第10話
ニッコウが去ってしばらくして鳥組の面々は改めてSD整備作業に取りかっていた。
俺はというと親方と2人で格納庫2階に居た。
「はぁ、ニッコウの野郎胸糞悪いたらねぇぜ!あいつがくたばればよかったもんをよ!」
「大声で人の不幸を叫ぶもんじゃないですよ」
ニッコウが去ってからずっとこの調子だ。機嫌は治らず悪くなるばかり。幸いなのは人に当たらず1人でこうやって怒鳴り散らかしている事か。
「下の作業に参加しなくていいんですか?親方がいないと大変でしょう?」
「したくてもこんな精神状態じゃ出来ねぇんだよ!手元狂って怪我でもしたらどうすんだよ!」
「うーん、そうではあるんですけど……プロ意識とかあります?」
「ない!」
「えー」
「自分の事をプロだなんて認めちまったら慢心が生まれる!慢心とは油断であり停滞だ!だから俺は一生自分を少しメカ弄りの出来る奴くらいにしか思わんと決めんてんだよ!」
なんとも素晴らしい心がけ。否定しているがこの人はやっぱりプロなんだと再認識させられる。
「ところで……アレはどうするんですか?」
「あれ?」
「アレですよ。アレ」
丁度窓から下の方に見えるコンテナを指さす。
「アレ、此処に置いとくつもりですか?」
ニッコウ達が地球軍の依頼で取り返してきたコンテナ。昨日の親方との会話とアマギの来訪があっただけにどうも不気味でならない。
出来る事なら依頼失敗を装って何処へなりと捨ててしまいたいが聞いた話だと地球軍が明日の朝に取りに来るというし、無理そうだがせめて会社の外にでも置いといてもらいたい。それでどうこうなる訳じゃないが。
「残念だが無理だな」
当たり前だけど無理だった。
「どうしてもですか?」
「どうしても……俺も同じ事をあの二頭身に言ったが体裁的にダメなんだと」
くそっ!あの忌々しい二頭身め!元々他に落ちている体裁を気にしてる暇があるならもっと色々他にやる事があるだろうに……しかし参ったな。あのコンテナを見てると嫌な予感しかしないし、どうにかしたいんだよな。
わりと真剣に考え込む。すると親方もまた真剣な顔で俺に問いかけた。
「なぁ、アカリ。開かないコンテナって聞いた事あるか?」
「え?開かないコンテナですか?」
「ああ」
「うーん……いえ、聞き覚えがないですね」
俺はこんな立場上、噂話を人から聞く事なんてないに等しいし仕事で外に出た時も必要な話しかしないし皆無だ。
だからかこういった噂話なんかは物珍しいから興味がわく。
「そのコンテナは本当に何をしても開かないんですか?」
「ああ」
「戦車や爆弾でも?」
「ああ」
「もしかしてSDなんかでも?」
「勿論。それとだが開かないコンテナに切っても切れない噂が——」
「SDでも壊さないなんて凄い!そんな物があるなら実物を拝んでみたい!」
SDでも開かないとなると俄然興味がわく。材質はなんなのか?どうやったら開くのか?何より中身はなんなのかと。色々考えうきうきしていると親方は突然窓の方を指をさす。
「なんです?窓なんか指さして?」
「下」
「下って、なんな事ですか?」
「開かないコンテナだよ。下にある」
「本当ですか!何処!何処に!下の何処に置いてあるんですか!コンテナなんてさっき話してたアレしか——ん?」
窓に張り付いていた俺は離れると親方の方を見る。
「えーと……もしかして、アレの事なんですか?」
「そう。さっきまでどうにかならないかって話してたアレの事なんだよ」
「……なんか急に興味が削がれた気分です」
「その顔を見ればそうだろうな。ならこれを聞いたらもっと興味が削がれるだろうよ」
なら聞いたくない……でもコンテナがアレである以上は聞いといた方がいいような気もするよな……。
「……どうぞ」
「おう、さっき言いそびれたが開かないコンテナの話にはまだ続きがあってな……アレを持った奴等は本来の持ち主、つまりは地球軍な。連中意外の個人や団体がアレを持っちまうと災いが降りかかるんだ」
なんとまぁ、手紙やメールときてコンテナか。次は何になるなのやら。
「その災いは具体的と言うと?」
「全員死ぬ」
「……まじもんの災いじゃないですか」
大事じゃないと思い始めていたからか親方の言葉で俺は若干焦り始めた。
「え、これって実は嘘でしたとかドッキリ大成功ってオチとかは……」
「今もこんな真面目な顔で話してんのにあるに見えるか?」
「ですよね……」
親方は真剣な顔で話す時は本当に冗談は言わない。
アレを持っていたら死ぬか……呪い、とかはまずないと思うし、となるとアレを持ってる奴を殺そうとする何かがやって来るって事だよな。
心霊現象ならお手上げだが人間相手ならどうにかる。俺は早速訪れるであろう災いから生き残るべく親方に必要な話を聞いてみた。
「誰が俺達を殺しに?」
「わからん」
「いつ来るんですか?」
「わからん」
「助かる方法とかは?」
「わからん」
「……ふざけてます?」
「至って真面目だ」
どうやらどうしようもなく詰みのようだ。
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