第11話

 親方が教えてくれた災い……俺達を殺しに来る敵の存在。早く対応したいけど敵の正体は不明。いつ来るかも分からない。いま出来る事は襲われるその時をただ待つだけ。


 ——そんな馬鹿なこと出来る筈もない。


 情報がないならないなりに持っている情報を拡大解釈してでも考え続けなくてはいけない。なんたって俺は死にたくなんてないから。


「敵はニッコウ達が仕事で奪ったコンテナを持っている者を襲い皆殺しにする……噂になるくらいだからこれまで強いのから弱いのまで色んな連中を殺して来たんだろうな……」


 数は小、いや中隊規模として歩兵の実力ははまぁ、俺位と考える。そして当然SDも持ってるだろうから性能や腕前は地球軍と同じと仮定……。


「……どうやったら死なないんだろう?」


 いきなり躓いてしまった。


 自分を過大評価している訳じゃないけれど俺はかなり強い部類の人間だ。普通の中隊程度は多分楽勝で勝てるし大隊も準備をすれば同様に……でも敵が俺と同程度、しかも中隊ならどう考えても勝ち目なんてない。


 SDに関してはぶっちゃけ腕のあるなは関係ない。俺がこの前SDに勝てたのだって動き出す前に爆弾を仕掛けてたからで既に動いてるなら何をしても意味がない。


「どうしたもんかな……」


 会社周辺の監視の目をキツくし罠を仕掛けるなんて簡単な手はあるにある。でもこれには社長の許可がないとどうしようもない。

 そして親方が進言してもダメだったんだから俺が言ったところで結果はおんなじだ。


「八方塞がり……あと出来る事といえば親方に頼んで銃火器を格納庫に用意しといてもらうくらいか」


 窓から下の様子を見ると親方達はだいぶ忙しそうで声を掛けられる雰囲気じゃない。


「仕方ない。少し時間を置いてからまた来よう……」


 不意に格納庫の隅にある件のコンテナが視界に入った。


「中身も分からなければ開きもしない、災いをまき散らすだけ箱なんかになんの価値があるんだ……クソッ」


 怒りからつい悪態を漏らしながらその場を後にしようとしたその時だった。


「——っ!?」


 異様な気配が背中を撫でた。


 慌てて窓の方を振り向き窓の方に戻る。


 敵、ドローンの姿もない、か……。


 安心せず怪しい何かがないか注意深く観察するがいつもと何一つなく変わらない光景が広がっていた。


 気のせい……いや、そうだったとしても今の感じはなんだったんだ?まるで何かにこう、自分の何かが引っ張られるみたいな、そんな——


「——アカリ!」


 俺の背後の扉を勢いよく開けて入って来たのはまたも息を切らしたアルマだった。


「はぁ、はぁ、そろそろ出て行きそうな雰囲気だから…はぁ、はぁ、はぁ、走って来たけど正解だった」

「な、なんだよ?どうしたんだよ?そんなに慌てて、何かあったのか?」

「うーん……まぁ、そんなところ」


 その後アルマの乱れた息を整えるのを俺は黙って待った。


「ふぅ……アカリ」

「ん?」

「実は大事な話がある。今日の夜8時50分までに格納庫1階中央に来て」

「え、これだけ引っ張っといてそんな中途半端な時間指定の呼び出し?大事な話なら別に今でも——」


 アルマの目を見た瞬間俺は思わず黙ってしまった。


 アルマの目からはまるで命を賭けているかの様な鬼気迫る真剣さが滲み出ていた。


「8時50分までによ。わかった?」

「あ、ああ」

「絶対によ。早く来るのは許すけど9時を回るのだけは絶対ダメだから。いいわね」


 完全に気圧された俺は黙って首を縦に振るとアルマはそれ以上何も言わずにさっさと1階へ戻って行ってしまった。


「……なんなんだいったい?」


 それから何事もなく時間は経ち夜8時50分。俺は言われた通り格納庫にやって来た。


・〜〜〜○


 夜8時50分。

 社長は自室の机に置かれた札束を見ながらくつろいでいた。


「はぁ、まったく地球軍様様だ。報酬がそこいらの奴等と比べて天と地。しかも馬鹿が死んで失敗しても前金はチャラにならないときた!まったく損がねぇぜ!」


 口角を吊り上げ舐めるような気持ちの悪い手つきで札束を数える。


「はぁ、明日は例のコンテナを引き渡せば成功報酬まで……考えただけで涎が出る」


 拭ったそばから涎が溢れ気色の悪い笑顔の社長。だがそれは唐突に終わりその顔を恐怖で歪める。


 不意に昨日査察にやって来た赤い髪の男、アマギを思い出したからだ。


「あの若造、本当は一体どこまで知ってやがる?隠してたアカリの事は完全にバレてる様だが、もしあの事も知っているのだとしたら……」


 最悪の事態を想像した社長は慌てて机の上の札束を掻き分け出てきた電話を凝視する。

 

「まだアレが完全にバレたっていう確証はない……だがバレてないって確証もない。なら保険は掛けておくべき……」


 受話器に手を伸ばそうとする。しかし触れる前に止める。


「いやいや、だからと言って奴等に頼るのは早計すぎる。頼ったら最後儂は一生奴等の犬。対等なビジネスパートナーとしての関係は完全に破綻する。だが地球軍相手だと頼れるのはやはり奴等のみで……くっ、何か良い案はないものか」


 悩むこと9分。

 社長は名案を思いついたとばかりに札束を握り締め立ち上がった。


「そうだ!金だ!儂の財の半分をくれてやると言えば地球軍であろうと掌を返す筈だ!もしそれがダメなら要らん社員の何人かを地球の裏切り者だとでっち上げ突き出せば良い!これで儂の命は助かりまた金儲けが出来るぞ!!」


 地獄の沙汰も金次第。そう言わんばかりの上機嫌の社長だが彼は分かっていなかった。


 自身の私腹を肥やす為に人の命を物以下と扱った者の末路なんかは金でどうにか出来るものじゃないと。


「ふぅ、少し興奮し過ぎた。外の空気でも吸おう——」


 窓を開けた次の瞬間、社長は爆発に襲われて死んだ。


 午後9時00分。

 傭兵会社ペットショップに皆殺しの命を受けた鉄の巨人の達がやって来たのであった。

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