第9話
「1機大破に2機は損傷大か……派手にやられたもんだな?猿組のエースさんよ」
「仕事は達成したんだ。これくらいの損害大したもんじゃねぇさ」
「これくらいねぇ……」
ニッコウのどうでもいいという態度に親方は明らかに機嫌を悪くしていた。
「お前は無傷だからいいかもしれないが壊れたこいつらを直す俺達は全然よくはねぇんだよ。それに大怪我した奴と死んじまった奴もな」
親方はそう言ってストレッチャーに乗せられた猿組の2人を見て悲しそうに目をふせる。
「お前はなんとも思わないのか?1人は大怪我でもう1人は死んでるんだぞ?それを見てお前は——」
「——弾除けどころか盾もまともに出来ない部下なんて跡形なく吹っ飛んじまえば良かったのに……残念でならねぇよ」
そのニッコウの言葉に親方は今にも殴りかかりそうな程に拳を握りニッコウに詰め寄る。
「てめぇ!それ本気で言ってんのか!?」
「勿論だとも!あ!冗談に聞こえた!悪い悪い!じゃあ分かりやすく言ってやるよ!使えないゴミなんて死ねばよかったんだよ!」
「っ……クソ野郎が!!」
ブチ切れた親方はニッコウに殴り掛かる。
しかしそんな事をすればニッコウは嬉々として親方を殺すだろう。
それが分かっている鳥組面々は慌てて親方、そして同じくブチ切れ殴り掛かろうとするアルマを押さえる。だが親方だけは止めるのが間に合わず拳が伸びニッコウは待ってたとばかりナイフを取り出しカウンター狙いで親方の首を切ろうとしている。
様子見をしてる訳にもいかず俺は2階から飛び降り2人の間に割って入る。
「「——!?」」
突如割って入り驚く2人。
俺はニッコウのナイフを腕輪で叩き折りその後親方にわざとぶつかって押し戻し拳が当てられないギリギリの距離へ。
これにて惨劇は無事回避された。
「ア、アカリ……」
「へぇ……」
格納庫に居る全員の視線が俺に集まる。
「そこまで」
「っ……だが!」
「親方」
「!」
「分かってるでしょう?あのまま俺が割って入ってなかったら殺されてた」
「っ……」
親方は自分の足元に落ちている折れたナイフを見て言葉を飲み込んだ。
親方はとりあえずこれでいいだろう。問題は……。
「仕事終わりに会いに来てくれ嬉しいんだがよ……どういうつもりだ?」
「会いに来たつもりはない。ただ結果的にそうなっただけだ」
「照れるなよ。それで、どういうつもりなんだ?折角の良いところで邪魔するなんてよ」
「親方を殺す気だっただろう?だから止めた」
「俺だっておっさんに殺されるところだったんだ。こういう場合正当防衛だろ?」
「手を出させる様に挑発した奴が被害者面で正当防衛だってほぞくのは違うんじゃないのか?」
ニッコウはバレたかという風にニヤリと笑うと折れたナイフを捨て新しいナイフを出す。
「そのナイフでなにをするつもりだ」
「当然今度こそおっさんを殺す」
やっぱりそうなるか……。
ニッコウが親方を挑発してたから殺す気なんだろうと分かっていた。だから俺は止めるために割って入った。止まる可能性はないのだろうと察しはついていても。
「いったい何が楽しくて人を殺したがる?」
「楽しいからだ。殺し殺され命を奪う奪われるの緊張感。あぁ……考えただけでたまんねぇよ」
ニッコウは体を震わせ顔を高揚させる。
これだから本物は……。
ニッコウは俺と違い生粋の人殺し好き。
殺しに確固たる理由も覚悟もなく自身の快楽のためだけに命を奪う。
「なにひとつ理解出来ないな。なんでそこまで殺しを……人の命を奪う事を楽しめる?」
「理解出来ないだって?そんな筈ないだろう?」
ニッコウはナイフの刃先を俺に向ける。
「お前は俺が本心から尊敬しちまうくらい強い。そんなお前が殺しを楽しいと思ってない筈ないんだよ。俺や他の誰よりも殺しを楽しんでるに決まってる。でなけりゃあこんな場所で何年も働いてる説明がつかねぇだろう?」
「は?」
最悪だ。まさか同類——いや、それ以上のクズだと思われてたなんて。
「……酷い勘違いだ」
「勘違い?」
「あぁ、それと此処に居る理由は戦う事以外にどんな仕事をしたらいいか分からないのとこの腕輪で自由を縛られてるせいでしかたなくだ」
戦うこと以外に俺に出来る仕事があってこの忌々しい腕輪がないのであれば直ぐにでも傭兵なんてやめている。
何故なら俺は——
「——俺は人殺しなんか大嫌いだ」
そう口にすると背後で黙って見ていた鳥組達が明らかに動揺した気配がする。
なんだよ今の反応は?もしかして俺がニッコウの言うように人殺し好きだとでも思っていたのか?いくら問題児と呼ばれていて腕輪の縛りがないと危ない奴だと印象があったとしてもイコールそれに合ったヤバい性格だと思われるのはあまりにも不満だ。
「……人殺しが、大嫌い?冗談だろ?」
そう口にしたニッコウ。しかし様子はさっきまでとは明らかに違う。不適な笑みは消え手に持つナイフの刃先は揺れている。
「本心だ」
「違う!」
「……この手で命を奪った感覚が今でも消えない……ふとした時に痛みに悶えて苦しんで、目から光をなくして死んでいった人達の顔を思い出しては頭から離れない……最低な気分だ」
「……っ、お前が、そんな腰抜けな事を言うんじゃねぇ!!」
そう叫んでニッコウは怒りに任せてナイフを俺の顔面目掛けて投げた。
俺とニッコウの間合いはおよそ5メートルの近距離。動揺しているとはいえ軌道にズレがない以上は必中不可避——だから俺は飛んできたナイフを腕輪を使って慌てず叩き落とした。
「……これだけ言って尚も親方をやるって言うなら正当防衛を行使して俺が相手になる」
「!」
「ただし命は取らない。これは仕事じゃないんだ」
「……は?」
「そこにどんな大義名分があっても人の命は奪って良いものじゃないんだ。だから俺はどんな理由があってもお前を殺さない……ただ暫く動けない様に両手両足の骨くらいは折らせてもらう」
そう本気で宣言し数分ほど俺とニッコウは睨み合った。
だがどういう訳かさっきまで怒っていたニッコウは血の気が引いた様に冷めた目を俺に向けると格納庫から黙って去って行ったのであった。
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