第12話

 8時50分丁度、俺はアルマに言われた通り格納庫にやって来た。やって来たのだが、少し様子がおかしかった。


 電気がついてないな。月明かりで薄っすらと中は見えるけど呼び出したアルマの姿が見えないのはどうしてだ?


「時間指定までして呼び出したくせにまだ来てない……わけでもないのか。格納庫内に人の気配がする」


 でもなんで隠れてるんだ?

 此処が敵のアジトや監視の目があるなら分かるけど……あぁ、なるほど監視カメラ対策か。


 会社内には一部の例外を除いてほぼ全ての場所に監視カメラが設置されている。理由としては社員が勝手に武器なんかを持ち出した時に即座に罰を与えるため……となっているが本当は俺を監視するための方便だろう。何しろ会社内に監視カメラが設置されたのは俺が問題児と呼ばれる様になったニッコウとの喧嘩の直ぐ後なのだから。


 監視を気にしてるなら暗い方が好都合なわけか。なら大声を出すのもやめておいた方がいいよな……なら一先ず言われた通りに中央まだ行ってみようか。


 月明かりを頼りに格納庫の中央まで来た。すると地面に蛍光塗料で文字の書かれた紙が落ちており拾い上げる。


「なになに……『落ちている蛍光塗料の雫を頼りに来て』……雫、雫……ああ、これか」


 地面に落ちている雫に従い順調に進み辿り着いたのは親方とアルマの部屋がある物置部屋と書かれた扉の前だった。


 此処に誘導したかったのなら最初から此処に来いって言えばよかったんじゃないのか?


 ドアノブを握ろうとした次の瞬間背後から忍び寄る気配を感じ振り返るとそこには懐中電灯を手に持った親方が立っていた。


「隠れてるのはアルマかと思ってたけど親方だったんですね」

「ああ」

「このタイミングで出てきたって事はアルマが俺を呼んだことと?」

「まぁ、そうなんだがあまり時間もないし少し話を省かせてもらう」

「?」


 なにやら妙な雰囲気に首を傾げていると背後で扉が開く音が聞こえ振り返るとそこにはアルマが立っていた。


「アルマ、中に居たのか——」


 思わず言葉を切る。

 何故なら親方の懐中電灯の光で照らされたアルマの手には何故かディスクグライダーが握られていたから。


 訳が分かない。でも嫌な予感だけはした。


 俺は後ずさる。すると突然俺は親方に羽交締めにされる。


「な、なにを!?」

「すまん」

「いや、すまんじゃなくてとりあえず説明を——」

「長くは保たねぇ。始めてくれ」


 親方の言葉にアルマは黙って頷くとディスクグライダーの電源を入れ刃が高速で回転しだす。


「ちょっ……!?本当になんなんですか!?ま、まさか、それを俺に使う気とか言わないですよね!?」


 2人は無言だがその通りと言わんばかりに目の前のアルマがディスクグライダーを俺に向ける。


 ま、まじでアレを俺に使う気なのか!?でも一体あんな鉄なんかを切るような物でなにを——あ。


 鉄はあった。俺は自分の腕にはめられたナイフや銃弾にだって耐えられ命令に背けば電流を流して殺す腕輪を。


「や、やめろ!そんな物押し当てたら腕輪が作動して俺が死ぬ!何か理由があるのは分かるけど考え直してくれ!」


 必死に呼び掛ける。しかしアルマは何かを必死に耐えるように下唇を噛み締めながら黙って首を横に振る。


「アカリ……怖いだろうけど我慢してくれ。すぐ終わる」


 俺を拘束する親方が心から申し訳なさそうにそう言った時同時に腕輪に回転する刃が押し当てられた。


 火花を飛び散らせな耳障りな音ともに刃がもの凄い速さで腕輪に食い込んでいく。その様子から後1分もしないうちに腕輪は切れるだろうと察せられた。


 当然俺は恐怖で叫んだし暴れた。でも俺の声は音で掻き消されて親方達どころか自分の耳にも届かないし腕輪で動きが制限されているせいで振り払う事も満足に出来ない本当にどうしようもない状態だった。


 ああ、これが死ぬ直前の感じなのか……心臓は破裂しそうなほど動いて全身に血が巡ってる筈なのに思考や心は至って静か。時間もまるでゆっくりになったみたいに感じる。俺が今まで殺してきた人達もこんな感じだったのかな……怖かっただろうな。恨めしかっただろうな……でも不思議と俺はこの2人に殺される事を悲しいとは思うけど恨みとかはないんだよな。この違いって親しい人達だからなのかな?不思議だな。結局どれも殺しには違いないのに——あ。

 

 懺悔の途中、走馬灯をまだ見ず腕輪から電流が流れた。

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