第8話

 アマギに同伴する仕事が特に何もなく終わった。その翌日俺は久しぶりに格納庫裏で空を見上げていた。

 

 いつもは仕事仕事なのに昨日、アマギの脅しじみた言葉のせいか社長は今日俺に仕事を回さなかった。よっぽどアマギ……いや、地球軍を警戒してる様だ。


「まぁ、俺としてはラッキーだよな。嫌な事をせずこうやってただ風を感じて空を眺めてられるのは」


 頬を撫でる1月の冷たい風にいつ通りの厚いに雲に覆われた空。だがなんの気まぐれか今日は雲の切れ間からほんの少しだけ陽の光が差し込んで心地いい。


「……ずるいな」

「こんな所でなにしてんの?」

「!」


 声のする方を向くとコーヒーカップ片手にアルマが立っていた。


 やっば、今の聞かれたか?だったら誤魔化さないと。


「……アルマこそ何してるんだよ?9時だし仕事中の筈だろ?」

「私は偉いから雑務は下っ端に任せてていいのよ」

「パワハラ」

「断じて違う。会社自体はそうであっても私の部署はパワハラもモラハラもないアットホームな職場だから」

「と言うが実はこの前鳥組の誰とは言わないけどアルマの事をパワハラ上司って口走ってる奴がいるって言ったらどうする?」

「仕事量プラスに減給」

「ど畜生だな」


 そんな他愛の会話をしつつ早々に仕事に戻れと思っているとアルマは俺の横に腰を下ろした。


「それでどうしたの?」


 座りやがった!くそ!わ、話題!別の話題を……!


「……お、俺さ、今日仕事ないんだよ」

「見た感じそうでしょうね。そう言えばなんで?」

「多分だけど昨日来た地球軍の奴を警戒してなんだろうな。どうも俺を含めた知られたくない事を色々知られたみたいだし」

「……思ったより早かったわね」

「ん?どういう意味だよそれ?」

「やましい隠し事なんて長続きしないって事よ」

「?」


 アルマは中身が半分ほど減ったコーヒーカップを俺に渡す。


 飲んでいいって事だろうか?まぁ、くれるんなら遠慮なく貰うけど。


「それでなにがずるいの?」

「っ……!?」


 口の中のコーヒーを勢い良く噴き出す。


 くそっ、やっぱり聞いてたのか。


 俺は口を拭うと黙ってその場から逃げようとする。だがアルマは俺の手を握って引き止める。


 話すまで手を離してはくれそうにないか……はぁ、こんな時上手い嘘が言えたならら良かったんだけどな……。


「……空は俺と違って誰にも縛られず自由だ。だからずるいって言っちゃったんだよ」


 チラリと横目で隣に座るアルマは見るとやはり泣いていた。


「はぁ……また泣いてる」

「っ、な、泣いてない!」

「こうなるのが分かってたから言いたくなかったのに……自分の事じゃないのに自分のことの様に感情移入するのは悪い癖だぞ」

「っ!う、うるさい!」


 アルマは慌てて泣き顔を膝にうずめる。


 このままこの場を離れるのはあまりにも薄情だよな。一応俺の責任でもあるし。


「まったく、しょうがない友達だよお前は」


 俺はうずくまったアルマに肩が触れるか触れないくらい体を寄せ胡座をかいて座るとアルマは俺の膝の上に倒れ込んだ。俗にいう膝枕の状態だ。


「泣き虫。どれくらいで立ち直れそう」

「泣き虫じゃない……30分くらい」

「ちょっと長いな。あと20分もしたらニッコウ達が帰ってくるから直ぐに仕事しないとダメだろう?」

「……頑張って20分で立ち直る……だからそれまではもう少しこのままで……」

「わかった」


 それからの20分はあっという間だった。

 まるで子供をあやす様に心地いい陽の光浴び少し冷たい位になった風に揺られ膝の上でひとしきり泣いて立ち直ったアルマは格納庫へと走って行った。


 その後しばらくするとニッコウ達のSDが帰って来たのが音で分かり俺もそろそろ中に入る事にした。ただし仕事中であろう鳥組面々の邪魔にならない様に格納庫の非常口を経由して。


 その道中の事だ。


「ん?」


 俺は窓越しに格納庫内にボロボロのSDと見覚えのない一台のコンテナの前でなにやら激しく口論する親方とニッコウの姿を見て足を止めた。

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