第17話

 5番機が天高く打ちがあり落ちて数分して遅れながら隊長も到着した。


 道中聞こえてきた戦闘音から敵が居るのは確実。よって着いたら即戦闘を始めるつもりでいた……のだが、何も出来ずにいた。


「なんなんだ……あのSDは」


 2機のシンバのライフルから放たれる弾丸。その中を掻い潜りただの1発も掠める事もなく走る謎のSD。その桁違いの運動性能、そして美しさに釘付けとなる。


 まるで氷上を滑る女子プロスケーターのようになめらかな動き。しかし鍛え抜かれた格闘家の男の様な力強さを感じさせるその姿は正に芸術品。兵器に対する感想ではないと理解している隊長だが、そう思わずにはいられない。


「4番機がやられた」


 そう口にした隊長だったが視線は直ぐにやられた4番機から小さく美しい白いSDへ戻る。


・〜〜〜○


「一機撃墜……次」

 

 戦闘中に戦果を確認さる様に淡々と独り言を呟く。が、内心俺は驚いていた。


 なんなんだこの出鱈目なSDは?運動能力がガルメめとは違い過ぎる……いや、ガルメどころか目の前の地球軍の新型以上だろ。


 敵のSDはこっちの動きをまったく追えておらず半ば、やけくそ気味に敵は撃っている。


「ジャミング限界時間まであと15分……余裕だな」


 運動性能もさる事ながら、この、3キロ圏内全ての通信を最大30分間妨害出来るジャミング機能まであるなんて……まったく恐れ入る。おかげでこの場を去っていったSDはこっちの騒ぎに気づかないし敵が増える事もない。


「こんな出鱈目な性能のSDを一体どうしてコンテナなんかに——ん」


 敵SDのライフルの弾が尽き空ぶかしをする。そして慌てて予備の弾倉を探す様子から弾切れなのが丸分かりだ。

 

「天下の地球軍様だし必要分で事足りると思ったんだろうな……間抜けめ」


 スピードをほんの一瞬だけ上げる。


「っ……」


 敵との距離は一瞬で詰まり背後へ回り込む。すると敵は背後をとられた事に気づかずこちらの姿を探す。が、こっちを向く前に胴体を拳で貫いてしとめた。


「……少し狙いがそれた」


 モニター越しに倒れた敵を見ると穴はコクピット部ど真ん中ではなくやや上にそれている。


「扱いやすいからって出力を上げても使いこなせるのはまた別の話か……さて」


 敵対してきたSDは全部潰した。後は何もせず棒立ちになっている1機がいるのみ。


 アレがどういう理由で仲間がやられるのを黙って見てたのか分からないけど、なんでか敵意は感じないんだよな……まぁ、やる気がないならそれでいいんだけど。


「見逃して追っ手を呼ばれるのも嫌だし釘はさしとくか」


 棒立ちになっているSDへ言葉通り注意しておこうと近づく。


 すると次の瞬間、SDは動き出し俺にライフルを向けるなり待ったなしで発砲した。


「結局やるのかよ……」


 飛んでくる弾をSDの周囲を軽く走る様に躱す。だが飛んでくる弾はさっき倒したのとは違い的確に俺の進む先へ撃たれる。


 動きには追いつけなくても音と気配で通るであろう場所の先読み。中々良い腕のパイロットの様だ。


「でも、残念だ……腕はあっても言葉と理性を持ち合わせていないなんて」

 

 周回を敵の正面で止めると真っ直ぐに突っ込む。


 敵は手数が足りないと考えてか即座にライフルで射撃しながら空いていた左手にフライガを持つと発射した。


「!」


 無数の弾の後に火炎の波が押し寄せる。

 

 弾だけなら容易に避けられる。しかし火炎の攻撃範囲は広い。避ける事は急制動から出力を上げる必要があって体への負荷が大きくまだ慣れていない今は出来なくもないが難しい……なら当たる覚悟をすれば良いのではと思うが、正直それも難しい。何故ならこの機体はぱっと見、小さいし装甲が大分薄い。ライフルやフライガに耐えられるだけの防御力があるかは未知数。回避以外の手段が求められる。


「ほんと、良い腕してる」


 フライガを使ったのはあったが故の偶然だろう。だが本来効かないはずのSD相手に使おう選択をしたのだから。


 しかたない。まだ中盤ももいいところだが、見せてやる。


「——CA!メモリー1!」


 叫ぶと俺の乗るSDが光を発しパズルのピースの様に全身を覆う装甲が分解され綿毛の様な粒子へと変わる。そして次の瞬間には再収束し新たな形、胸部と四肢を如何なる攻撃を跳ね除け砕く重装甲で覆った超接近戦形態へと変わる。


 体の前に巨大な手はかざすと弾を防ぎながら炎を左右へ割る。割れた炎の中から現れたこっちの姿を見て敵は露骨に動揺を見せる。


「流石の硬さだ。なんともない」


 巨大な拳をゆっくり振り上げる。すると敵は慌ててライフルを構えた状態で突っ込んで来る。


「ゼロ距離射撃狙いか」


 デカくて硬そうでパワーのありそうな奴相手には何かさせる間を与えず懐に入り込んで超近距離で攻撃を叩き込むのが得策だ。


 ——この機体相手じゃなければ。


 左足を突き上げる。


『!?』


 予想に反した行動と動きの速さに敵は慌ててブレーキをかけるが止まらない。それどころか体制を崩す。


 容赦はしない。してやれない。芽は潰す。


「……殺しに来たのはお前らが先だ」


 向かって来る敵の脳天目掛けて上げた足を叩き込む。すると敵は頭から足がまるで縦に潰した空き缶の様に潰れ爆散した。

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