 見透かされたみたいに苦笑いを浮かべながら言われてしまった。


「い、いや、べつに嘘なんてついて……」

「隠したい事があると声が上擦る。それに表情も暗くなる。他にも思い出そうと思えば思い出せるけど、どうする?」

「結構です」


 まったく、何年も会ってないのにこうも容易く見透かされるなんて……そんなにも俺は分かりやすいんだろうか。

 

 悩んでいる事をテレサさんに自白する。


「……うん、それは俗にいう燃え尽き症候群ってやつね」

「燃え尽き症候群?」

「1つの目標に向かって頑張っていて、それが達成された後には何をする気も何をしたらいいのか分からなくなる状態になることよ」


 なるほど確かに今の俺の状態と一致しているといえばしているし、燃え尽き症候群になっていると考えていいのかもしれない。


 だがここで一つ問題だがその燃え尽き症候群はいつ治るのだろう。


「心の病だからね。明日かもしれないし数週間、数ヶ月、数年後かもしれない」

「なんか適当ですね」

「心の病なんだから治りの速さなんて当人の気持ち1つ次第。適当に見えて当然よ」

「……という事は俺も」

「そのうち治るわね」

「はー……」


 そのうちか……俺の場合はどれだけの時間が掛かるのやら。


 空を見上げていた顔をおろすとテレサさんが俺のSDが生み出した壁——にみせかけた装甲に神妙な面持ちで触れている事に気がついた。


「テレサさん?どうかしましたか?」

「ん?いや……話には聞いてたけど凄いなって思っただけ」

「あー、でしょうね。俺だってまだ信じられませんから。この装甲板全部をSDが1から生み出したなんて」

「本当にね……はー、何処の誰なんでしょうね。こんかとんでもない代物を世に生み出したのは」


 テレサさんは軽く装甲板をドアをノックする様に叩く。


「——そうだ忘れてた。あの娘、もう会っても問題ないくらいに回復したわよ」

「あのこ?」

「あの娘はあの娘よ。ほら、アーちゃんがSDの中で見つけてうちに預けに来た十二単を来た美少女」

「じゅうに、ひとえ?干支かなにかですか?」

「重ね着した着物のことよ」

「——ああー!着物!てことはあの女の子ですか!」


 預けて以降、俺は姿を隠す必要や着物の女の子の体調も悪かったというのもあって会ってなかった。


 会う必要はないだろうと最初は思ってたけど今日の今日まで機体を調べでも碌な情報も得られなかったし一度会って話してみるのもいいかもしれないな。


「今から行って会っても大丈夫そうですか?」

「え?えぇ、言った通り大丈夫。全力で走ったりするのはまだ辛そうだけど会って話すくらい問題ないわ」


 問題ない確認が取れると俺はテレサさんとその場を後にして孤児院に向かうのであった。


 だがそこで俺を待っていたのは精神的には辛いものだった。

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