第8話 2つの人格

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━少しだけ時間を遡ろう。


 真耶と神と悪魔の戦闘が始まってから2分くらい経った時……


「コメントが荒れ荒れだね。皆真耶を倒せって言ってる」


「やっぱりダメだったか……」


「こうなったら我らはどうする?」


「「「……」」」


 玄翔の問にその場の全員が黙りこむ。しかし、その時事件は起きた。


「……なぁ、何で俺達あの男の仲間になってんだ?」


 突如光がそんなことを言い出した。


「え?それって……だって、真耶は仲間でしょ」


 モルドレッドは少しだけ戸惑いながらそう言うが、光は少し首を傾げて言ってきた。


「仲間?どう見てもアイツは敵だろ。もしかして、お前もアイツの仲間なのか?」


 光はそう言って攻撃できるように構えた。


「っ!?そんな……!彩音さん!玄翔くん!光くんが洗脳されちゃっ……た……」


 見ると、彩音と玄翔も戦闘態勢をとっていた。玄翔に関しては崩壊領域ゼロレギオンを展開している。


「お前さっきから何言ってんだ?私達はヒーローでお前らは敵だろ」


 彩音はそう言って少し離れ、カメラを向ける。それは、真耶が予備で置いていたカメラだ。


「”シフトチェンジ3速”」


 突如光が攻撃してきた。モルドレッドは何とかその一撃を防ぐがそのまま蹴り飛ばされてしまう。


「きゃあっ!」


 モルドレッドは情けない声を上げながら地面に倒れ込んだ。そして、上を見あげる。すると、既に光がかかと落としの体制に入っていた。


「まずい……!”ディスアセンブル砲”」


 モルドレッドは咄嗟に足元にディスアセンブル砲を使う。すると、足元は崩れ落ち1つ下の階へ落ちる。


 モルドレッドはそこで素早く起き上がると窓に向かって走り出した。後ろには既に光が居る。モルドレッドは何とか追いつかれないよう窓をぶち破って外に出た。そして、空に浮き上がり真耶の元へと逃げた。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━そして今……


 モルドレッドの目の前で、今ここでそれが起こってはいけない最悪のことが起きた。


 それは、限界が来るということ。何事にも限界はある。その限界を超えれば一時的に行っていたことは出来なくなる。


 なんと、今モルドレッドの目の前で戦っていた真耶に限界が来たのだ。真耶は情報量の多さに頭がついて行かず右手の力が抜ける。そのせいでリーゾニアスを握れなくなり落としてしまった。


 神と悪魔はその隙を見逃さない。即座に傷を治し攻撃してくる。


「”ジャッジメントバスター”」


 2人がそう唱えた瞬間真耶に向かって黒と黄色の光を放つ光線が放たれる。真耶は咄嗟に結界を張り防ぐが、その勢いに負け、押されて地面に叩きつけられた。


 その勢いは地面に当たったところで止まることはなくそのままかなり遠くまで吹き飛ばされていく。そして、ビルのガラスの扉を突き破りフロントの中で壁にぶつかり止まった。


 バリィィィン!という音を立てながらガラスが飛び散った。真耶はその光景を薄れゆく意識の中見つめた。そして、目の前には2人の光る女と黒い闇に包まれた男がいる。


 さらに、その後ろから魔法をはなとうとしている女の子がいた。


「……やめ……ろ……。モルドレッド……」


 そして、真耶の意識は暗闇の中へ囚われた。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……真耶は暗闇で目を開いた。


 その刹那、周りが一瞬光に包まれる。そして、気がつけば目の前に1人の男が立っていた。その男は、真耶と姿形がそっくりで、雰囲気も剣も何もかも似ている。


 その男は真耶の姿を見つめると振り返りどこかへ歩き出した。そして、手招きをする。


「来いってことか……」


 真耶はその男の後ろからついて行く。すると、周りの景色はどんどん変わっていき、今や小川が流れる原っぱだ。


 ところどころに見たこともないような花が生えている。


「なぁ、ここは……っ!?」


 周りを見渡してその男の方向を見つめると、誰もいなかった。不思議に思って周りを見渡したが、どこにも居ない。


「……」


 真耶は不思議に思いながらも歩き出した。なぜか、このまま真っ直ぐ行かなければならない気がしたからだ。そんな思いに駆られながら真耶は歩き続けた。


 ザッ……ザッ……ザッ……


 その空間には真耶の足音だけが響く。その音はまるで、草達の合唱のようだ。


「……あ」


 歩いていると、小島のようなところに家が建っているのが見えた。しかし、その小島には行けそうには無い。


「どこかに橋があるのか?」


 真耶はそんなことを思いながら限界まで近づこうと歩く。そして、ギリギリのところまで来た。ここより先は、湖の中を泳がなくてはならない。


「ジャンプで……いや、やめておこう。恐らくどこかに橋かなにかがあるはずだ」


 真耶はそう言って周りを見渡す。すると、少し離れた場所にハンドルが着いたなにかの機会があった。真耶はそのハンドルを回す。すると、橋が現れた。


「……」


 真耶は少し考え事をして橋を渡り始めた。そして、何事もなく小島の上まで来る。


「……」


 コンコン……


 家のドアをノックした。すると、鍵が開けられる音がする。真耶はそのドアに手をかけ開けた。すると、中には真耶にそっくりの人がいる。


「……」


「……」


「……」


「……遅かったな」


「……お前が早すぎるだけだ。お前と俺が分離されれば、俺の実力はそこまで無い。お前もわかってるはずだろ?なぁ、ケイオス」


 真耶はそう言って家の中にあった椅子に座った。


 そう、真耶をここまで導いた真耶にそっくりの男はケイオス・レヴ・マルディアスだったのだ。


 そして、そこで真耶は理解する。この空間は真耶の精神世界なんだと。


「精神世界か……」


「いや、正確に言えば違う。ここは生と死の狭間の精神世界だ。お前は今死にかけている。いや、お前じゃない。お前の妻のモルドレッドが死にかけている。真耶、お前はそんなモルドレッドの死に向かう運命を肩代わりしているのだ。それも無意識にな」


「っ!?」


 ケイオスはいきなり訳の分からないことを言う。真耶がモルドレッドの死の運命を肩代わりしている。それは、真耶がモルドレッドの代わりに死ぬということ。


「俺の死が近づいている……。いや、待て。なぜモルドレッドが戦っている?」


「……あの後、お前が気絶した後にモルドレッドが後ろから攻撃をした。しかし、それは全て避けられ今ボコボコにやられている」


「早く行って助けろってか?」


「いや、違うな。俺がお前をここまで連れてきたのには理由がある。まず最初に、このケイオス・レヴ・マルディアスの体の中には2つの人格がある。それは分かるな?」


「あぁ。俺とお前だろ?」


「そうだ。そして、この体の主導権は基本的に俺が握っている」


「そうだな。別に俺は体の主導権なんか握る必要が無いからな」


「フッ、お前は優しいやつだよ。それでだが、この体には2つの人格があって基本的に俺が主導権を握っているのだが、今回あの魔道具を使って異世界に来たせいでとあるバグが起こってしまったんだ」


 ケイオスはそう言った。真耶はその言葉を聞いて確信した。


「俺とお前が……ケイオスと真耶の人格が入れ替わったんだ。だが、入れ替わること自体はあまり気にすることでは無い。問題はだということだ」


 ケイオスはそう言った。その口から放たれた言葉は驚くべきものだった。真耶の人格は作られたものだと言うのだ。


「なんだ?驚かないのか?」


「まぁな。自分のことは自分がよくわかる。あの時俺は死んだ。だから、今の俺の人格はあの後お前が月城真耶の記憶を使って作った新しい人格だ。だから、戦闘センスが高い。本物の真耶はただの日本人のオタクなのにな」


「まぁ、それもお前がオタクだからということで済ませられるんだがな」


「いや、オタク万能すぎだろ。偏見すごいな」


 真耶はそんなことを言って笑う。ケイオスも、自分で言っておかしくなったのか笑い出す。


 だが、今は笑っている場合じゃない。モルドレッドが助けを求めているのだ。早く行かなければならない。


「こんなことしてる暇じゃないか……。ま、そんなこんなでイレギュラーだらけの現世界召喚になったってわけだ」


「そうだな。だが、少し気になることがある。この体の主導権が俺に切り替わったのなら、すぐに主導権を切り替え直せばよかっただろ。なんでしなかったんだ?」


「この世界に来たせいでお前に干渉できなくなってな。それに、神と悪魔によって異世界だけじゃなく精神世界とも干渉出来なくなった。だから、にいたんだよ」


「確かにな。ここが生と死の狭間の精神世界なら、俺がしに近づいた時ここに来れる」


「そういう事だ。だが、これでお前に干渉することも出来た。さぁ、俺と変われ」


 ケイオスはそう言って手を差し出してきた。この手を握れば主導権を切り替えられる。だが、何故だな握る気になれない。


 真耶はその手を見ながら言った。


「いや、これは俺が招いた種だ。ケジメは俺がつける」


「だが、この世界に来たのは俺のせいだ」


 真耶の言葉にケイオスが言った。しかし、真耶は首を横に振って言う。


「だが、この作戦を考えたのは俺だ」


「じゃあ、2人ともに原因があるのか」


「そうだな」


「なら、切り替えなければいい」


「……なるほどな。まぁ、それなら簡単だし、2人ともケジメをつけられる」


 ケイオスと真耶はそんな会話をする。そして、もう一度ケイオスが手を差し出してきた。


 真耶はその手を握ると不敵な笑みを浮かべる。ケイオスも同じように不敵な笑みを浮かべる。


「まさか、こんな時が来るとはな」


「本気で行くか?」


「決まってるだろ」


 2人はそんな会話をする。そして、怖いくらいに不敵な笑みを浮かべると言った。


「「「殺す気で行く」」」

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