第48話 王族の顔に泥を塗っている





 先ほどのシュバルツ殿下とのいざこざから約二時間が経った頃、城に仕えている女性の使用人に準備ができたとの報告を受けたわたくしたちは、予め用意されていた休憩室から本日の会場である大広間へと移動する。


 すると既にシュバルツ殿下が大広間へと来ていたらしく、わたくしたちを睨みつけているものの、次の瞬間には、まるで勝ち誇ったかのような笑顔を向けて近づいて来るではないか。


「やぁやぁ、先ほどぶりだねぇ。しかしあれ程この俺をコケにしておいて良くここへ来られたな? 知らないとは思うんだけど、このあとこの大広間には俺の父上である国王陛下が訪れるんだよっ。それがどういう意味か分かるかい? まぁ分かっていたらあんな態度を俺に取る訳ないかっ! まぁ、もう謝ったって絶対に許してやらないけどなっ!!」


 そしてシュバルツ殿下はそう言うと『ゲラゲラ』と開けた口を隠しもせずに下品な笑い方をして去っていくではないか。


 その先にはアイリスがわたくしたちを見ながらニヤリと笑みを浮かべているのが視界に入ってくる。


 そんな二人を見てわたくしはお似合いのカップルだな、と心の底から思ってしまう。


「急な招集にも関わらず良く集まってくれたっ。今日集まってもらったのは他でもない。余の愚息であ──」

「父上っ!! あそこにいる異国風の服を着ている者は何者なのですかっ!? 城へ入る時に王族を馬鹿にするだけではなく挑発的な事を言う無礼な行為、俺は絶対に許せませんっ!! 当然不敬罪として罰があるとは思うのですが、どのような罰がよろしいでしょうかっ!?」


 多少のいざこざはあったものの、それ以外は何事もなく十五分ほど過ごしたところでラインハルト陛下が妻であるナターシャ妃と共に、大広間の最奥に大広間を見渡せるように少し高さを出して作られたステージのような場所に裏口から登場し、挨拶をするのだが、その挨拶をシュバルツ殿下が遮ってソウイチロウ様へ不敬罪を適用し、行使されるであろう罰について聞くではないか。


 いくら実父と言えども国王陛下の言葉を遮って良いわけが無いのだけれども、それすら分からない程シュバルツ殿下は教養が無いのか、知っているがそれ以上に自分が特別扱いされるべきだと思っているのか。どちらにせよ王族の顔に泥を塗っているのはシュバルツ殿下である。


 しかもそれだけではなく、国王陛下がシュバルツ殿下の話を聞く度に顔を真っ赤にしながら怒りの感情が高まっていくのを見て『俺の話を聞き、一緒にあのふざけた野郎に怒ってくれている』のだと勘違いしているのがその気持ちよさそうな表情を見て窺う事ができる。

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