第51話 もう、手遅れだろう


「ひぃいっ!!」

「まだ自分から悪事を包み隠さずに言ってくれたのならばどうにかなったのかも知れないというのに、最後まで隠し通そうとするそのくさった性根ではもう、手遅れだろう……」


 そして、ラインハルト陛下の圧にシュバルツ殿下は崩れ落ち、尻餅をついた状態で後ずさる。


 そんなシュバルツ殿下を見ながらラインハルト陛下はどこか悲しそうな声音で自らの子供に『手遅れ』だと言い放つではないか。


「ちょ、ちょっと待ってください父上っ!!」


 その陛下の言った『手遅れ』という意味を流石のシュバルツ殿下も何かを感じ取ったのか、縋りつこうとするも、その手を払いのけられる。


 その時のラインハルト陛下の表情は、一人の父親の表情から一国の王として表情へと切り替わっていた。


「誰かこの失礼極まりない平民を摘まみだせ」

「ち、父上っ!? やめろっ!! 離せっ!! 俺は王族であり王位継承権第一位の男だぞっ!! やめろと言っているだろうがっ!! 近衛兵風情が無礼だぞっ!!」

「誰が王族であると、王位継承権を持っていると名乗って良いと言った? 余は言ったはずである。『お主の望み通り廃嫡し、平民に落としてやる』と。当然王家の名を名乗る事も許さぬ。お主が名乗って良いのは『シュバルツ』という名前のみであり、これからは王族でも何でもなくただのシュバルツとして生きていく事だな」

「そ、そんな……父上……っ」

「次許可なく王族である等と言った戯言を口にした瞬間この平民の首を不敬罪として切り落としてかまわん。とうぜん抵抗するのならば殴ってでも城の外に摘まみだせ。とうぜんそこのアイリスという女性も同様にだ」


 国王陛下の命令によりシュバルツとアイリスは近衛兵によって城の外に摘まみだされるのだが、ヒステリックに叫ぶアイリスと違いさすがのシュバルツも実の父親からあそこまで言われては反抗する気も起きなかったらしく大人しく摘まみだされて行く。


「では、気を取り直してパーティーを再開しようと思うのだが、君たちに紹介したい者たちがいるので紹介しよう。余の親友である四宮総一郎、そしてその妻であるシャーリーを紹介しよう」


 そしてわたくしとソウイチロウ様は国王陛下に紹介され、それと同時にソウイチロウ様の悪い噂は本日消え去るであろう。


 それにしても、国王陛下が認めたソウイチロウ様の妻がわたくしであるという事が周知された事の方がわたくしにとっては大きかったと言えよう。


 流石のソウイチロウ様も、もうわたくしの事を『近所に住む女の子』の目線ではなくて『妻』として意識してくれる機会も増えてくるだろう。


 そして、国王陛下から紹介された後わたくしたち夫婦は貴族たちへ挨拶まわりをしながら酒のつまみ、特にビールに良く合うと『わさびーふ』を配り歩くのであった。

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