第3話
自室へ辿り着いた俺は建て付けが悪い扉を引き中へ入る。すると中は家具の一切がなくあるのは潰れ穴の空いた段ボール箱に床一面に雪の様に敷き詰められた古い経営資料のみ。
「自分の部屋ながらほんと人の寝泊まりする場所とは思えない場所だな。まぁ元々は物置部屋で掃除もしてないから仕方ないけど」
そう口にしながら俺は雪の様に積もっている紙の上に倒れ込んだ。
「はぁ……疲れた」
心身共に限界でもの凄い眠気が襲う。
紙の中に手を突っ込んで毛布を引っ張り出してくるまると目を閉じその眠気を素直に受け入れた。
せめて夢の中くらいは幸せな夢が見れればいいな——
「——アカリ!」
突然の大きな音と大声に旅立ちかけていた意識が引き戻されてしまった。
目を開け体を起こすと作業着を腰に巻きタンクトップを着た褐色の肌の短い赤毛の女が息を切らし倒れた扉の上に立っていた。
「またドアを壊して……なんだよアルマ。そんな慌てて——」
「バカやろう!帰って来たらいつも私の所に顔を出せって言ってるでしょう!」
飛びかかる様にアルマは俺の胸ぐらを手を伸ばし掴み上げる。
「あー、ごめん疲れてて忘れてた……え、なに?泣いてんの?」
「っ、泣いてない!」
否定しているがアルマの目にははっきりと涙が溜まっているのが見えた。
「泣き虫」
「だから泣いてないって言ってるでしょう!それと忘れてたじゃないわよ!毎回毎回忘れるなって言ってるのに!」
涙を拭いてアルマは俺の首根っこを引っ掴むと引きずって部屋から移動する。
「今日は疲れたから勘弁してくれよ。それに俺が無事なのは今確認出来たんだからわざわざ連れて行く必要ないだろう?」
「ダメ!そう言って前に服の下血まみれで私達が手当したのを忘れた訳じゃないでしょう!だから今回もその可能性を考慮して連れて行く!」
「はぁ、分かったよ。まったく心配性だな」
前科があるため渋々折れた……が、しかし俺は少しばかりアルマの様子に疑問を感じていた。
心配性で泣き虫なのはいつもの事だけれども首根っこを引っ掴んでまで連行なんて今日は強引すぎる。なにか理由でもあるのか?
理由を尋ねてみた。
「アンタの仕事内容を聞いたからよ」
「仕事内容?それってテロリストの殲滅だろ?よくある仕事じゃないか?」
「そうね。でも場所が地球軍の兵器工場でテロリストの目的がSDだったって事よ」
「ふむふむ……それで?」
「つまりアンタは下手をしたら人間だけじゃなくてSDとも戦わないといけない可能性があったって事でしょう?SDに乗ることが許されてないアンタが1人で」
なるほど。結局な話、さっきの前科同様に俺が悪いのが原因か……はぁ、我ながら情け無い話だ。心配するなと言った奴から次から次に心配になる話が出てくるんだから。
その後俺達は目的の場所格納庫に着いた。
鉄と油に火薬の匂いに満ちアルマと同じ作業着を着た者達がせっせと手を動かし走り声が飛び交うそこはアルマが所属する鳥組であるメカニックマン達の仕事場、兵器格納庫。
「今日も此処は賑やかだな」
「云うなれば此処は私達メカニックマンにとっての戦場なんだから当然よ」
「ま、確かに——お」
アルマに連れられて仕事の邪魔にならないように壁沿い歩いているとSDが5機が動いている事に気がつく。
「あれニッコウ達?」
「うん。猿組が今から仕事らしいわよ」
「そういえばそんな事を言ってたな……仕事の内容は?」
「詳しくは聞いてない。ただ地球軍からの直々の仕事だとかくらいの事しか」
「ふーん、地球軍の……」
そういえば俺がやったのも地球軍からの依頼だったな。何を思って地球軍がうちに依頼するのか……まあ、金儲けが大好きなあの社長ならなにも気にせず請け負ってるのが容易に想像出来るな。
格納庫のシャッターが開きSDが出撃していくのを見送っていると警報が鳴り響く。
「あー、今日は日本に降って来るんだ」
アルマは慌てる事なくうんざりとした様子で言う。そして周囲のメカニックマン達も反応もやれやれ今日も来たかといった様子だ。
因みに俺は今朝終えた仕事先でテロリスト共がその話をしていたのを聞いたから予め知っていたから反応はゼロに等しい。
「あ、来た」
SDが出て行った後のシャッターが閉じる最中、隙間から雲を吹き飛ばし降下する光が見えた。
「いち、にい、さん…4個か」
空から降ってくるその光は星。
偶然なのではなく故意に降らされた人の命を奪うための。
シャッターは閉じて星が見えなくなると天井の上を何かが猛スピードで飛んで行く音が聞こえたかと思うと数秒後遠くで幾つもの爆発音がし建物を震わす。
「地球軍が隕石弾の迎撃に成功したみたいだ。めでたしめでたし……とは中々いかないよな」
ポケットから端末を取り出しネットで隕石弾の被害を検索すると最新情報が出ていた。
『日本に落ちたムーンクラウンの隕石弾の迎撃に無事成功。しかし破片により周辺地域に被害あり』と。
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