第18話
敵は倒した俺は気を抜くことも感傷に浸る暇もなく廃墟となったその場を後にした。
ジャミングの効果が切れるまで多少なりとも時間があるとはいえ、最後に派手にやり過ぎた。地球軍の誰かが様子を見に来てもおかしくない。
まだ包囲しているだろうから慎重に行こうと思ったのだが、道中地球軍の姿は全然なかったか。杞憂だったようだ。
「……此処なら問題ないだろう」
此処は崩れた建物ばかりが並ぶペットショップから数キロ離れた場所。巨大なSDが来たなら騒ぎになって目立って仕方ないが幸い此処に居るのは知り合いのみ。それに俺の乗ってたSDは小型だし建物の影に置いて布でも掛けておけば問題ない。
コクピットハッチを開き外の空気を吸う。
そして腕輪がない事を改めて確認すると思わず笑ってしまう。
「自由なんてないって諦めてたくせに……いざ縛りがなくなると自分の意思で何処へでも簡単に行けるものなんだな」
コクピットから飛び降りると肺いっぱいに酸素を吸って、吐き出す。
あぁ、そういえばアルマが言ってたっけか。もし自由になれたら見る景色、例えば何の変哲もない星空も輝いて見えるかもって。
地面の上で大の字で寝そべって星空を眺めて見る……が、別に変わって見えない。
「はは、いつもとおんなじ綺麗な星空だ」
当たり前の事なのになんでか可笑しくて笑い起き上がる。
「さて……」
さっきまで乗っていたSDに視線を向けると思わず眉間に皺がよる。
「色々先送りにしていい問題じゃないよな……」
自由になったから終わりじゃない。今の俺には色々な問題があった。
SDのコクピットまで戻り中を覗くと肌寒い冷気が満ちており、その中で何重も着物を重ね着をした銀髪の少女が眠っていた。
「……やっぱり幻とかじゃないよな」
あの時、格納庫で砕けたコンテナから現れたSDに乗れと言われてるような気がしてコクピットに乗り込んだ。その時に今も目の前で眠っている少女を操縦席で発見した。急を要する状況だったから考えるのを後回しにていたが少し落ち着いた今は放置という訳にもいかない。
「怪我とかはないな……とりあえず降ろしてテレサさんの所に運ぶか」
少女を抱えてコクピットから降ろすとテレサさんの元へ向かう。
こんな得体の知れない女の子を連れて行っても普通迷惑かも知れないがテレサさんなら引き受けてくれるだろう。
・〜〜〜○
「うっ……ん?」
私はやけに重たい瞼を開けた。
すると視界に映るのは少し色が禿げて汚れている知らない天井。
「此処は、何処だろう……?たしか私は……あれ?」
ベットから起きあがろうとしたけれど体に上手く力が入らず起き上がれない。
「っ……はぁ、はぁ……」
両手をついてなんとか起き上がる。でもたったそれだけの事にひどく疲れてしまう。
この体力の落ちよう……私は一体どれだけ——
「起きたみたいね」
その声にハッとなり振り向くと開けた扉の前に右目に眼帯をしてエプロンをつけた金髪の見知らぬ女性が立っていた。
「貴女は、どなたでしょうか?」
「人にものを尋ねる時は尋ねる側が先に言うものじゃないの?」
「あ、たしかに……これは失礼をしました。私は——」
「テレサ」
「え」
「私の名前よ。ごめんなさい。意地の悪い事を言って。言いたくなければ別に言う必要はないわ」
そう言って笑うテレサという女性に私は首を横に振る。
そうは言うけれどこれは礼儀の話だ。状況を完全に理解した訳じゃないけれど助けてもらっているのは間違いないのだから名乗らないのは無礼だ。
「私の名前はカグヤ……以後お見知り置きお願いします。テレサ様」
頭を下げてそう言い上げる。するとテレサさまは驚いた様子だった。
「あの、どうかされましたか?」
「え、あー……いや、あんまり礼儀正しいものだから驚いちゃって」
「礼儀作法はある程度心得ていますので」
「うーん、そういう意味で言ったんじゃないんだけど……」
「?」
「あー、なんでもない!気にしないで!あ、そうだ、テレサ様っていうのはやめてもらっていい?」
「ご不快にさせてしまったでしょうか?」
「全然。ただ、呼ばれ慣れてないからちょっと抵抗があってね」
「分かりました。では、テレサさん、と呼んでも?」
「うん。それなら問題ないわ」
そう言ってテレサさんは背中を向ける。
「お腹空いたでしょう?少し待ってて、下から何か持って来るから」
「あ、いえ、そこまでしてもらうのは……なんなら自分の足で行きま——!」
ベッドから立ち上がろうとした瞬間バランスを崩した。そしてそのまま前へ体は前へ。
「——おっとと、大丈夫?」
間一髪でテレサさんは私が床に倒れる前に抱き止めてくれた。
「す、すみません。どうにも体に力が入りづらくて……」
「でしょうね。貴女、まだ顔色悪いし信じられないくらい体重が軽かったから」
私は確認するように自分の顔に触れた。
体の不調はなんとなく意識出来てたけど顔色に出るくらいだったとは驚いた。でもそんな事より驚いたのはテレサさんだ。
扉からベッドまでおよそ3メートル位の距離を一瞬にして移動した。それと私を抱き止めたテレサさんの体は見た目の細さからから考えられない位にがっしりとして力強く感じられた。この人は一体何者なのだろう。
「結構がっしりとして驚いたでしょう?」
「い、いえ!そんな事は……!ただ安心して体を預けていられるなと思っただけで!」
「ふふ、本当に礼儀正しいわね」
テレサさんは軽く私を抱き上げると優しくベッドに戻したくれた。
「理由はおいおい聞こうと思うけど、貴女の体調が悪いのは長い間眠ってたせいでしょうね。だから今はしっかり食べてリハビリをすれば普通に動けるようになるわ」
「どうして、そんな事が……」
「特技でね。私、触れた人の筋肉から体調とか分かっちゃうのよ」
「それは……変わった特技ですね」
筋肉から人の体調がわかる特技って、貴女、本当は孤児院の院長じゃなくて道場の師範か何かですかって口に出そうですけど……失礼だから我慢ですね。
「さて、それじゃあご飯取って来るから食べたら早速軽いリハビリやろうか」
「……今日からですか?」
「勿論。此処だっていつなんどき何が起こるか分からないんだから自分で動けた方がいいでしょう?」
そう言ってテレサさんは手をひらひらと振って部屋から出て行った。
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