第6話

「はぁ……行くのやだな」


 社長の元へ向かう俺の足はとてつもなく重い。こうやって呼び出されて良い思いをした事なんてただの一度もないからだ。


 嫌なら適当な理由を作って逃げたらいいんだろうけど、それが許されないんだよな……俺の場合。


「——お待ちしていました」


 社長室前に立っている秘書の女が礼儀正しくお辞儀する。しかし目からは俺を見下しているのが丸分かりだ。


「社長は中ですか?」

「いえ、只今大事なお客様がいらっしゃっておりロビーで対応中です」


 目に感情が出るのをどうにかしたら良い秘書なんだろうな……ま、思ったところで意味ないよな。


「なら俺は一度自室に戻った方が?」

「いえ、社長室でお待ちになっていてほしいとの事です」

「……そうですか」

 

 はぁ、やっぱりそうなるのか。


 秘書に促され社長室へ入ると思わず顔が引き攣る。


 部屋の中には金のまねき猫、金閣寺の置き物、金のピラミッド、ゴールドライ⚪︎⚪︎、キング⚪︎⚪︎⚪︎、カネ⚪︎ン、などなどどこを見ても金色だらけだ。


「金色は縁起が良いと云うらしいけど度が過ぎるんだよな」


 金色まみれの部屋の中央で待つこと数分後、部屋の扉が開き2頭身小太りの金ピカスーツを着たハゲの男社長が戻って来た。


 俺は黙って頭を深々と下げる。すると社長は不満げに鼻を鳴らす。


「妙に獣臭いと思ったら儂の部屋に猛獣が1匹勝手に入り込んでいるようだな?」


 そう言って社長は室内にあった金の傘の持ち手で俺の頭を叩く。


 いってぇ……でも、声に出すと面倒だ。耐えろ俺。


「誰の許しで部屋に入った?」

「……秘書に言われました」

「ほーう、秘書が?」


 社長は自分の後ろに控える秘書の方を向く。


「この猛獣の言っている事は本当か?」

「はて、記憶にございません?」

「そうだろうそうだろう。まったく下らん嘘をつきおって……頭を上げろ」


 言われた通り頭を上げる。すると俺を見る社長と秘書は共に口元を吊り上げていた。


 はぁ……やっぱりこうなるのか。


 何が起こるのか察した俺は歯を食いしばる。


「仕置きだ」


 社長はポケットから趣味の悪い金色のリモコンを取り出しスイッチを押した次の瞬間腕輪から電流が流れ俺の全身を駆け巡った。


「っ……があああああああああああああ!!」


 命令を破らない限り作動しない腕輪。

 しかし社長の持つリモコンの操作一つで自由自在に電流を流す事が出来る。今の様に殺さない威力に設定してなぶる様なことも。


「——よし、満足だ」


 言葉通りスッキリした顔をして社長は電流を止めると俺は立ってられず両手両膝を床につく。


「おーおー苦しそうだな?でも悪く思うなよ?お前の様な問題児はこうやって定期的に躾をしないと主人を忘れて噛みつく恐れがある。これは必要な処置なんだよ?分かるだろう?」


 心底楽しそうに語る社長に俺は頭を下げながら歯を食いしばる。


 この場所に呼び出される度こうだ。

 なにかと理由をつけて罰だ躾だと言って楽しそうに電流を流しては俺の苦しむ姿を見て楽しむ。


「そら、さっさと立て。仕事の話だ」

「っ……」

「なんだ?まさか儂の命令が聞けないのか?しかたない。もう少し躾をが必要だな」

「——まっ!あああああああああああ!!」

 

 再度電流が流される。しかも今度は最初より強く長かった。


「——おっとと、つい楽しくて加減を間違っちまった……おっ、全く動かんが立ったまま死んだか?」

「いえ、生きています。ただ単に耐えているだけのようです」


 今度は意地でも倒れない。

 倒れて起き上がれないから電流を流すって言うならもう倒れなければいい……もしそれが気に入らずまた電流を流すっていうならそれも意地で耐えてやる。これ以上このクソ野郎に楽しそうな顔をさせてやらない……!


「……つまらん。仕事の話だ。今からお前にはある人物を護衛してもらう」


 社長は少し後ずさりながらそう口にした。


「……護衛?」

「喋る元気まであるか……不満でもあるのか?」

「……ありません。ただ、何故俺なのかと」

「儂も知らん」

「は?」


 訳の分からない事を言う社長に意味を聞こうとするがそれより早く社長は秘書に言って部屋の扉を開けさせた。


「詳しい説明は儂ではなく依頼主様の口から直接聞くといい」


 そう言われ開いた扉の方を振り向くと丁度秘書に招かれ依頼主が入って来た。

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