第7話

 入ってきたのは血のように赤い髪にすらっとした体型をしたモデルの様に見た目の良い男だった。


 だが俺の目を引いたのは男の着ている服。それは紛う事なき地球軍の軍服だ。


「今回の仕事の依頼人である地球軍の大佐殿だ」


 社長がそう言うと男は俺を見てにこやかに笑い頭を下げるから俺は慌てて頭を下げた。


 地球軍?しかも大佐だって?どうしてそんな大者がこんな場所に……。

 

 脳裏に親方との会話が過ぎり口は災いの元だと思った。


「名前は……えーと……」

「地球軍SD第1部隊部隊長アマギ大佐です。改めてお見知りおきを」

「お、おお!そうでした!アマギ大佐!いやぁ、こういう役職柄同じ所属でも色々な方の名前を覚えなくていけないのでスッと名前が出てこないんですよ!はっ…ははは!」

  

 そう言って引き攣りながら笑う社長だがそれを黙って見ているこっちはめちゃくちゃ心臓に悪い。


 おいおい、相手は地球軍の士官だぞ?なのにそんな態度、怒らせたら俺達皆殺しになる可能性だって……。


 アマギ大佐の反応が気になり横目で確認するとアマギ大佐は毛ほども気にした様子もなく笑っている。


「さて、簡単ながら私の自公紹介は済みました。なのでここからは時間を無駄にせずスムーズに仕事の話に移りましょう」


 そう言うとアマギ大佐は俺の方を向く。


「今日私は此処の視察を上司から依頼されていてね。その間ないとは思うが護衛を君にやってもらいたい」


 俺は黙って手を上げる。


「なにかな?」

「二つほど質問をしても?」

「ああ、かまわない」

「では……護衛がいるという事は何者かに命を?」

「別に狙われていないよ。ただ私の立場的に護衛なしだと色々面倒でね。部下を侍らすのも性に合わないし、ならその場で雇えばいいかという理由だよ」


 仲間とはいえ四六時中張り付かれるのが嫌なタイプ……いや、もしくは命を狙われてないってのは嘘で俺達の様な奴は使い捨てにしても困らないからって考えもなくもないな。


「二つめはなにかな?」

「……なぜ俺なんでしょうか?」

「と言うと?」

「護衛が必要なら俺なんかより適任である犬組がいます」

「ああ、歩兵部隊の」


 歩兵部隊の犬組。

 猿組と違いSDに乗らず身一つでゲリラ戦、諜報、暗殺、警護なんかの仕事を担う歩兵部隊。俺も似た様な事を1人でやっているが警護なんて経験もないし向いてない。


「先にも言った通り私は別に誰かに狙われているという訳ではない。だから護衛に何かを期待してはいない」

「ならどうして?」


 アマギ大佐は俺を指さす。


「君ですよ。私は此処で最強の君に興味がある」


 その言葉が呟かれた瞬間大きな物音をたてて社長が椅子から立ち上がる。顔から滝の様に汗を流しながら。


 社長の反応はまぁ、仕方ないとも言える。何故ならこの会社で俺の存在は社長が何故か徹底的に隠蔽し対外的に存在しないも同然……なのにアマギ大佐は俺個人を指名した。ありえない事態だ。


「この程度の情報を知るなんて容易い事ですよ。勿論表沙汰に出来ない情報も」


 そう言ってアマギ大佐は社長に笑いかけると社長は顔を青くし椅子に腰を落とした。


 これはどういう事だ?脅し?それとも最後通告か……いや、どっちにしろこんな展開になった以上俺はアマギ大佐に対してYESマンになるしかない……いや、それは最初からか。


「……護衛の依頼お引き受けします」

「物分かりがいいですね。では時間も勿体無いですし早速同行をお願いしましょう。ペットショップの問題児くん」


 そう言ってアマギは早々に社長室から退室し俺は後について行くのであった。




 アマギの視察は何事もなく終わった。

 

 ペットショップを後にしたアマギは車の中で今日の事を思い出してつまらなそうにため息を吐く。


「まったくつまらない。あの社長のつまらなさもそうだが兵隊も三流以下。時間の無駄もいいところだ。この感じだとSD乗りの猿組というのも大した事なさそうだし上の報告は『明日の作戦開始に支障なし』っと、これでよし」


 片手でケータイを操作しメールを送信するとケータイを助手席に放る。


「さて、これで面倒な仕事も済んだしとっとと帰って研究の続きをするとしよう」


 アクセルをさらに強く踏み込もうとしたその瞬間アマギはふと思い出す。


「あぁー、でも彼だけは中々に面白かったな……ふふ、問題児か。言い得て妙だな」


 アマギはアカリとの会話を思い出す。

 いつから傭兵をやっているのか。どうして問題児などと呼ばれているのか。好きな事はなんで嫌いな事はなにか。


「あの連中から見たら過去の問題行為故の呼び名なのだろうが。事実彼は問題児だ。あそこの誰よりも強く誰よりも壊れていた」


 考えれば考えるほどアマギは楽しく胸が弾む。


 最近面白い事がなかった事も原因なのかアマギの中でペットショップの中に居たアカリの存在はさながら豚の群れに紛れたライオンの様で面白く仕方ない。

 

「あぁー、資料だけ見て興味本位で案内役をさせたがこんな事ならこっちに引き抜けばよかった。このままだと——ん」


 放り投げたケータイから着信音が鳴りアマギは手に取り画面を確認すると苦笑いを浮かべてケータイを再度放り投げた。


「残念……ないに等しいが再開出来る事を願う事にしよう」


 そう口にした直後メールの画面が開いたままだったアマギのケータイの画面が時間経過で消える。



『調査ご苦労。Sコンテナがペットショップに到着確認がとれ次第予定時刻に殲滅を開始する』

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