第2話 宣戦布告
私の名前は
ゴホン、やり直して、私の名前はミツバ。今日からここ、
この学園は昨年創立されたばかりの学校で、何でも若者の政治参加率を上げるために創られたそうです。現在の被選挙権は最低でも25歳ですが、この学園を卒業した者だけ、20歳から被選挙権が与えられると法律が改正されました。
私は普通の学校でも良かったのですが、父がここへの入学を強く希望しました。どうやら、女性初の総理大臣を私にしたいらしいです。
私の父は現総理大臣であり、この学園を創ると言い出した張本人です。そして10年近くその座を他の者へと明け渡していません。
総理大臣の娘ということもあり、日頃からボディーガードがついていました。そんな生活に嫌々していたのですが、この学園に入学すればボディーガードはつけないと条件を出してきました。
そうであれば話は別です。お友達と何処かへ出掛けてもいつもボディーガードがいるのですもの。写真だって何枚か写りこんでしまっていますからね。
私はその条件を飲み、この学園に入学を決めました。
先程も述べた通り、この学園を卒業することが国会議員、強いては総理大臣になるための一番の近道なのです。
ですから、多くの子どもたちが(主に親が無理矢理です……)この学園を受験します。1年に180人しか合格者を出さないので倍率は100倍を優に超えます。
試験もいくつかあります。まず健康でなければ困りますので、病気などを抱えていれば問答無用で落とされます。長い間、国を引っ張っていく存在を作りたいのですから仕方がないことです。
そして次に筆記試験です。
試験内容は5教科+時事問題。単純な学力に加えて、どれだけ政治のことを勉強しているのかも審査の一部となります。
この試験で300人程度まで絞られ、最後に面接。
ここも自分の意見をしっかり言える人ではないといけないので、審査は厳しくありました。私もしっかり対策していなければ落ちていたかもしれません。
そうしてこれらの試験を乗り越えた180人が御座学園の生徒として、4月から頑張っていきます。
*
「私の名前は、
パチパチと私の自己紹介を聞いて拍手をしてくれるクラスメイト達。だけど、中には私のことを睨んでいる人たちもちらほらと。
それもそうでしょう。私が総理大臣の娘であることを知らない人はこの学園にいないはずがありません。私がこの学園に入学することは受験が始まる前からマスコミに取り上げられていましたから。
父とは別の派閥からすれば、娘の私が落ちることは父のイメージダウンにも繋がると、喜ばしいことなのでプレッシャーを与えてきたつもりだったのでしょう。
ですが、私にはその程度のプレッシャーは効きません。ボディーガードが必要なくらいには命を狙われていたことがあるのですから、今更マスコミに取り上げられたぐらいでダメージを受けるはずがないのに。ホントバカな人たち……
とはいえ、一部の過激派の人たちは裏口入学だと騒いでいるみたいですが、その人たちに私の成績を見せてあげたい。入学試験の筆記試験では600点中、597点と1問ミスだけでした。1問ミスをしたことは父に色々言われましたけど、この後、学年代表のスピーチを任されていますし、学年トップの成績だったのでしょう。
成績はあとで張り出されるみたいですし、それを見れば少しは疑いの目を向けている人たちも考えを改めてくれるに違いありません。
私が席に戻ると、今度は隣の子が教壇に立って自己紹介を始めました。
「わ、わたしの名前は
かわいい子だ~。先程まで警戒心を向けていた私の目はあの子に惹きつけられた。あのしどろもどろさでよく面接が受かったなぁとは思うけど、それを差し引いてもいいぐらい可愛い子です。ぜひとも仲良くしたい。
「よろしくね。
「っ、はい。よろしくお願いします、筒路さん」
う~ん、いきなり距離を詰めすぎたかな。嫌われたくはないし、少しずつ距離を詰めて行こう。
私が心奏ちゃんに話しかけていると、彼女の後ろにいた男の子が立ち上がった。
「僕の名前は、
眼鏡を掛けたパッとしない男子。覇気も全く感じないし、よく本の世界とかで出てくる陰キャみたいな感じだ。
「うわっ、」
まさにその陰キャ男子が私と心奏ちゃんの間を通り抜けようとしたときに、心奏ちゃんのバッグに躓いて転んでしまった。ドジなところもあるのか……、ドジっ子属性はキミじゃなく、心奏ちゃんにあって欲しいけど。
そんなことを考えつつも、私は優しく手を差し伸べる。
「大丈夫?」
「すみません」
顔を合わせられないようで、必死に謝る九重くん。それを見て笑うクラスの子たち。まぁこれだけあたふたしていたら、笑ってしまうのも無理はないよね。
私の手を取り立ち上がると、九重くんは慌てて私たちのバッグを拾い上げた。
「本当にすみません、2人のバッグを落としてしまって」
九重くんが転んだ拍子に、私と心奏ちゃんのバッグが掛けていたフックから落ちてしまったらしい。
「いいよいいよ、私がこっち側に掛けていたのが悪かったんですから」
「わたしも、壁側に掛けておくべきでした」
「いえ、僕が引っかかったのが悪かったので」
そう言って彼は落としてしまったバッグを私と心奏ちゃんに手渡す。面白そうな子たちだけど、2人とも人と話すの苦手そうだし、どうすれば良いかな……。
「俺の名前は日暮……」
その後も自己紹介は続きましたが、盛り上がっているクラスとは対照的に、私の周辺はとても静かでした。
*
入学式、新入生代表挨拶で事件が起こる。
「ご存じの通り、私は現総理大臣の娘です。だからと言って、私はそれを理由に甘えるつもりはありません。皆さんと同じ条件で戦い、首席で卒業するのが私の目標です。この学園初の総理になるのは私です。文句がある方は正々堂々挑んできてください。私は逃げも隠れもしませんから!」
講堂に静寂が訪れた―――
やってしまった……
コツコツと、壇上から席まで戻る私の足音だけが講堂に鳴り響く。
新入生代表挨拶として、あらかじめ用意していた台本を読んで、ここにいる人たちの心を掴むはずだった。けれど、同じ新入生の方を見て話しているうちに、『裏口』、『コネ』などの単語が聞こえ、私を嘲笑うような声が聞こえてきたので、ついムキになってしまった。あれじゃあ、私が描いていた学園生活が台無しだよ……
179人、いや2年生の人数も合わせればもっとかな。その生徒たちの前で、堂々とケンカを売ってしまった。こんなことになるのならボディーガードがついててもいいから普通の学校を選べば良かった……
その後のことは覚えていない。2年生が先輩としてありがたい話をしていてくれていたそうだが、私の耳には何も届かなかった。
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