第13話

 アカリの腕輪は特別——と思われているが実はそうではない。


 一定範囲のリモコン操作で電流を流す事が出来、設定された人物の音声コマンドで拘束と解除の出来る頑丈なだけの腕輪。それがアカリがさせられている物……つまりアカリは社長に騙されているのだ。


 しかしここである疑問が浮かぶ。

 どうして何年もつけ続けているアカリはこんな単純な事に一切気づかないのだろう?


 それにはちゃんと理由があるのだ。


 『腕輪を無理に外してはいけない。社長からの命令に背いてはいけない』これらのルールを破ればこうなるという具合に何度も何度も遊び半分で死にかねない電圧の電流をアカリは流され続けてきた。その恐怖と苦しみから反抗する意思は枯れ恐怖の象徴である腕輪になるべく意識を向けないようにしていた。


 大人の身勝手で子供の人生を狂わされた悲しい子供、それがアカリだ。


 だが今日アカリは解放される。

 子供を人殺しの道具とする事を良しとせず準備してきた大人の手によって。


・〜〜〜○


「……色々言いたい事がありますけど、これだけは先に言わせてください……俺に何か言うべき事がありますよね?」

「「ごめんなさい!」」


 そう言って目の前でアルマと親方が見事な土下座を披露する。


「まったく……低電圧だったから死ななかったけど、もし高電圧だったらと思うとゾッとする」


 真っ二つになって足元に転がる忌々しい腕輪を適当な所に蹴っ飛ばすと親方は苦笑いを浮かべる。


「いや、まぁ、食らった本人がそう言うならそうなんだろうけど……あれって普通に高電圧だったと思うぞ?触れてたディスクグライダーが爆発したし」

「叫ぶ程痛くなったから低電圧でしょう?」


 俺がそう言うと親方は悲しそうな顔をして小さな声で言った。


「……実体験故の言葉だけに笑えねえよ」


 聞こえてるけど聞こえないふりをしておこう。反論や訂正をしたとしても真実を知っている優しい2人には俺が強がりを言っている様にしか見られないのだし。


「それで此処に呼び出したのは監視カメラなんかの対策なのは分かりますけど、どうして今腕輪を壊したんですか?別に急いで逃げる理由がある訳でもないし」


 そう言うとアルマと親方は互いに困った様子で顔を見合わせる。


「実はね、アカリ……」

「その急いで逃げる理由が出来ちまったんだよ」

「そうなんですか?それでその理由は?」

「……もうすぐ此処に地球軍が来る」

「地球軍がですか?」


 地球軍が逃げる理由なのか?という事は社長が何かバレたらやばい仕事をしててそれがついに地球軍にバレてしまい俺達諸共捕まえに来るみたいなパターンかな?あー、それで昨日地球軍のアマギ大佐って人が来てたのか。もうお前に命はないぞ的な意味で。


 なるほどと勝手に納得する。


「地球軍の目的は私達を皆殺しにすること。だから急いで逃げないとまずいのよ」

「…………はい?」


 アルマの予想外の言葉に納得していた考えが粉々に砕けちり混乱する。


「いや、ちょっと待ってくれよ……なんで地球軍が俺たちを皆殺しにするんだよ?」

「社長が地球を裏切ってたからよ」

「社長が?いや、それより地球を裏切ってたって事はつまり……月に協力を?」

「あいつは月に様々な地球軍の情報を売ってたんだ」

「い、いや、だとしてもですよ?それなら責任は社長だけにあるんですから社長だけを狙えばいい話でしょう?俺達にはなんの関係もないじゃないですか?」


 そんな訳ないと分かっていながら思わず口にし親方はそんな俺の混乱した様子に気づいてか気の毒そうな顔をして首を横に振った。


「それがそうもいかないんだ。なにしろ俺達自身も知らないうちにその裏切りの片棒を担いでたんだからな」

「それって、どういう意味ですか?」

「言葉通り……社長が月に売ってた情報は仕事と偽ってアンタや他の連中が地球軍から盗んだものなんだから」

「——」


 アルマ達の言う事だし疑う余地はない……でも、信じたくない。社長が危険かそうでないかの分別もつかない本物の愚物である事や自分達が何をどう言い繕っても手遅れであることなんか。

 

「っ……間違いって事は、ないんですか?」

「残念だが、あのコンテナが此処にある時点で間違いはまずないだろうな」

「コンテナ……まさか、あれを持ってる奴を殺しに来るのって地球軍なんですか?」

「そうだ」


 なんて事だ。つまりは地球軍がコンテナを盗まれたから高い前金と成功報酬まで出して取り返してほしいというのは、殺す相手を油断させるための嘘だったという事か。


 俺の膝がその場に崩れ落ちる。


「なんだよこれ……散々苦しい思いしてきて最後がこれなのかよ?」


 腹の中に溜まっていた泥を吐く様に呟くと親方のデカい手が俺の肩に添えられた。

 

「気持ちは分かる。だが今は——」

「——分かる訳ないだろう!?」


 親方の手を力任せに払いのける。


「自由を奪われて!蔑まれて!殺されそうになって!したくもない殺しをしてきた!それで今日ようやく親方達に自由にしてもらえたのに結局こんな結末だ!まだ外に出て何がしたいのか思い浮かんでもいないのに!!」

「お、おい!落ち着け!今はとりあえず早く此処から逃げる事を考えてだな……!」


 完全にパニックになった俺を必死に宥めようとする親方とアルマ。だが次の瞬間爆音が響き格納庫の天井が崩落した。


 午後9時00分……地球軍の攻撃開始。

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