第15話

「うっ……あれ?俺なにしてたんだけ?」


 目が覚めると俺は何やら穴の空いた天井から月を見上げていた。


「此処、どこだっけ……?仕事中に敵にやられて気を失ってたのか……いや、それにしても見覚えのある天井……あぁ、そうだ……そうだった」


 気を失う前の最後の記憶。爆発の音と共に瓦礫が降ってきて頭をぶつけた事を思い出す。


「情けない。避けられなかったのもそうだけど、2人の前であんな……みっともなく取り乱すなんて」


 親方達が立っていた物置部屋の方を見る。しかしそこには誰の姿もなく物置部屋の扉は瓦礫で塞がれている。


「血も死体もないって事は無事に脱出出来たんだ。良かった……ってて、頭たんこぶできてるな……はぁ、これから俺はどうするか」


 爆音やSDの足音から察するに危機を脱したとは言えない。ならとっとと自由になったのだから逃げればいいのだが、どうもそう上手くいきそうになかった。


 まいったな……辺りいったい瓦礫の山か。


「爆弾とか持ってないから瓦礫をふっ飛ばして道を作るのも無理……いや、あって出来たとしてもその音で敵を呼ぶ事になって終わりだな……そうなると可能性があるのはやっぱりアレだけなのか」


 チラリと瓦礫の中にただ一つだけ存在する人1人が通れそうな小さな道を見る。


 あの道の先はシャッターだ。風が吹き込んでくるから多分あの爆発なんかで外に出られる穴くらいはあるんだろう。でも問題はその抜けた先には遮蔽物なんて何一つない平野って事なんだよな。


 地球軍の狙いはこの会社の人間を皆殺しにすること。なら逃げようとする者など許すはずもなく間違いなく警戒している。そんな中遮蔽物が全くない平野を走るのは自殺行為以外のなにものでもない。


「まぁ、遮蔽物があったとしても対人対物センサーなんかで網は張ってるだろうし結果は大差ないよな……はぁ、どうしたもんかな」


 留まっても進んでも死の現実が悩ませる。


「せめてSDがあったら……」


 今なら問題なく乗れる。しかし肝心のSDは修理途中。しかも社長の命令で格納庫の外に出されていた。地球軍の方々の目にスクラップ寸前のSDなんて晒すなという理由で。


 間の悪いったらない……でも、そう上手くいかないだろうな。動かすのが6年ぶりかつ修理途中のじゃあ直ぐ落とされるだろうし。


 その場に座りこむとやけ気味に唯一の小さな道に落ちていた小石を投げる。


「はぁ……死にたくない」

 

 手にした自由を実感出来ずこんな所で……自分がなんのために生まれてきたのか分からず死ぬなんて嫌だ。


 涙を拭いもう一度、今度は少し強めに小石を道に投げる。


 その時だった。


「ん?」


 投げた石が何か聞きなれない硬い物にぶつかった様な音がし顔を上げる。


 なんだ今の音は?金属?でもあんな音のする金属なんて……ん?


 さらに石を投げた方、道の奥から薄い青緑色の光が見えた。


「光……敵のライトか」


 慌てて立ち上がり身構える。

 銃どころかナイフ一本ない。なので近くにあった拳大の瓦礫を一つ持つ。


 なにもないよりはマシだ。


 そう思って警戒する。だが光を見ているうちに警戒心は何故だが消えて手に持った瓦礫を落とし光に誘われる様に道を進んでいた。


 辿り着くとそこには予想通り人1人位なら倒れそうな出口があった。だがそんなものより俺の目を引いたのは光の正体だ。


「……コンテナ。これが光ってたのか」


 でもどういう事だ?このコンテナ、開けるところもなければライトも付いてなんていなかったぞ?なのになんでライトなんて。しかもこんな扉の枠みたな形に……。


 人1人が倒れそうな扉の枠を模る様に光るコンテナの光っている部分をなぞる様に触れた。


 その瞬間枠の中心に文字が浮かび上がった。


「『あなたの名前を答えてください』……だって?」


 とてつまなく怪しい。コンテナが人に名前を聞いてくるのもそうだがこんな反応を見せたのが特に。


 親方からはこんな話聞いてない。もしかして地球軍が攻めてきた事に関係している?ならこの反応の意味はなんだ?


 名前の浮かぶ装甲に触れながら考える。

 そして思い浮かんだのはたった一つ。


「もしかして開くのか?」


 名前を聞く。それはつまりコンテナ開閉の認証に必要でそれを求めてる可能性がある。


「そうだと考えると中身は十中八九兵器だよな……これは、もしかしたらするかもしれない」


 現状詰みといって差し支えない。しかしコンテナが開いてその兵器を手にする事が出来たなら生き残れる可能性が僅かながらある。


 でもこれは大分分の悪い賭けだ。コンテナが名前認証で開くなら持ち主じゃない俺が名乗ったところで意味なんてない。でもそうじゃない可能性も1パーセントはある——っ!?


 SDの足音が格納庫に近付いてくる。


「もう時間がないか……」


 コンテナを睨みつけなが覚悟を決める。


 駄目で元元。もし駄目なら生身一つで死ぬまで足掻いてやればいい!


「アカリ!」


 口にした名前がコンテナに張り付く様に文字で浮かび上が飲み込む様に消える。そして次の瞬間扉の枠の様な光が一箇所に集まり前に立つ俺をスキャンする様に照らし光は消えた。

 

 かたずを飲み見守ること数秒後再度文字が浮かんだ。


『認証成功。休眠状態及び外装を解除。これより通常稼働に移行します』


 その後コンテナに放射状にヒビが走り視界を塗り潰す程の凄まじい光を放って弾けた。

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